2022年12月6日に、ITビジネスメディア「CNET Japan」と宇宙ビジネスメディア「UchuBiz」が共催したオンラインイベント「CNET Japan × UchuBiz Space Forum」。5つのプログラムからなる同イベントでは、本格化が進む宇宙ビジネスに向けた各社の最新の取り組みなどを披露した。
ここでは、クラウドの宇宙対応を進めるさくらインターネットとMicrosoftによるセッションをレポートする。
インターネット黎明期に創業し、レンタルサーバーなどのホスティング事業やデータセンター事業で知られるさくらインターネット。その頑強なバックボーンを背景にクラウド型のサービスも展開してきた。そして2019年2月には、多様な衛星データを提供するクラウドプラットフォーム「Tellus」をリリースし、2022年11月末時点で3万人を超えるユーザーが活用している。
同社執行役員の山崎氏によると、従来の衛星データは研究目的が主眼だったこともあり、データ容量が巨大で、保管先も分散されていて扱いにくかったという。
しかし、「Tellus」では衛星データをクラウドに集約し、APIなどを通じた高速なアクセスを可能にした。光学衛星、レーダー衛星、地形や標高、植生や地表面および海面の温度データなど、JAXAや政府が所有するオープンな衛星データを無料で利用できるほか、各社が運用する商業衛星のデータも利用できるのが特徴だ。
こうしたデータをユーザーが直接APIで取得できるよう、DaaSとして提供しているだけでなく、同社が独自にアプリケーション化して提供しているものもある。たとえば、衛星レーダーを用いて地表面の沈下や隆起の程度を可視化する「TelluSAR」、衛星画像データから駐車場スペースの候補を検出する「Tellus VPL」、時期の異なる衛星画像データから変化を自動抽出する「Tellus-DEUCE」があり、さらに衛星画像データを疑似的に高解像度化する「Tellus-Clairvoyant」というサービスもある。
同社のこうしたサービスは、金融、防災、農業、漁業、SDGs、インフラ監視などの分野で利用が期待されている。例えば、農業分野では岐阜県下呂市が耕作放棄地を自動検知し調査を効率化するツールをJAXAなどとともに実証中だ。漁業分野では赤潮の発生を衛星データとAIを用いて予測するシステムを開発中だ。
クラウドベンダーとしてのノウハウを基盤に、衛星データプラットフォームとしての存在感も高めつつあると言えるだろう。
一方Microsoftでは、同社がもつクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」のインフラを「地球外に広げていく取り組み」として「Azure Space」を打ち出し、主に接続、分析、開発の3つのカテゴリーにおいて宇宙向けのクラウドサービスを提供している。
衛星通信を利用したクラウドへの接続などを可能にする「Azure Orbital Cloud Access」と「Azure Orbital Digital Ground」、衛星制御や衛星データの受信、処理、分析、配布に活用する「Azure Orbital Ground Station」と「Azure Orbital Analytics」、衛星で動作させるシステムのクラウド上での開発・シミュレーション・テストを可能にする「Azure Orbital Space SDK」と、すでにいくつかのソリューションが利用可能だ。
たとえばこれらを活用することで、パートナー各社の衛星を利用した通信が可能なほか、衛星データのリアルタイム分析と視覚化も実現できる。また、Azureと連携するサービスを衛星や宇宙ステーションで実行するソリューションの開発も行えるという。
こうしたAzureの宇宙進出は、全世界にネットワークを張り巡らしている同社にとって、それでもカバーできない洋上、山間部、上空、もしくは災害時のネットワーク遮断などを補完する意味合いもある。既存のネットワークに衛星通信を加えることで「ネットワークの柔軟性、可用性を高めることができ、これまでネットワークにつながっていなかったところでもクラウドが利用可能になる」と同社の世古氏はアピールする。
実際、台湾の新竹市にある消防局では、「Azure Orbital Cloud Access」によって、5Gネットワークと衛星通信を利用した自然災害対策を進めている。災害発生時には地上のインフラが破損し利用できなくなる可能性があるため、その代替として、容易にアンテナの運搬・設置が可能な衛星通信を活用することで、迅速な情報収集や救援、救助作業につなげようとしている。
また、現実世界を仮想空間に再現するデジタルツインにおいて、オーストリア企業のBlackshark.aiの技術と組み合わせることで、地表面の建物の立体データを高速に構築することも可能になった。この技術はすでにゲームの「Microsoft Flight Simulator」やシミュレーション環境で活用されているそうだが、「衛星データをバックボーンの1つとして使い、そこに別のデータをどう組み合わせるかによって、デジタルツインの面白さは格段に変わってくるだろう」と世古氏は今後の展開にも期待を寄せる。
さらに、遠隔地のオブジェクトをホログラム映像で映し出す「ホロポーテーション」による遠隔医療も、研究開発が急速に進展しているという。すでに同社では、国際宇宙ステーション(ISS)へのホログラム映像の転送に成功し、宇宙飛行士や宇宙旅行者に対する遠隔医療実現に向けても着実に歩みを進めているところだ。
山崎氏は、世古氏が解説したAzure Spaceについて、「(従来の宇宙開発では)一品モノのスペシャルなものを作っていたが、地上のコモンなものが使えるようになる」点が大きいとコメント。地上の技術をそのまま転用できることで、コストダウンや一般のユーザーが使えるハードルの低さにもつながる、とも指摘した。「MicrosoftはOfficeなど汎用的なツールで多くのユーザーがおり、そこに宇宙のサービスを流し込める」ことから、宇宙に取り組む既存の人たちとは違う新たな顧客を掘り起こせるのではないか、と話す。
世古氏もそれに呼応して、「衛星通信は各社で規格が異なる」という課題があり、それに応じて使用できるハードウェアなどに制約があったと説明する。しかし、かつてサーバー分野でオンプレミスからクラウドへの移行があったのと似た形で、今度は宇宙産業においてハードウェアからソフトウェアへと移行していく時代になる、と予測する。
日本や世界におけるIT化の立役者でもある両社だからこそ、そうしたITの力がこれからの宇宙時代にも活かされていく、とも感じているようだ。
「火星探査、深宇宙の探査になってくると(地球との)通信に時間がかかるため、自律的に探査機自身が判断していくことになる。そこでAI技術が必要になってくる。(宇宙産業の)どの領域でも、ITはミッションの下支え、黒子となって重要な部分を担っていくことになると思う」と山崎氏。今後については、「衛星データには国境がない」ことから、海外、特にアジアの国々を中心に「グローバルパートナーを見つけながら海外に価値提供してビジネスできれば」と意気込む。
世古氏も同様に、日本の技術がアジア各国で使われるようなビジネスも増えてきていることから、「日本の技術を海外に広げていく」ところには積極的に関わっていきたいと話す。「日本の企業と一緒に世界を驚かせるようなサービスを出していきたい。宇宙を活用して私たちの生活を豊かにするようなサービスを生み出していければ」と展望を語っていた。
(この記事は「UchuBiz」からの転載です)
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