AndroidとiOSを「独占」とする公取委の指摘は正しいか--サイドローディング解禁に潜むリスク

 公正取引委員会(公取委)は2月9日、スマートフォンのOSやアプリ、配信サービスに関する調査を実施し、アップルとグーグルによる独占禁止法上、問題となる行為や懸念があるという報告書を発表した。

 公取委では「モバイル・エコシステム」として、iPhoneやPixel、Androidスマートフォンなどの「端末市場」、iOSとAndroidという「モバイルOS市場」、AppStoreやGoogle Playの「アプリ流通サービス市場」、そしてアプリ全体を指す「アプリ市場」の4つに分類している。

 なかでも「モバイルOS市場」と「アプリ流通サービス市場」において、十分な競争が働いていないと問題視している。

 ただ、過去を振り返ってみると、iOSとAndroidに続く「第3のOS」として期待されて登場したものの、水泡に帰したプラットフォームは数知れない。マイクロソフト「Windows Phone」は、いくつものメーカーが対応端末を出したが鳴かず飛ばずであった。

 ブラウザ「Firefox」による「Firefox OS」も、KDDIが担ぎ、LGエレクトロニクスが作った「Fx0」というスマホが登場したが、これもさっぱり売れず、「在庫は東京湾に沈められた」というジョークが業界関係者の間で流れたほどだ。

 ファーウェイが米国からの禁輸措置を受け、Androidを使えなくなった際、「HarmonyOS」を自社で立ち上げた。しかし、日本では対応アプリが少なく、また、ファーウェイ自体が日本でスマートフォンを売るのが難しくなったため、ほとんど姿を見なくなってしまった。

 日本で、iOSやAndroidに競争を挑めるプラットフォームが必要なのであれば、ファーウェイが5Gスマートフォンを日本で売れるよう、政府が動くべきだ(所詮、無理な話だが)。

 AndroidとiOSしか残っていないのは、ユーザーが選んだ結果であり、「競争環境が働いていない」と指摘するのであれば、10年ぐらい前に声を上げるべきだ。

 そもそも、パソコンの世界はWindowsとMacがほとんどだ。最近になって、Chromebookといった教育市場に強い選択肢も出てきたが、長らくWindowsとMacしか選択肢はなかった。なぜ、スマートフォンのOSが「競争が働いていない」と指摘され、パソコンのOSはスルーなのか。

プライバシー保護が危うくなる危険も

 アプリ流通サービス市場においては「サイドローディングを認めさせろ」という声が強い。サイドローディングとはアップルやグーグルが提供するアプリストア以外からアプリを入手できるようにするというものだ。

 海外でサイドローディングを認めさせようとする背景にあるのが、手数料だ。アップルやグーグルが設定するアプリ配信時の手数料が高いということで、ここに他の配信サービスが参入すれば手数料が安くなるのではないか、と期待されている。

 Androidの場合、ユーザーが設定を変更すれば、Google Play以外からもアプリをインストールできる。ただし、セキュリティが落ちて自分が危険な目に遭う可能性が高くなる。

 アップルとしては、アプリがユーザーの個人情報に悪さをしないか、などをキチンと審査した上で配布している。アップルがサイドローディングを認めないのは、ユーザーの個人情報を絶対に守るという強い使命感があるからだ。

 日本でサイドローディングを認めさせようという背景には「単にヨーロッパの後追いをしているだけ」という人もいれば、一方で「キャリアがアプリ配信で復活を狙っているのでは」という見方をする関係者がいる。

 かつて、日本のキャリアは有料のアプリをダウンロードし放題というサービスを提供し、多くのユーザーを集めたヒットサービスとなっていた。当初からウェブアプリが多かったが、ここ最近ではアプリ配信がままならず、クーポン配布サービスに注力するなど風前の灯火となっている。

 もし、サイドローディングが認められれば、キャリアは自社でアプリ配信サービスを作り、自分の好きなようにアプリを集め、ユーザーに配布し、収益を上げることができる。

 しかも、キャリアの場合、販売するスマートフォンにプリインストールすることができる。Andoidに自社アプリとしてプリインストールすれば、ユーザーにも気がついてもらいやすく、すぐに使ってもらうことが可能だ。

 サイドローディングが認められれば「アプリ取り放題サービス、再び」とキャリアが盛り上がってもおかしくない。

 ただ、当然のことながら、配布するアプリはキャリアが審査することになるので、「絶対に安全か」といえば、かなり疑問だ。 

 アップルやグーグルでさえ、OSを配布した後には頻繁にアップデートを行い、脆弱性を潰そうと躍起になっている。そうした情報を得ていない事業者がアプリ配信サービスを提供した場合、悪意のあるアプリが簡単に流通し、ユーザーの個人情報が脅かされる可能性が十分にあるのだ。

 確かに競争環境を作ることは重要だが、一方で何よりも優先されなければならないのが、ユーザーの個人情報や財産を守ることだ。

 スマートフォンにはQRコード決済やオンラインバンキングアプリなどユーザーのお金にまつわる情報が保存されている。また、将来的にはマイナンバーカードの機能も搭載されるようになる。

 サイドローディングが認められれば、悪意のあるアプリも流通しやすくなるため、こうした個人情報が抜かれやすくなる可能性もあるのだ。

 現状、スマートフォン市場では、アップルとグーグルがガチンコで競争している。公正取引委員会の指摘は本当に正しいのか。ユーザーの個人情報をないがしろにした競争だけは避けるべきではないだろうか。

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