Arm再上場を準備するソフトバンクG、孫氏復活は「もうしばらく時間を」--赤字は継続

 ソフトバンクグループは2月7日、2023年3月期 第3四半期決算を発表。売上高は前年同期比6.4%増の4兆8758億円、税引前損益は2900億円、純損益は9125億円と、今期も赤字決算となった。

孫氏に代わって決算説明会に登壇するソフトバンクグループの後藤氏
孫氏に代わって決算説明会に登壇するソフトバンクグループの後藤氏

 中国アリババの株式を一部手放すなど、アリババ関連の取引で3兆6996億円の利益を得た一方、AI関連を中心とした投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」での投資損失が5兆68億円と大きく響いたことが赤字の主な要因となっている。

 その背景には世界情勢不安などによる株式市場の不安定さがあり、同社もこの四半期、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで新たに投資した企業は2社のみとのこと。攻めから守りへと戦略を大きく転換したことから、今回の決算からは代表取締役会長 兼 社長執行役員の孫正義氏が登壇せず、代わりに取締役 専務執行役員 CFO 兼 CISOの後藤芳光氏が単独で説明する形が取られている。

 その後藤氏も、株式市場の不安定な時期がまだまだ継続しており「とても楽観視できる状況にない」と話す。それに加えて為替の大幅な変動や金利の上昇などもあって市場全体の不安定要素が増していることから、後藤氏はソフトバンクグループの財務健全性に重点を置いた説明を実施している。

 後藤氏はその健全性を示す指標としてNAV(時価純資産)、LTV(純負債を保有株式価値で割ったもの)、手元流動性の3つを挙げ、いずれも数値は以前より落ち込んでいるものの、同社の基準に照らせば問題ない水準だと説明。“守り”は盤石に固められていることから、現在は市場環境が回復した時の“攻め”に向けた軍資金の確保に重点を置いているという。

 その攻め時、要はソフトバンク・ビジョン・ファンドでの大規模な投資を再開する時期についても後藤氏は言及。2023年の市場環境は回復、不安定、更なる落ち込みといった複数のシナリオが考えられることから、それぞれのシナリオを想定して慎重にタイミングを見極める必要があるとしており、それまでは財務の健全性に重点を置いた戦略を取るとしている。

投資に関する長期的な戦略は変わらないとしながらも、当面は不安定な市況を考慮して財務の健全性と、既存投資先の価値向上に重点を置くとしている
投資に関する長期的な戦略は変わらないとしながらも、当面は不安定な市況を考慮して財務の健全性と、既存投資先の価値向上に重点を置くとしている

 その保有株式が持つ価値については、アリババ株を一部手放し大幅に減少したことから、保有株式の価値としては英国のArmや日本のソフトバンクがアリババを上回る状況となっている。より多くの割合を占めているのはソフトバンク・ビジョン・ファンドだが、その投資先約450社のうち、およそ7割が価値を落としていることが業績悪化に大きく影響しているようだ。

アリババの株式を一部手放したことで、投資先の保有株式の価値が減少。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが多くを占める点は変わらないが、Armやソフトバンクがより多くの割合を占める状況となった
アリババの株式を一部手放したことで、投資先の保有株式の価値が減少。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが多くを占める点は変わらないが、Armやソフトバンクがより多くの割合を占める状況となった

 後藤氏は、中でも投資を開始してから日が浅い2号ファンドの評価が大きく下がっているが、四半期ベースでの投資損益は既に底を打ち、回復傾向にあると説明。ファンドに対する懸念の声も少なからずあるが、当面は新規投資先を厳選し、既存投資先の価値向上に重点を置くとしている。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先のうち、今四半期で価値を下げているのはおよそ7割に達するとのこと。中でも2号ファンドは影響が大きいという
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先のうち、今四半期で価値を下げているのはおよそ7割に達するとのこと。中でも2号ファンドは影響が大きいという

 一方後藤氏は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドと並ぶ成長のドライバーと位置付けているのがArmになると説明。Armは半導体のIP(知的財産)で主要な地位を占め、モバイル向けから自動車、クラウドなど幅広い分野でシェアを拡大しており高い成長率を誇ると評価している。

 半導体市場はここ数年で非常に激しく変動しているが、後藤氏は一時的にはさまざまな変化があるものの、今後1つの製品に使われるチップの数が増えることでArmの強さが一層増すと説明。更なる成長に向けて市場シェアの維持拡大、高い価格設定ができるIPの拡大、新しい技術分野への投資、そして長期的視野に立ったビジネス構築という4つの戦略で更なる成長をさせていきたいとしている。

Armはモバイル向けを中心に、半導体設計で大きなシェアを持つことから、それを維持拡大しながら新たな分野の開拓も推し進め、長期的な成長につなげる方針だという
Armはモバイル向けを中心に、半導体設計で大きなシェアを持つことから、それを維持拡大しながら新たな分野の開拓も推し進め、長期的な成長につなげる方針だという

 そして後藤氏は、Armは2023年中に再上場する計画を既に打ち出しており、「Arm側の準備は相当進んでいる」と話すが、上場に向けては市場環境の見極めが重要とのこと。その上場先としては以前孫氏が米国のNASDAQを検討していると話していたが、英国政府がロンドン株式市場での上場を求めているとの報道も出ている。この点についてArmのIRバイスプレジデントであるイアン・ ソーントン氏は「全ての可能性を検討しているが、今の所何の決定もなされていない」と答えている。

Armは2023年中の再上場に向け準備を進めているが、その具体的な時期や上場先については決まっていないとのこと
Armは2023年中の再上場に向け準備を進めているが、その具体的な時期や上場先については決まっていないとのこと

 またそのArmに関して孫氏は前四半期の決算説明会で、成長に向けた戦略に集中して取り組む姿勢を示していた。後藤氏は現在のArmにおける孫氏の取り組みについて、今後チップセットの性能が向上することで「ライフスタイルが大きく変わると仮説を立て、Armをグループの一因として優位性を生かし、今後のビジネスにトライしていきたいと一生懸命頑張っている」と説明する。

 後藤氏は孫氏がソフトバンクグループの成長と、価値を語る上で最重要な部分であるとし、孫氏がチャレンジを続ける間、後藤氏が財務の守りを固めるべく取り組むとしている。ただ孫氏が会見に登壇しなくなったことで、説明会に訪れる記者の数も大幅に減少した印象で、メディアや投資家から孫氏の登壇を求める声は多い。

 この点について問われた後藤氏は「こちら(ステージ)から見るとあまり変わらない気もするが、記者が減っているなら私の不徳の致すところ」と話す一方、「孫さんのように、四半期ごとの経営戦略を発表する企業はごく少数だと思う」とも説明。「彼も今後(会見を)やらないと言っている訳ではなく、当分は自分が特化するところに集中したい。できるだけ早いタイミングで孫さんが発表するタイミングが来ると嬉しいと思うが、もうしばらく時間を頂きたい」と答えている。

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