筆者が当連載で「大学垢」を取り上げたのは2017年春のこと。大学専用アカウントを作り、「#春から○○大」で同級生とつながって、入学前から情報交換することを紹介した。その後、テレビなどでも紹介されるようになって、大学垢やハッシュタグの存在が広まっている。最近は、また少々使い方が変わってきているので、紹介したい。
大学で教員をしていることもあり、さまざまな大学垢をフォローして定期的にウォッチしている。しかし、前述の記事を書いた頃からの変化が起きていることには薄々気づいていた。明らかに、フォローしているアカウントのツイートする割合が減っているのだ。
ある時、「このアカウント、とにかく初めに情報収集がしたくて作ってフォローしまくったアカウントだから、ちゃんとつぶやくようのアカウント作り直そうかな」というツイートをして、運用をやめたアカウントを見かけた。
確認したところ、ツイートをやめたアカウントはこれだけではなかった。一部を除いて、ほとんどのアカウントが4月中くらいまでに運用を止めていたのだ。ちなみに非公開リストに入れているだけで、当人たちにわかるような形ではフォローしていない。
残っているアカウントからは「仲良くなったらこちらでもよろしく」とプロフィールに貼っていたInstagramの記述とリンクも消えていたし、そもそも当初フォローした数から明らかに減っており、アカウント自体を消している例も多かった。
大学垢で情報収集した後は、新しくアカウントを作り直す。本当の大学垢は別に作り、その後も交流したい知り合いだけに教えているのだ。
そもそも、情報収集垢はアカウント名もランダムな英数字であるなど、明らかに使い捨てるつもりで作ったものも少なくない。フォロー数もフォロワー数も多くはなく、それぞれせいぜい100〜200程度だ。
名前も本名ではなくニックネームなどにしており、プロフィールには顔写真は登録せず、小さくて顔がわからない写真やイラストなどを登録していることが多い。大学名と学部のみ公開しており、それ以外の個人情報や趣味などは一切投稿がない。
コミュニケーションはTwitter上でするつもりがないので、DMでからんで親しくなったら趣味全開、個人情報全開のインスタに誘導する。しかしそちらも、鍵をかけて同じ大学の学生とのみつながっているのだ。
情報収集垢が活発なのは、履修期間の間だ。「○○の講義はオンラインですか」「登録の仕方を教えてください」など、基本的な情報について聞いている。
受講が決まった講義の時間割を公開し、「一つでも同じ人いますか」と聞いている姿はよく見かける。「○○が同じだよ」「じゃあ一緒に受けよう」などというやり取りも多い。
「これ楽単ですか(単位を取るのが楽な講義ですか)」とズバリと聞いている学生もいた。その後、「まさかのフル単!(履修登録した単位をすべて習得したこと)」と学期終わり頃にツイートしてから、別のアカウントに移ったようだ。
大学生は、「だって炎上怖いじゃないですか」という。「停学とか退学とか内定取り消しとか聞くし、人生棒に振るらしいし、そもそも先生とかにも見られているらしいし、無理だから」
ネットで目立つことは嫌い、フォロワーを増やすつもりなどなく、フォローやフォロワーは少数の知り合い限定。顔写真は登録せず、名前もニックネーム。鍵をかけた中でのみ、自分を出すという使い方が多いのだ。
2021年に起きた大学生の炎上事件の多くは、鍵をかけたInstagramのアカウントで、24時間で消えるストーリーズ投稿をきっかけにして起きた。
油断して問題ある投稿をしてしまってはいたが、気をつけてはいたのだ。だから鍵をかけていたし、ストーリーズに投稿していた。ストーリーズは消えるが保存、転載ができるとか、フォロワーの中にも炎上させようとする人はいるとか、そういうことを知らなかっただけだ。
SNSが世に出てから18年経つ。大人世代には、アカウントを次々に作り変えるという人はまれだ。
しかし、産まれた頃からSNSがあり、ともに育ってきたSNSネイティブである彼らは、人間関係ごとに複数のアカウントを使い分ける。それだけではなく、次々に新しいアカウントを作っては捨て、身軽に乗り換えていく。フォロワーも少ないままだし、アカウントを育てる意識はほとんどない。
それが彼らのSNS処世術なのではないだろうか。新しい時代の情報リテラシーの一つとして、大人世代も学ぶところがあるかもしれない。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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