若手に伝えたい「3カ月で必ず結果を出す事業開発」のイロハ--スペックホルダー大野氏が語る

 ”共創の価値を最大化させる「組織・チーム・文化づくり」”をテーマに、事業を成功に導くチームづくりのヒントを大手企業からスタートアップ、自治体まで、様々なキーマンから話を聞くオンライン・セッション「CNET Japan Live 2023」が2月1日から2月28日にかけて開催された。

 2月8日の「『3カ月』で必ず結果を出す事業開発メソッド--大企業や自治体を巻き込むコツを紹介」と題したセッションでは、スペックホルダー代表取締役社長の大野泰敬氏が登壇した。


スペックホルダー代表取締役社長の大野泰敬氏(左下)

 複数の企業を経営する事業家兼投資家であり、朝日インタラクティブの戦略アドバイザーも務める大野氏は、ソフトバンクやCCCなどで新規事業の立ち上げなどを経験し、2012年に設立したスペックホルダーでは、ソフトバンク、NTT、トヨタ、ニチレイなどの大企業や、農林水産省、愛媛県などの自治体と共に、いずれも3カ月という期間で様々なプロジェクトを構築してきた。

これまでにサポートしてきた企業の一例
これまでにサポートしてきた企業の一例

 新規事業創出に特化し、課題解決に適したメンバーを外部から招集してプロジェクトチームを立ち上げるというスタイルで、社員は大野氏たった1人でありながら短期間で多くの成果をあげてきた。その裏側でどのようなことが行われているのか興味津々だが、話を聞くとその内容は意外なほどシンプルなものだった。

 どの企業もそうだが、何か新しいことをやりたい時は必ず予算や企画承認が必要になる。だが大野氏はそれらをこれまでに断られたことがないという。承認をもらう確率を上げるポイントの一つとして挙げたのが、「きちんとロジカルに分析したそれなりの資料を用意すること」である。

 「会社員時代も独立してからも同じだがとにかくしっかりデータを作り、課題を解決するための方法をロジカルに分析した比較資料を作ってプレゼンすることで取引先を拡大するということをずっとやってきました。ラジオ番組のレギュラーになったり出版したりしたのも運が良かったとかではなく、裏側で綿密に計算された上で実現したのです。」

 さらに事業で大切にしている5つのことを紹介した。1つ目の「データ」は1番大事なものであり、情報を知ることは企画の精度を上げるのに役立つと説明する。常に可能な限りありとあらゆる媒体を使って情報を全て調べており、無料で使える入門編ツールとして「Googleアラート」「Googleトレンド」「ラッコキーワード」などを紹介した。

 初級編で使っている情報媒体

会社名概要URL
Googleアラート企業や気になるキーワードなどを登録しておくと、ニュースやwebができたときにメールが飛んでくるサービス。抜け漏れなく指定した情報を把握することが可能です。URL
GoogleトレンドGoogleの検索データを分析して、特定のキーワードの人気度やトレンドを可視化するサービス。いつ何が伸びたのかを把握したり、比較表などを作成することが可能です。URL
BuzzSumoソーシャルメディア上のコンテンツのパフォーマンスを分析し、最も共有されているコンテンツを特定するツール。何がバズったのかを把握したり、ベンチマーク企業の属性は、どんなコンテンツに興味があるかなどを把握することが可能です。URL
Free vector iconsユーザーが自由に使用できるベクトル形式のアイコンを提供するサービス。相関図や資料などをわかりやすくするために使用するアイコンを、大きさ、色などを自由に変更可能で、資料作成の際に役に立ちます。URL
Unsplash高品質な著作権フリーの写真を無料で提供するサービス。高品質の写真を無制限にダウンロードすることが可能で、資料などに利用することが可能です。URL
Statista統計データを総合的に提供するサービス。市場データ、調査結果、予測など多岐にわたるデータを取り扱っており、事業計画書などの資料作成の際に非常に役に立ちます。URL
Similarwebウェブサイトのトラフィックやユーザー行動を分析するツール。他社のwebサイトの流入経由やPVなど、様々な情報が取得できます。URL
Wayback Machineインターネットの歴史的なスナップショットを保存、提供するサービス。過去他社がどんなことをしていたのかを探る的に有効的です。URL
キーワードプランナーGoogle AdWordsの一部で、キーワードの検索ボリュームや競合度を調査するためのツール。URL
Crunchbaseスタートアップ企業や投資家の情報を集約、提供するプラットフォームツール。投資情報やマーケットトレンドを把握可能で、企業研究・調査に最適です。URL
Perplexity AIAI関連の製品・サービスについての情報を提供するツール。AIに対して話しかけるだけで、市場規模などをソース元と一緒に教えてくれます。URL
データは最も大事であり収集するツールもいろいろ紹介された。
データは最も大事であり収集するツールもいろいろ紹介された。

 2つ目に大切なこととして「市場調査」があり、具体的には自社の情報を強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つで整理、分析する「SWOT分析」をはじめ、他社、業界、海外の情報を知ることで状況を把握し、事業の精度を上げることができるという。

自社についても客観的に整理して分析する。
自社についても客観的に整理して分析する。

  3つ目に「資料」があり、勝ちパターンのフレームワークとして起承転結で作る方法を紹介した。

 起:事業立案理由となる市場データ、他社情報、社会課題
 承:データを踏まえた上での事業・サービス案
 転:具体的な事業計画数値、実行計画、スケジュール等
 結:実施した場合にどんなことが待っているのか。

なぜその事業を考えるきっかけになったのか。様々な社会課題や市場調査データなどを踏まえて、それらを解決する手段として今回のサービス・事業があり、4つ目の「ビジネスモデル」は大手と組むときに最も意識していることであり、自分が持つアセットと交渉する相手が持つものを組み合わせて、圧倒的に業界でナンバーワンになれる絵をどんな状態でも考えるようにしていると話す。また、ビジネスモデルをちゃんと考えて誰からお金をどうもらうかを強く意識しており、他社の成功例も参考にしていると説明する。

ビジネスモデルを作る時は圧倒的ナンバーワンを目指す方が上手くいき、説得もできるという。
ビジネスモデルを作る時は圧倒的ナンバーワンを目指す方が上手くいき、説得もできるという。

 そして最後に必要なものに「情熱」があるという。「優れた事業計画書や資料を作るだけでは血が通わないので、人の心を動かしてこの人に賭けてみようと思わせるには深みを持たせる必要があります。そこにはやはりデータが必要で、それがあるからプレゼンにも熱が入るし、説得力も生まれる」としている。

新規事業創出に必要な5つのポイントは対象が変わっても変わらない。
新規事業創出に必要な5つのポイントは対象が変わっても変わらない。

 ソフトバンク社員時代に企画を通すため役員を会議室に拘束し、根負けさせるほど情熱をかけて説得したことも紹介されたが、そうした情熱は数字や理論などの条件があってこそ受け入れられるものだと忘れてはいけない、とも注意する。また、企画は承認されたものの事業としては失敗した事例もあり、そうした経験を重ねながら独自のメソッドを築いてきたことが感じられた。

 大野氏はここまで紹介した5つを全て3カ月ペースでやっており、1カ月目は市場調査をして、2カ月目に企画を立てながらアライアンスを同時並行で進め、事業計画書を出すサイクルを繰り返している状況だと話す。「基本が抑えられていれば社内承認は必ずできると思いので、ぜひ皆さんもチャレンジしていただければと思います」と言い、セッションを締め括った。

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