大阪万博、リアルとの融合で共創する「バーチャル万博」と「拡張万博」とその技術

 2025年開催の大阪・関西万博(万博)と連動する「バーチャル万博」と主に会場外で展開される「拡張万博」について紹介するイベントが、3月2日にグランフロント大阪とオンラインのハイブリッドで開催された。日本国際博覧会協会をはじめとする関係者らが登壇するトークイベントとあわせて、リアル会場ではさまざまなIT技術で未来を体感できるデモコーナーが設けられた。

 トークイベントでは主催者である経済産業省近畿経済産業局からのあいさつに続いて、2025年日本国際博覧会協会ICT局の大嵩豪朗氏がバーチャル万博の取り組みについて紹介した。「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」を全体コンセプトに3つの事業が設定されており、その一つで「未来社会のショーケース」と「バーチャル万博」が進められている。

2025年日本国際博覧会協会 ICT局ICT部バーチャル課担当課長兼ICTシステム課参事の大嵩豪朗氏が万博の概要とバーチャル万博について紹介した
2025年日本国際博覧会協会 ICT局ICT部バーチャル課担当課長兼ICTシステム課参事の大嵩豪朗氏が万博の概要とバーチャル万博について紹介した
万博ではメインコンセプトのもとで3つの事業が設定されている
万博ではメインコンセプトのもとで3つの事業が設定されている

 今回の万博では会場面積が70年に開催された大阪万博の半分以下で、展示の多くはサークル状の会場内で、展示サークルの大きさは同じながら展示の多くはその外で開催された2022年ドバイ万博と比べても規模が小さい。それでいて来場者予想は半年の開催期間で2820万人と、USJの年間入場者数の倍となっており、コロナ後最初の万博を成功させるという目標もあり、バーチャルの活用と会場外への拡張が不可欠となる。

 大嵩氏は「バーチャルといっても仮想空間だけでなく、リアルと融合して相互に連動し、夢洲(ゆめしま)会場の魅力と発進力を高めるための舞台とする」と強調する。

バーチャル万博はリアルとの融合を特徴としている
バーチャル万博はリアルとの融合を特徴としている

 ”空飛ぶ夢洲”をコンセプトに全体の世界観は主催者でつくるが、出展者はツールを使用して自由に参加できるようにしており、万博で使用するシステムとサービスのデータ連携基盤であるICT-PFを構築している。

バーチャル万博のベースとなるプラットフォームの概要
バーチャル万博のベースとなるプラットフォームの概要

 バーチャル万博に来場するソフト・アプリは無料で配布され、さまざまなデバイスからアクセスできるようにする。主にアバターを用いて、ARやXRでコミュニケーションでき、おみやげの購入やイベントなど”なんどでも訪れたくなる”ような仕掛けを取り入れていく。

 コンテンツも開発中で、例えば、リアルで訪れた会場を動物や鳥など、異なる視点で体験できる仕組みや、ガイドツアー、大規模講演などバーチャルならではの拡張性のあるアイデアを検討している。連携する最新技術も紹介され、開発に使用するツールの配布を10月頃に予定していることも発表された。

バーチャル万博でのコンテンツの事例や使用する技術などが紹介された
バーチャル万博でのコンテンツの事例や使用する技術などが紹介された

 続いて経済産業省近畿経済産業局 2025NEXT関西企画室から、「大阪・関西万博の拡張とソフトレガシー」と題し、現時点でパビリオンに参加する企業や団体や建物、会場レイアウトなどとあわせて、拡張万博がどういうものなのか紹介された。

 これまでの万国博覧会はパビリオンなど会場にある建物を中心にしていたが、今回の万博はそうした考え方を変えるため、空間、時間、人脈の3軸を拡張し、会場外にさまざまなコンテンツを展開することで関西全体をパビリオン化する。

拡張万博の考え方
拡張万博の考え方

 開催後を見据え、恒常的なイベントの開催、参加国との関係づくり、経済効果につながるビジネス創出、新規制度やルールの創設といった、70年の大阪万博効果を超えるソフトレガシーを遺すことにも力を入れるとしている。関西一円に国際的なビジネススマート会場にすることで世界とも共創を生み出し、Socity5.0を先んじて推進することも目的に掲げられている。

かつての万博で生まれた遺産を超えるソフトレガシーを閉幕後に遺すことにも力を入れる
かつての万博で生まれた遺産を超えるソフトレガシーを閉幕後に遺すことにも力を入れる

 後半は時流解説として、NTT西日本が「次世代コミュニケーション基盤IOWNが創り出す未来と万博」というタイトルで、会場のインフラを支える技術について解説。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)からは、ムーンショット型研究開発事業として、2050年のアバター共生社会実現を目指して研究開発プロジェクトが進められている「けいはんなアバターチャレンジ」の内容が紹介された。

 ここで言うアバターとは、CG世界のエージェントではなく、自分の写し身としていつでもどこでも仕事や学習ができる「サイバネティックアバター(CA)」を指しており、設置型、移動型、CG型の3タイプがある。マツコロイドの製作で知られる大阪大学の石黒浩氏がプロデュースするシグネチャーパビリオンで大規模な実証実験が行われる予定だ。

万博ではサイバネテイックアバター=CAの大規模な実証実験が予定されている
万博ではサイバネテイックアバター=CAの大規模な実証実験が予定されている

 企業コンソーシアムも立ち上げられ、ATRインタラクション科学研究所長の宮下敬宏氏は「アバターによる未来社会をバックキャスト型で体験してもらうことで、研究開発の進展につなげていく」と話す。11月には市民参加型イベントも開催され、技術の進化がわかるアバターのF1を目指すと同時に、社会との関わりや地域貢献の場にすることを目指す。

けいはんなアバターチャレンジは毎年の開催を目指す
けいはんなアバターチャレンジは毎年の開催を目指す

 吉本興業のデジタルサービス事業を担うFANY代表取締役社長の梁弘一氏が、同社のメタバース戦略とバーチャル万博との関連について紹介した。「おもしろいを、拡張する。」をテーマに、エンタメ業界の新たなデジタルプラットフォームとして2021年4月にローンチされた同社は、お笑い中心に7つの分野でサービスを展開。メタバースのプロデュースではバーチャル万博の1周年イベントや、バーチャル大阪の運営にも関わっている。

吉本興業の子会社でメタバースのプロデュース事業を展開するFANYはメタバースのプロデュースで事例を増やしている
吉本興業の子会社でメタバースのプロデュース事業を展開するFANYはメタバースのプロデュースで事例を増やしている

 トークイベントの最後は、デモ展示を行う6社がそれぞれの出展内容をプレゼンテーションし、想像する未来へのコメントを発表して締め括られた。発表者は以下のとおり。

 クモノスコーポレーション「3Dレーザースキャナによるデジタルツイン化」。25年前から日本でいち早く点郡データを扱い、建設が終わると捨てられていたデータをメタバースで活用し、デジタルツインとしてサイバー空間にフィードバックする技術の構築に貢献する
 クモノスコーポレーション「3Dレーザースキャナによるデジタルツイン化」。25年前から日本でいち早く点郡データを扱い、建設が終わると捨てられていたデータをメタバースで活用し、デジタルツインとしてサイバー空間にフィードバックする技術の構築に貢献する
島精機製作所「XRを活用した新たな顧客体験の実現」。ニット編み機のトップメーカー。バーチャル空間でファッションやテクスチュアを確認できるXRマネキン、デジタルカタログなどを開発し、会場ではKDDIと共同で開発した、スマートグラスのNrealやスマホを使って体験できるVRショールームやXRストアのデモを紹介した
島精機製作所「XRを活用した新たな顧客体験の実現」。ニット編み機のトップメーカー。バーチャル空間でファッションやテクスチュアを確認できるXRマネキン、デジタルカタログなどを開発し、会場ではKDDIと共同で開発した、スマートグラスのNrealやスマホを使って体験できるVRショールームやXRストアのデモを紹介した
デジタルヒューマン「まるで本物!デジタルヒューマンが巻き起こすAI接客革命」。リアルな人物そっくりなデジタルヒューマンの開発を2020年からスタート。生成系AIを活用した音声対話デモは日本語も自然にリップシンクする、リアルなキャラクターが使われており、創業当初から目指す人と共存する世界の実現に向けて研究開発を進めている
デジタルヒューマン「まるで本物!デジタルヒューマンが巻き起こすAI接客革命」。リアルな人物そっくりなデジタルヒューマンの開発を2020年からスタート。生成系AIを活用した音声対話デモは日本語も自然にリップシンクする、リアルなキャラクターが使われており、創業当初から目指す人と共存する世界の実現に向けて研究開発を進めている
ミテモ「吉野林業の臨場感再現触覚VR」。地域伝統工芸を支援する「LOCAL CRAFT JAPAN」として触覚VRを制作。動画にあわせて木を切る振動を伝えたところ、特にリモートで海外のユーザーに臨場感が伝えられたという。今後も技術を開発する会社と協力し、においなど人間の五感をもっと活用する方法を企画する
ミテモ「吉野林業の臨場感再現触覚VR」。地域伝統工芸を支援する「LOCAL CRAFT JAPAN」として触覚VRを制作。動画にあわせて木を切る振動を伝えたところ、特にリモートで海外のユーザーに臨場感が伝えられたという。今後も技術を開発する会社と協力し、においなど人間の五感をもっと活用する方法を企画する
mediVR『諦めた未来を取り戻すVRリハビリ医療機器「神楽」』。医療発展途上にあるリハビリの動作をVRで行うシステムを開発。単純なゲームを繰り返すだけで驚くほどの効果を発揮でき、NHKでも紹介された。機器の開発と成果報酬型サービスを展開し、デジタルを使うことでリハビリをさらに人間味あふれるものにすることを目指す
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立命館大学大学院 asobi-labの長尾亮虎氏 『伝統的な玩具が進化した「ぶんぶん独楽で遊ぶデジタルゲーム」』
紀元前からある伝統玩具にデジタルを組み合わせる研究の延長としてゲームを開発し、ガチャやキャラ中心のゲーム業界に疑問を呈したいとしている
立命館大学大学院 asobi-labの長尾亮虎氏 『伝統的な玩具が進化した「ぶんぶん独楽で遊ぶデジタルゲーム」』 紀元前からある伝統玩具にデジタルを組み合わせる研究の延長としてゲームを開発し、ガチャやキャラ中心のゲーム業界に疑問を呈したいとしている
プレゼンテーションの様子
プレゼンテーションの様子

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