電力高騰も増収増益のNTT、新たに8兆円投資--ドコモも増収増益、中・大容量プラン好調

 NTTは5月12日、2022年度通期決算を発表。売上高は前年度比8.1%増の13兆1362億円、営業利益は前年度比3.4%増の1兆8290億円と、増収増益の決算となった。

 同社の代表取締役社長である島田明氏は、同日に実施された決算説明会でその要因について説明。NTTドコモが政府主導による携帯料金引き下げの影響を大きく受けたものの、法人事業などの成長領域でそれをカバーするとともに、NTTデータが旺盛なデジタル化需要を取り込み大きな伸びを見せたことで、電気代高騰の影響を受けたNTT東日本、NTT西日本の落ち込みを抑え、好業績へと至っている。

決算説明会に登壇するNTT 代表取締役社長 島田明氏
決算説明会に登壇するNTT 代表取締役社長 島田明氏

 さらに、島田氏は2023年度の業績予想も公表。エネルギー事業で販売量の適正化に伴う電気通信収入の減少を受け、売上高は減収を見込むものの、グループ各社の営業利益は増益の見込み。ドコモの大容量プラン契約の拡大が見込めることや、通信障害影響などで遅れていたNTT西日本のコスト効率化が進むことなどを理由としている。

 その上で島田氏は、新しい中期経営計画について、基本方針は新たな価値創造と地球のサステナビリティのためNTTが成長し続けること、と説明。それゆえNTTグループ全体で今後成長分野への投資を大幅に拡大するとしており、具体的には5年間で約8兆円の投資を新たに追加するとのこと。既存分野への投資も含め12兆円の投資を進めるとともに、2027年度に向け成長のためのキャッシュ創出力を高めていくとしている。

NTTグループの今後の成長に向け、成長分野に対し5年間で約8兆円の投資を実施。既存分野への投資と合わせて12兆円を投資するとしている
NTTグループの今後の成長に向け、成長分野に対し5年間で約8兆円の投資を実施。既存分野への投資と合わせて12兆円を投資するとしている

 その取り組みの柱となるのは価値創出の部分であり、代表的な取り組みの1つとなるのが、NTTグループが注力する「IOWN」構想で実現を目指す光電融合デバイスの製造を担う新会社「NTTイノベーティブデバイス」を、300億円を投じて設立すること。それに加えて6Gを含むIOWNの研究開発全体のために2023年度は約1000億円を投資し、以降も継続的な投資を続けるとしている。

NTTグループが注力するIOWNに関しては、新たな取り組みとして光電融合デバイスの製造を担う「NTTイノベーティブデバイス」を約300億円出資して設立することを明らかにした
NTTグループが注力するIOWNに関しては、新たな取り組みとして光電融合デバイスの製造を担う「NTTイノベーティブデバイス」を約300億円出資して設立することを明らかにした

 島田氏によると、NTTイノベーティブデバイスは当面単独子会社として展開し、現在グループ内でハードウェア製造を担っているNTTエレクトロニクスも統合する方針とのこと。

 その理由について島田氏は、IOWNの次の世代となる「IOWN 2.0」で必要になる光電融合デバイスを作る所が現状存在しないこと、そして完全子会社とすることで意思決定がしやすいことを挙げており、NTT研究所が世界で初めて光電融合デバイスの研究開発をしたことから「私たちとして(デバイスを)作り上げていきたい希望がある」と話している。

 一方で、光電融合デバイスの製造を自社で担うのか、他社に委託しファブレスで展開していくかは、まだ決めていないと説明。とりわけ光電融合を半導体の内部まで取り込むには時間がかかることから、研究開発を進めながら製造のあり方を考えていくとしている。

ドコモ通信品質低下は「重く受け止める」--楽天モバイル新プランへの反応は

 一方、NTTの主要子会社であるドコモの2022年度通期決算も、売上高が前年度比3.2%増の6兆590億円、営業利益が前年度比2%増の1兆939億円と、増収増益を達成している。

 決算説明会に登壇した同社の代表取締役社長である井伊基之氏によると、携帯電話を主体としたコンシューマ通信事業は、料金引き下げや電気代高騰の影響を受けて減収減益となったものの、中・大容量プランの契約が拡大したことやコスト効率化で、影響をかなり抑えられたとのこと。

 また、成長領域と位置付ける法人事業は大企業向けの統合ソリューションの拡大、スマートライフ事業は金融・決済やマーケティング関連事業の成長によって、いずれも増収増益を達成している。

決算説明会に登壇するNTTドコモ 代表取締役社長 井伊基之氏
決算説明会に登壇するNTTドコモ 代表取締役社長 井伊基之氏

 井伊氏は、ドコモ単独での2023年度の業績予想についても、増収増益を見込むと説明。コンシューマ通信事業は引き続き料金引き下げ影響で減収を見込むものの、5Gの契約数を2023年度末には2820万にまで拡大し、それに伴い好調な中・大容量プランの利用をさらに増やすことで、減少が続いていたモバイルARPUを上昇に転じさせ増益に転じさせたいという。

5Gの契約数は2022年度の2060万から、2023年度末には2820万にまで引き上げ、それに伴う中・大容量プランの契約増によりモバイルARPUを反転させたいとしている
5Gの契約数は2022年度の2060万から、2023年度末には2820万にまで引き上げ、それに伴う中・大容量プランの契約増によりモバイルARPUを反転させたいとしている

 それに加えてジュニア層、若年層を中心としたセグメント別のサービスを強化して顧客獲得を強化するとともに、中・大容量プランの利用を増やすため、コンテンツとセットで契約することにより「dポイント」を還元する「爆アゲセレクション」の対象サービスの拡大といった取り組みも進めるとのことだ。

ジュニア層・若年層を主体にセグメント別でのサービス強化によって顧客獲得を進めると共に、「爆アゲセレクション」で中・大容量プランのさらなる強化も図っていくという
ジュニア層・若年層を主体にセグメント別でのサービス強化によって顧客獲得を進めると共に、「爆アゲセレクション」で中・大容量プランのさらなる強化も図っていくという

 2023年度は中大容量プランだけでなく、小容量プランの強化も図るという。この点について井伊氏は「これから激しい競争が続くと理解している。値段だけでは駄目だと思っている」と説明したが、具体的な策については「重量な戦略であり、あまり言えない」と答えるにとどまっている。

 サービスの基盤となるネットワークに関しては、今後5Gの実力を発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行など高度化を進める一方、インフラシェアリングの活用などにより投資効率化を進めていくとのこと。また、ドコモが培ってきたオープンRANの技術を海外の携帯電話会社に提供する取り組みも強化する方針で、この事業によって早期に100億円規模の収益化を目指すとしている。

 一方で、ドコモは2022年12月に発生させた通信障害や、ここ最近の都市部でのネットワーク品質低下などが問題視されている。そうした状況について井伊氏は「重く受け止める」と話すと共に、監視体制を装置毎からシステム全体にするなど運用体制の見直しを進めることや、5Gの整備が進むまでのチューニングによる通信品質改善を夏頃までに進めることなどを改めて説明した。

 通信品質の低下は通信量増加によるところが大きいが、井伊氏はその主な要因として「モバイル空間統計での最近の傾向として、10代が相当使っている」と、若い世代の屋外での動画利用が大きく影響していると説明。通信品質の低下を認識したのはSNSやウェブ上の顧客の声であったとのことで、「若い世代がかなり集中する場所があり、そこにきちんとネットワークの容量対策ができていなかったことが反省すべきこと」と話している。

 その5Gのネットワーク整備の進捗について、井伊氏は同社が主に5G向けの高い周波数帯を使って整備を始めていることから、他社よりエリア展開が遅れていると説明。「人口カバー率90%の達成に、今年度(2023年度)いっぱい必要という認識」だとしている。

 また、ネットワークの通信品質を巡っては、英国の調査会社であるOpensignalが実施した最新の5Gネットワーク品質調査で、ソフトバンクがドコモを上回ったことが話題となっている。井伊氏はこの点について、「具体的に数字を見ると、高いレベルで数点の差。この数点の差で勝った負けたを申し上げるのが本当にいいのか、というのが私の気持ち」とし、日本の携帯各社の通信品質が総じて高いとの認識を示している。

 ちなみにNTTの発表と同じ5月12日には、楽天モバイルがKDDIとローミング契約を延長したことにより、ローミングエリアでもデータ通信が使い放題になる新料金プラン「Rakuten最強プラン」を発表している。このプランと両社の契約について問われた井伊氏は「それが両社の判断であったと理解している」と回答、両社の動向を分析しながら「冷静に受け止めている」と答えるにとどめた。

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