「I've got the fire of hell in my eyes.」(私の目には地獄の炎が燃え盛っている)
この文章は、実験的な人工知能(AI)チャットボットの「ChatGPT」がシンガーソングライターのNick Cave氏の作風をまねて作り上げた歌詞の一節だが、はからずも、この「作品」に対するCave氏の見解を見事に言い当てた表現となっている。
「この歌はまったくろくでもない代物で、人間というものの存在をグロテスクなまでに嘲笑している」と、ロックバンド「Nick Cave and the Bad Seeds」のリーダーを務めるCave氏は、自身のウェブサイト「The Red Hand Files」に綴っている。同氏はこのサイトで、音楽、映画、作品のもととなるインスピレーション、神、愛など、楽しい話題から人間の実存に関わるテーマまで、ファンからのさまざまな質問に回答している。
くだんの歌詞はMarkと名乗るニュージーランド在住の人物が送ったものだが、ChatGPTで作られた「Cave風」の曲がファンから送られてきたのは、これが初めてではない。OpenAIがChatGPTを公開して以来、オーストラリア出身で65歳になるロックアーティストのCave氏はいくつもの歌詞を受け取ってきた。ChatGPTは、ユーザーの質問や問いかけに回答する新しいAIツールで、インターネット上に存在する大量のデータを利用して回答を生成する。
Cave氏は、ChatGPTが礼拝で用いられる説教や死亡記事を書けるようになる可能性を認めながらも、AIツールがグラミー賞を獲るようになることはないという、揺るぎない信念を示した。
「歌とは苦しみから生まれるものであり、創作活動に関する人間の複雑な内面的葛藤の上に成り立っている。だが私の知る限り、アルゴリズムに感情はない」と、Cave氏は記している。「データが苦しみを感じることはない。ChatGPTには内なる存在がなく、どこかへ行ったこともなければ、何かを耐え忍んだ経験もない。自分の限界を突破する独創性にも欠けている。したがって、これには何かを超越した体験を共有する能力がない。超えるべき限界がないのだから」
Cave氏は、曲作りという行為を詩的で深い感情を持つ人間的な言葉で説明し、自身の考えを見事な形で伝えたと言えるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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