Web3がもたらすゲームとブロックチェーンの未来--トークンエコノミクスだけではない多様な側面

緒方文俊 (ディー・エヌ・エー)2023年03月01日 10時00分

 私がDeNAに入社した2012年当時、ソーシャルゲームが社会的にヒットしていた真っ只中でした。「怪盗ロワイヤル」をはじめ、ガラケーを開けば気軽に友達と遊べるという世界観は多くの熱狂を生み出しました。ソーシャルとゲームという掛け合わせの妙、目新しさもあったように思いますが、Web3の世界でも、ブロックチェーンとゲームという新たな融合によって、まだ見ぬ新しいゲームが生まれようとしています。

 2022年に開催されたゲーム開発者向けイベント「CEDEC2022」において、ゲームとブロックチェーンについてお話をしました。その内容も踏まえ、ゲームとブロックチェーンの未来について考えてみたいと思います。

ソーシャルゲームの先駆けとして、2009年からスタートしたDeNAの怪盗ロワイヤル。今もサービスが続いているロングヒットタイトルとなっている
ソーシャルゲームの先駆けとして、2009年からスタートしたDeNAの「怪盗ロワイヤル」。今もサービスが続いているロングヒットタイトルとなっている
(C)DeNA

揺れるブロックチェーンゲームのエコノミクス

 2021年12月にサービス開始された「STEPN」は、大きな盛り上がりをみせたブロックチェーンゲームの一つではないかと思います。STEPNは、「ポケモンGO」や「ドラゴンクエストウォーク」などのように、歩くことをテーマとしたゲームアプリですが、他と一線を画するのは、歩くことによって稼ぐという、「Move to Earn(歩いて稼ぐ)」という世界観がある点です。「やりすぎ都市伝説」などTV番組にもとりあげられたり、インフルエンサーが日々の収益をブログなどで公開することで、多くの人が興味を持つきっかけとなりました。

 インターネットにおける収益化は、ユーチューバーと比較されることがありますが、Youtubeなど動画配信の場合は、収入の原資は広告収入です。一方で、STEPNの場合は、ユーザーが走るという行為自体に、直接的な収益となる要素はありません。同様の構造を持つPlay To Earnといわれるゲームはいろいろとありますが、ゲームのプレイそのもので収益化できるわけではなく、トークンエコノミクスによって収益化を目指している点は、これまでのゲームにおけるマネタイズとは大きく異なる部分でしょう。

 ゲームのキャラクターやアイテムなどを表現する NFT(Non-Fungible Token)は非代替性トークンといわれ、既存のデジタルではできなかった唯一無二の「一点物」を表現することができるという特徴がありますが、それは同時に、新しい種類のアイテムを追加する場合の難しさを生み出しています。

 DeNAが運用する「怪盗ロワイヤル」は、15年を経ても運用を続けているロングランタイトルですが、長期間の運用では、ユーザーを飽きさせないように、イベントを継続的に行い、新しいアイテムを市場に投入し続けています。一方で、Play To Earn型のゲームでは無闇に新たなアイテムを投入することはできません。ユーザーが増えた場合でも、アイテムの数を増やしにくいため、機会損失を産んでしまう可能性すらあります。この手の問題に対する解決策として、AxeInfinityというゲームでは、スカラーシップという、いわゆるレンタルのような手法が取り入れられるなど、アイテムを増やさずゲームに触れる機会を増やす施策が取り入れられていたりしますが、すべての課題が解決されているわけではなく、現状では、各社さまざまな施策を行いながら、Web3がいかにゲームに浸透できるか模索している段階といえるでしょう。

 Play To Earn といわれるゲームの多くは初期投資が必要になるため、Free to Ownや Free To Playといわれる無料プレイモデルも考案されています。個人的にオススメするのは、Horizon Gamesが開発する「Skyweaver」というカードゲームです。2019年のSXSWで展示されている頃から注目しているタイトルで、「Hearthstone」や「Shadowverse」にも似た世界観になっています。このゲームでは、無料と課金の両方の遊び方が提案されており、新規参入するプレイヤーでも古参のユーザーと互角に戦えるような工夫などが行われている点など、ブロックチェーンゲームの運用のヒントになりそうな気がします。

SXSW2019で展示されていたSkyweaverの展示ブース
SXSW2019で展示されていたSkyweaverの展示ブース

経済価値をもつアイテムがゲームバランスに与える影響

 Skyweaverでは専用のマーケットが用意されており、カードを自由に売買することができます。このような仕組みは、既存のソーシャルゲームなどに簡単に取り入れることができるように思いますが、一筋縄にはいきません。かつて、現実のゲームのキャラクターやアイテムを、金銭的な価値で売買するRMT(リアルマネートレード)はこれまでも多くの議論を引き起こしてきたからです。

 私自身も学生時代、「Ultima Online」にはまり込んでいましたが、あまりの人気に、家を建てるための土地が枯渇していました。他人の建てた家が腐るのを待つ“腐り待ち”と呼ばれる行為には長い時間がかかり、お金で時間を買うプレイヤーは少なくありませんでした。一般的なRMTは、ゲームディベロッパーには収益にはならない一方で、NFTの売買はロイヤリティが発行者に還元される仕組みによって、一見ゲームとNFTの相性は良いように思えます。しかしながら、ゲームバランスの観点ではデメリットの方が多く、特に日本のRPGのような、きめ細かい調整が求められるゲームでは顕著に難しさが出てしまう可能性が指摘されています。

 「Diablo3」におけるオークションハウスの事例は、ゲームにRMTをいれることの難しさの象徴的な出来事としてこの手の議論でよく語られています。「Diablo2」において、RMT業者による詐欺などが横行したことによって、Diablo3では自社運営のマーケットが作られました。しかしながら、性能の高いアイテムが安価に入手できるようになり、プレイヤーが自らアイテムを得てアップグレードを繰り返すという、ゲーム本来のテンポと面白味がなくなってしまうことにつながったと言われれています。プロデューサーのJay Wilson氏は、「オークションハウスがゲームに深刻な被害を与えた」と、公の場で失敗を認める発言をしています。

 効率性を求めるあまり、誰もゲームを遊ばなくなってしまうという事例から、ブロックチェーンゲームでは、アイテムを単にNFTにすればよいわけではないということがわかります。経済効率を考えるのであれば、AIやボットなどによって24時間、動かし続ける方が効率が良いはずで、人間が遊びながらアイテムを得るという行為はあまりにも非効率であるからです。

 それなら、いっそのことゲームで遊ぶことから人間を排除してみてはどうでしょうか。AIキャラクターの配信を人間の視聴者が鑑賞するリアリティ番組、MILE(Massive Interactive Live Event)という新たなジャンルが注目されています。2020年12月にスタートした「Rival Peak」では、大自然の中でサバイバル生活を送るプレイヤーがいつ脱落するのかというストーリー展開に加え、プレイヤー自身がAIであることが大きな注目を集めました。人間が関与できるのは、応援したり、特定のアクションを促すことなど限定されており、コンピューターのAIがサバイバル生活を続けていきます。その後、2022年からは、人気ドラマをモチーフとした「The Walking Dead: Last MILE」などが開始されるなど広がりを見せているそうです。

 私自身も、ブロックチェーンゲームの勉強会で「Vivark(ビバーク)」というMILEのプロトタイプゲームを制作し、視聴者が参加するブロックチェーンゲームの配信デモをテストネットにて実施しました。特定のWalletに、アイテムを転送することによって、AIのプレイヤーは次の行動を選択します。テントが提供されれば休んだり、武器が提供されれば敵を倒しながら進んでいくような、参加者の投票のような形で行動の選択が行われます。Web3の恩恵を感じるのは、視聴者は専用のアプリを用意する必要がない点です。OpenSeaなど既存のマーケットでアイテムを購入して、プレイヤーのアドレスにアイテムを転送するだけでゲームに関わることができます。

 マンハッタンで開催されたゲームイベント「Project Monarch」は、街中にある巨大なデジタルサイネージを使った施策だそうですが、ゲームの画面以外のさまざまな媒体と関わるケースで、特定のアプリに依存しない仕組みは大きな可能性を感じさせます。効率性を重要視することで、BOT(ボット)にプレイさせるという世界観は、コンピューターが計算機によって数学的なクイズに答えるビットコインなどのマイニングの仕組みにも似ているような気がします。

筆者が制作中のMILE(Massive Interactive Live Event)をテーマとしたプロトタイプゲーム。視聴者はNFTをキャラクターに与えることでゲームへの関与ができる
筆者が制作中のMILE(Massive Interactive Live Event)をテーマとしたプロトタイプゲーム。視聴者はNFTをキャラクターに与えることでゲームへの関与ができる

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