東京都がイノベーション、スタートアップ支援に本気--副知事が語る新たな戦略

 2月1日から1カ月間、CNET Japanの年次イベント「CNET Japan Live 2023」がオンラインで開催された。今回のテーマは「共創の価値を最大化させる『組織・チーム・文化づくり』」。新規事業開発や共創、あるいは組織風土の改善などに取り組んできた企業らが、その経験をもとに成功のヒントを明かした。

 初日のセッションでは、東京都副知事の宮坂学氏が、都庁におけるデジタル化・イノベーションの進捗やスタートアップ企業の支援に向けた取り組み、さらに2月27日から開催する新たなスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」の詳細について語った。

東京都副知事 宮坂学氏(右下)モデレーターのCNET Japan 編集長 藤井涼(右上)
東京都副知事 宮坂学氏(右下)モデレーターのCNET Japan 編集長 藤井涼(右上)

「政策イノベーションを起こす都庁」を目指し「オープン&フラット」な組織に

 ヤフーの代表取締役社長やソフトバンクの取締役などを歴任し、日本のITビジネスの最前線を走ってきた宮坂氏。2019年からは東京都副知事に就任し、東京都および都庁のデジタル化を推進している。就任当時は執務室にWi-Fiすら導入されておらず、紙やFAXを多用する旧来のアナログ業務のままだったという都庁。しかし、同氏が副知事になって数年たった現在、都庁の発表によると「FAXは99%減、コピー用紙は70%減(見込)」となっており、宮坂氏いわく「行政手続も2023年度には7~8割がデジタルになる計画」というところまでデジタル化が進んでいる。

 「最低限のデジタル化はできた」ところで、同氏が現在力を入れているのは「シン・トセイ3」という組織文化を含めた都政の改革だ。2021年3月に「シン・トセイ」戦略を発表してから約2年、3ステップ目となる取り組みでは、「オープン&フラット」をキーワードに「政策イノベーションを起こす都庁」へと進化する、と意気込んでいる。

 上下水道、道路、公共交通機関など都市インフラのオペレーションは優れているものの、「オペレーションに特化しているがゆえにイノベーションが弱い」のが東京であると分析する同氏。そのイノベーション部分を強化するにあたっては、「オープン&フラット」が重要なポイントになる、と語る。

「オープン&フラット」をキーワードに、開かれた都庁になってさまざまな人との対話を進める
「オープン&フラット」をキーワードに、開かれた都庁になってさまざまな人との対話を進める

 たとえば、スタートアップ施策においては、これまでは特定の担当部局内だけで話し合っていたようなことも、他の部局はもちろん、市区町村や国の担当者、他国の行政担当者に加え、大企業からスタートアップまで、立場・経験・年齢を問わず広く意見を交わせるようにする。そのための施策として、2022年8月には都庁のさまざまな関係部局の人が集まる庁内横断チーム「Team Tokyo Innovation」を組織し、スタートアップ企業が多く集まる虎ノ門に「出島」となる拠点を設置した。

オープンイノベーションでスタートアップ、起業家を10倍増へ

 そうした動きのなかで生まれたのが、東京都の新たなスタートアップ戦略となる「Global Innovation with STARTUPS」だ。同戦略においては「ビジネスに限らず、芸術、社会活動、スポーツ、学問などあらゆる分野において新しいことに挑戦する人が生まれ、それを応援する都市になりたい」という想いから、「3つの10倍」をビジョンとして掲げる。「グローバルに進出するスタートアップの数」「起業する人の数」「東京都がスタートアップと協業する案件数」、それぞれ10倍を目指す、という意味だ。

「グローバル進出」「起業数」「官民協働」の3つの軸をそれぞれ10倍にすることを目指す
「グローバル進出」「起業数」「官民協働」の3つの軸をそれぞれ10倍にすることを目指す

 2022年度は202億円、2023年度は286億円の予算が計上されており、その具体的な施策の1つとして挙げたのが、国内外からスタートアップに関わるさまざまな団体等が集まる拠点を整備する「Tokyo Innovation Base構想」。さらにグローバルのVC(ベンチャーキャピタル)やアクセラレーターを誘致する事業や、都立大学で起業体験講座を開設する取り組みのほか、スタートアップの技術・製品等を活用した提案を募集し都政の現場で実装する、といった取り組みを計画している。

国内外からスタートアップに関わるさまざまな団体等が集まる拠点を整備する「Tokyo Innovation Base構想」
国内外からスタートアップに関わるさまざまな団体等が集まる拠点を整備する「Tokyo Innovation Base構想」
VCやアクセラレーターを誘致する
VCやアクセラレーターを誘致する
都立大学で本物の起業を体験できる講座を開設
都立大学で本物の起業を体験できる講座を開設
都政の現場にスタートアップの技術・製品等を実装。それによってスタートアップの実績をつくり、事業拡大にもつなげる
都政の現場にスタートアップの技術・製品等を実装。それによってスタートアップの実績をつくり、事業拡大にもつなげる

 そして、「東京からオープンイノベーションが起こるきっかけを作りたい」として2月27日~28日の2日間の日程で、東京都としては初となるスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」を開催。「スタートアップとのオープンイノベーションによって持続可能な都市・社会を実現するCity-Techをつくる」ことを目標とし、都市インフラ、気候・環境、循環社会、エンターテインメントといった分野をメインテーマに、多数の展示や講演が行われた。

2月27日と28日にスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」を開催
2月27日と28日にスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」を開催

 基調講演では米国のVCとしてFacebookやSlackなどに投資した投資家のベン・ホロウィッツ氏や、「両利きの組織をつくる」などの著書で知られる米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授のウリケ・シェーデ氏、日本を代表する建築家の隈研吾氏が登壇。東京都として初の取り組みとなる「City-Tech.Tokyo」だが、海外の展示会であるMobile World CongressやCESのように、「東京、日本の風物詩みたいなものになれば」と宮坂氏は期待をかける。


国内外の多くの著名人によるセッション
国内外の多くの著名人によるセッション

 人と産業の中心地として、日本のイノベーションの鍵を握る東京。しかし、「人が多い」だけで政策が伴っていなければ、世界の起業家に魅力のある都市とは見てもらえない。「新しいことをしようと思った人が活躍したくなる街にすることが大事」と宮坂氏は語ったが、それを目指すにあたり、都政にイノベーションを起こしアップグレードしていく「シン・トセイ3」の担う役割は大きいだろう。

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