医療と海運は、低いネットワークレイテンシーが求められるため、5G接続から恩恵を得られる主要な分野だ。一方、これらの分野は、セキュリティリスクの上昇に備える必要もある。
近年はどこの業界でも企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めており、医療分野も例外ではない。実際、華為技術(ファーウェイ)の国際公共部門担当プレジデントであるXia Zun氏によると、大半の医療機関は基本的なデジタル化を完了し、現在は「深海域」に入っているという。
スペインのバルセロナで開催された「Mobile World Congress」(MWC)でメディア関係者らと言葉を交わしたZun氏は、5Gやモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、クラウドコンピューティングのような技術が出現し、医療工学と連携して医療分野でのイノベーションを推進している、と述べた。
業界団体のGSMアソシエーション(GSMA)は、エッジコンピューティングとIoT技術が5Gの機会をいっそう促進すると予想しており、12%の事業者がすでにプライベートワイヤレス製品およびサービスを提供している。GSMAによると、2023年にIoT導入が拡大する中で、そうした事業者は増える見込みだという。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、医療分野ではDXがさらに加速し、シンガポールの病院など一部の病院ではスマート医療技術の調査や実装をすでに開始していると同氏は述べた。とりわけ5Gは、医療分野で特に重要なネットワークレイテンシーの問題に対処できるため不可欠な役割を果たしているという。
ファーウェイは現在、そうした需要の開拓に目を向けており、この分野でのDXの取り組みを支援するサービスを提供している。具体的には、医療分野での4つのユースケースに対応する製品を明らかにしている。スマートホスピタルのICTインフラ、デジタル病理学、スマート病棟、医用光学イメージングである。
医療は、同社エンタープライズ部門内で最大の公共部門事業にとって重要なセクターの1つだ。現在も、全世界で2800を超える病院や医療研究機関にサービスを提供している。
例えば、同社が製造するデジタルイメージング製品は、画像処理の高速化、データライフサイクルの保護、3Dおよび4K高解像度での画像の再構成を目的に、ネットワーク、ストレージ、ビデオ会議の機能まで網羅している。病院の臨床診断や治療で使われるデータの70%は画像であることから、診断と治療の効率向上を図る狙いがある。ファーウェイによると、これらのデータはサイズが大きいため、閲覧する際にフリーズすることがあるという。
同社はスマート病棟で無線のIoTネットワークシステムを実現するために、5G、IoT、Wi-Fiも利用している。このサービスが、病院におけるネットワークの運用と維持費の削減につながるとしており、点滴の監視や人員の所在確認といった機能で患者の体験改善も期待できるという。
ファーウェイは、病理データを処理するために、同社の分散ストレージシステム「OceanStor Pacific」とロスレス圧縮技術の統合も進めている。ストレージ容量を30%低減するという同製品を使うことで、1000以上のスライスを「秒単位」で閲覧でき、リモートでの病理分析にも対応できる。同社の公共サービス産業担当グローバルチーフサイエンティスト、Hong-Eng Koh氏によると、分析効率が70%向上するという。
同社のストレージシステムには、ランサムウェア検出機能も組み込まれている、とKoh氏は話す。ランサムウェアの兆候がファームウェアによって検出されると、データのアップロードを停止できる仕組みだという。高速なデータ復元を実現するためにローカルストレージのスナップショットも使われており、エアギャップ測定によってデータが安全なエリアに隔離されるため、サービスの復旧が可能になる。
医療業界は、ランサムウェア攻撃の主な標的とされているため、このようなセキュリティ機能が不可欠だった、と同氏は話している。
データのバックアップも欠かせなかった、と記者会見で語ったのは、香港病院管理局のシステムマネージャー、Samuel Wai氏だ。
医療の分野では、IoT技術の採用が進み、オンラインデータの利用も増えていることから、攻撃対象領域が広がっている。その懸念にどう対処しているのかという問いに対して、Wai氏は、システムが侵害を受けた場合に、データを復旧できる能力が重要だと指摘した。つまり、常時データのバックアップを実行することが鍵ということだ。
香港では、家庭での医療の促進など、IoTへの取り組みの推進も目指しており、IoTデータを病院のデータベースに安全に転送する方法について評価が進められている、という点にも同氏は言及している。
しかし、現在ストレージベンダー各社で採用されているデータ規格が統一されていないため、事態は複雑さを増しているという。香港では、メッセージングのフォーマットを統一するために医療分野のデータ規格を確立することが検討されており、実現すれば、全土で採用されるかもしれないとWai氏は語る。
データ保護の方法についても評価が進んでおり、香港の通信関連企業と協力してプライベート5Gネットワークを展開する、VPNを使用するなど、さまざまな選択肢が模索されている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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