部署横断で「宇宙プロジェクト」進める東京海上日動--「宇宙港」で注目の大分県と進む「宇宙×地方創生」の未来

 かつて宇宙は、例えば宇宙航空研究開発機構(JAXA)や衛星を開発する企業のような限定された組織だけがアクセスできる空間だった。しかし、現在宇宙は政府機関や衛星開発企業以外でもアクセスできる空間になっている。個人にも身近な空間にもなりつつある宇宙は今後、ビジネスの現場にもなりつつある。

 そうした背景から、東京海上日動火災保険(以下、東京海上)は2022年4月、部署横断で取り組む「宇宙プロジェクト」を始動した。

 同社は1970年代からロケットの打ち上げや人工衛星の運用など宇宙特有のリスクに保険商品を提供するとともにリスクコンサルティングを通じて国内の宇宙産業の成長や発展に貢献してきている。

 宇宙という空間を取り巻く環境の変化を踏まえ、宇宙保険のリーディングカンパニーとしてこれまでの専門性やノウハウを結集し、宇宙ビジネスに携わる個人や企業を支援するとともに宇宙を起点にした社会課題解決に貢献するために、保険に限らない新たな取り組みをスタートさせている。

 東京海上の宇宙プロジェクトは、宇宙保険を取り扱う部門やデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する部門、営業企画や開発、商品開発の部門、リスクコンサルティングを提供するグループ会社などで構成した社内横断のチームが中心となって取り組んでいる。具体的には、月面探査に提供を開始した「月保険」、衛星データを活用したサービスの構築、JAXAコンペへの参画、社内副業制度「プロジェクトリクエスト制度」による社員育成や関連企業担当者との連携などに取り組んでいる。

 東京海上は宇宙プロジェクトでさまざまな取り組みを進めているが、ここに来て「宇宙ビジネスを起点とした地方創生」として、「宇宙港」で注目されている大分県での取り組みも開始した。

 ここでは、社内副業制度「プロジェクトリクエスト制度」を活用して宇宙プロジェクトに参画している東京海上 大分支店 山本英佑氏にインタビューを実施。大分県で宇宙ビジネスを推進する一般社団法人おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC) 専務理事の高山信久氏にも同席いただき、大分県における宇宙ビジネスと地方創生の現状と展望について、掘り下げて聞いた。

すぐに太平洋が広がる大分空港(2022年8月撮影)
すぐに太平洋が広がる大分空港(2022年8月撮影)

大分空港が「宇宙港」に選ばれた理由

 Richard Branson氏が率いるVirginグループの米企業Virgin Orbitと大分県がパートナーシップを締結したのは、2020年4月のことだ。宇宙港の開設で宇宙ビジネスの振興を目指す、一般社団法人Space Port Japanが橋渡し役を務め、大分空港を宇宙港として活用すると発表した。大分空港は、大分県国東(くにさき)市にある国際空港で、沿岸海域の埋立地に造られた洋上空港。Virgin Orbitに宇宙港として選ばれた理由はこうだ。

一般社団法人 おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC) 理事 高山信久氏
一般社団法人 おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC) 専務理事 高山信久氏

 離着陸で求められる3000m級の滑走路を持っており、発着枠にも空きがある。東側と南側が海に面し、開けていることも好条件だ。もともと大分市が高度技術工業の集積地域であるというエリア特性上、部品供給などハードウェアやソフトウェアの面でもサポート体制を期待できるほか、大分市内は衣食住環境もよく、緊張感を緩めてくれる温泉は、エンジニアらの心身のメンテナンスにも最適だという。

 OSFCの高山氏は「県知事以外ほとんどの方にとって“青天の霹靂”だったのではないか」と、2020年当時を振り返る。「宇宙」という言葉が出ること自体なかったそうだ。

 しかし、Virgin Orbitとのパートナーシップを皮切りに、大分県は宇宙ビジネスの“機運醸成”に舵を切る。2020年9月には、内閣府と経済産業省による「宇宙ビジネス創出推進自治体」に、福岡県とともに選定された。

 2022年2年には、大分県、米Sierra Space、総合商社の兼松の3者で、パートナーシップを締結。Sierra Spaceが運用する宇宙輸送機「Dream Chaser」の着陸地として大分空港を利用可能かどうか検討することも始まっている。

 Virgin OrbitとSierra Spaceが大分空港に着目したことで、宇宙を起点にした経済効果は大分県全域に広まろうとしている。

なぜ、大分県の宇宙ビジネスは“熱い”のか

 宇宙港の取り組みは、北海道の大樹町、和歌山県の串本町、沖縄県の下地島でも始まっている。大分県で興味深いのは、大分県が自治体として、宇宙港を核に宇宙ビジネスを主導していることだ。

 「日本の国際空港を使って他国の企業が事業を行うのは、国内初となる。旅客機と同じ敷地内で、万が一とはいえ、爆発の危険を伴うロケットを積んだ飛行機が並走するというオペレーションも初めての試みだ。このため航空管制のほか輸出管理や情報セキュリティなど、さまざまな調整事項が発生する。宇宙港の実現には、管轄する自治体が国の関係省庁と連携しながら、法律整備など各種対応が必要であり粛々と進めている」(高山氏)

 2021年2月に設立されたOSFCの存在も大きい。聞けば、OSFCは、大分県の宇宙ビジネスの旗振り役である商工観光労働部 先端技術挑戦課と宇宙ビジネス創出に向けた連携の形を協議して、設立されたという。

 大分県は、2020年9月に内閣府と経済産業省が進める宇宙ビジネス創出推進自治体に選定されたが、先行する他の自治体とは異なる方向で進めてみようという発想から、OSFCは、民間主導で大分県内にある宇宙関係で新規ビジネスを志す企業や団体のまとめ役となり、新たな宇宙ビジネスの具現化を支援することを目指した。

 大分県が機運醸成や人材育成といった宇宙ビジネス創出の後押し、OSFCが実際の新規ビジネス創出と民間目線からの情報提供・相談対応など宇宙ビジネスを形にすることとし、官民での役割を分担して、宇宙港を核とした宇宙ビジネスと地方創生を推進している。

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