「ドローン物流」実現のリアリティ--KDDIとエアロネクストに聞く提携の狙いと今後

 ドローンスタートアップのエアロネクストとKDDIスマートドローンは9月20日、ドローン配送サービスの社会実装に向け業務提携契約を締結した。また同日KDDIは、KDDI Open Innovation Fund 3号を通じ、エアロネクストへ出資を発表。「ドローン物流」の全国展開に向けて、連携を強化する両社のキーマンに、狙いと展望を聞いた。

(左から)エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏(右)
(左から)エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏(右)

KDDIが評価した2つのこと

 両社が初めて協業したのは、2022年3月。物流大手セイノーホールディングスとエアロネクストが、共同で開発し推進してきた、新しい物流の仕組み「SkyHub(スカイハブ)」を活用した、新潟県阿賀町でのドローン医薬品配送の実証実験だった。

 このときのドローンは、エアロネクストと国産ドローンメーカーACSLが、共同で開発した物流ドローン専用機「AirTruck」。本実証は、2月にKDDIからスピンオフしたKDDIスマートドローンが提供する、モバイル通信などのパッケージが初めて導入された事例にもなった。

(左から)セイノーHD 執行役員の河合秀治氏、エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、阿賀町町長の神田一秋氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏、ACSL 代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏
(左から)セイノーHD 執行役員の河合秀治氏、エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、阿賀町町長の神田一秋氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏、ACSL 代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏

 両社はこれを皮切りに連携を強化。6月、KDDI独自開発のドローン専用モバイル通信モジュール「Corewing01」をAirTruckに搭載し、KDDIの「モバイル通信」「運航管理システム」「クラウド」に連携した「AirTruck Starter Pack」を、自治体や物流事業者向けに提供開始した。

「AirTruck Starter Pack」の概要
「AirTruck Starter Pack」の概要

 そして9月に、両社はドローン配送サービスの社会実装に向けた業務提携契約を締結、「KDDI Open Innovation Fund 3号」を通じてエアロネクストへ出資したことを発表した。

 KDDIスマートドローンの博野氏は、「KDDIグループとの事業シナジーと企業としての成長性、この2点を評価させていただき出資に至った。先行していた事業連携を、さらに強化したいと考えている」と話す。

KDDIスマートドローン博野氏
KDDIスマートドローン 博野氏

お互いに、組むことで持てた「リアリティ」

 博野氏がエアロネクストに感じた魅力は、大きく2つ。1つめは「物流専用機」を開発していること。2つめは「新スマート物流」をセイノーHDと手がけていることだ。

 KDDIは、2020年に長野県伊那市で、全国初の自治体運営によるドローン配送サービスを始めるなど、ドローン物流にも積極的に取り組んできた。地元事業者が運用できるよう、システム構築や操作訓練も行ない、これまで無事故で運用を継続。確かな実績を重ねてきたが、一方では課題感もあったという。

 「ドローンが自動で荷物を下ろして戻れれば、オペレーション体制を省人化できる。エネルギー効率など飛行の非効率も、さらに解消したい。そんな課題感を持っていたとき、エアロネクストさんが開発した物流に特化した機体を拝見した。荷物のパッケージサイズも物流大手のセイノーさんと標準化していて、素晴らしいと思った」(博野氏)

 また、「ドローン単体だとビジネス化は厳しい」という現実も、数々の実証を重ねたからこそ、はっきり見えていたという。

 「ドローンを飛ばせない状況や環境は、どうしてもでてくるが、それでは配送ビジネスは成立しない。エアロネクストさんとセイノーHDさんが共同開発したSkyHubという仕組みは、既存輸送であるトラック配送とのコンビネーションで、まさに私たちも目指していたものだった。ここに私たちのアセットが合わさることで、経済合理性のある新しい物流を実現できるというリアリティが持てた」(博野氏)

(左から)KDDIスマートドローンの博野氏とエアロネクストの田路氏
(左から)KDDIスマートドローンの博野氏とエアロネクストの田路氏

 エアロネクストの田路氏も、提携の意義を大きく2つ挙げる。1つめはKDDIが遠隔オペレーションを前提とした「運航管理システム」を開発してきたこと。2つめは「上空での電波利用」の安定性だ。

 KDDIの運航管理システム開発は、2017年までさかのぼる。当初から「遠隔での目視外自動飛行」前提だ。通信は全てLTEに対応、リアルタイムに映像伝送できる。また、有事の際は、例えばLTEが途絶した場合、機体制御に異常を検知した場合、GPSの位置即位に不具合が生じた場合などのケースごとに、緊急退避ポイントへ着陸する、その場でホバリングする、無視してそのまま飛行ミッションを継続するといったあらゆる対応を、ユーザーが数値入力するだけで設定できるという。

 2021年度のNEDO実証で、全国20以上の事業者が同時に接続して、遠隔で複数機体の運航を管理した結果を受けて、現在もシステム改良を重ねている。

 「複数機体の遠隔管理は、ドローン運用のコスト低減、ドローン配送の事業性確立に必須となる技術だ。また、KDDIさんの運航管理システムは、メーカーフリーで機体を接続できるよう標準化されているので、ドローン事業者にとっては、どんな機体、どんな用途でも、同じ操作感でドローンを飛ばせるというメリットがある」(田路氏)

 また、田路氏も、「内心ヒヤヒヤしていた」と明かす。上空での電波途絶の恐怖が、常に隣り合わせであるがゆえに、ドローン物流に確固たるリアリティを持てずにいたという。

 「エアロネクストは、ACSLさんとドローン物流専用の機体を開発し、セイノーさんと新スマート物流SkyHubという仕組みを開発して、ドローン配送が世の中で使われる仕組みを作ってきたが、ソリューション提供という面では不安もあった。KDDIさんは、通信事業の経験やナレッジを活かしてドローン専用の通信モジュールを開発するなど、上空の電波利用を安定させるためにしっかり投資されている。KDDIさんと組めたことで、僕らはこのまま加速して大丈夫だ、というリアリティが出てきた」(田路氏)

エアロネクスト 田路氏
エアロネクスト 田路氏

 博野氏は、「自分は、もともと無線系のエンジニアで、KDDIのモバイル通信全般の開発と企画に携わってきた。KDDIスマートドローンでも、お客様にとって信頼できるものを作り上げようと常に社員のメンバーと話し合っている」と明かし、このように説明した。

 「ドローンはとても狭い筐体(きょうたい)で、ここに多くの制御機器を格納するうえ、モーターやプロペラの回転等により、さまざまなノイズが発生して、通信品質を悪化させてしまう。私たちは、総務省の研究開発受託など、電波を解析する実績も重ねていたので、ドローンの通信品質の課題もなんとか解決したいと強く思い、ノイズ耐性が高いモジュールCorewing01を開発した」(博野氏)

 実際にAirTruckにCorewing01を搭載したところ、現場のパイロットから「安定的な通信品質を確保できている」との声が上がっているという。

エアロネクストとACSLが開発した物流専用ドローン「AirTruck」に荷物を搭載するところ
エアロネクストとACSLが開発した物流専用ドローン「AirTruck」に荷物を搭載するところ
KDDIスマートドローンが開発したドローン専用の通信モジュール「Corewing01」
KDDIスマートドローンが開発したドローン専用の通信モジュール「Corewing01」

地域における「モノの移動」の新たなインフラを構築する

 両社は、10月に福井県敦賀市で、「AirTruck Starter Pack」の商用利用を開始している。セイノーHDとエアロネクストが、人口660人の山梨県小菅村で確立したSkyHubを、敦賀市にも移植して、エアロネクスト子会社のNEXT DELIVERYが運営するという座組みだ。

 まずは、注文から最短30分以内に食料品や日用品を届ける「オンデマンド配送サービス」(配送料300円)と、午前10時半までの注文で当日中に届ける「買い物代行サービス」(配送料300円+商品代金10%のサービス料)を提供中だ。2022年内には、出前館と連携して、「フードデリバリサービス」(配送料420円)も提供予定だという。

 「地域の課題を解決するだけではなく、地域に住むほうが便利で快適で楽しくなれば、地域振興の1つの起爆剤になる。我々は、通信というインフラを担う企業として、地域活性化まで目指したい」(博野氏)

10月8日、敦賀市愛発(あらち)地区でのドローン配送サービス開始日の様子
10月8日、敦賀市愛発(あらち)地区でのドローン配送サービス開始日の様子

 両社の協業を深めたもう1つの要素は、輸配送管理システム「SkyHubTMS」だ。トラックとドローンだけではなく、バスやタクシーなど、地域で動く“空間”と、荷物を紐付けて管理する仕組みで、外部システムとの連携も可能だという。

 「ドローン物流というものは、ドローンで運ぶという以前に、物を動かすサービスなので、荷物を管理するためのオペレーションとシステムが必要で、ドローン運航システムだけを切り出して利用する事業者はいない。私たちはすでに陸と空のハイブリッドな輸配送管理システムを構築しており、KDDIさんとシナジーを発揮しやすい部分だと思う」(田路氏)

 博野氏は、「SkyHubTMSとKDDI運航管理システムの連携も進めている。これによって、フェーズが1つ上がった。エアロネクストさんの戦略は、ドローン物流を浸透させていくうえで、非常に合理的で正しいと感じている」としたうえで、オープンな姿勢も強調した。

 田路氏も、「KDDIさんに非常に共感するのは、オープンマインドであること。オープンだからこそ、市場への参入が増えて、市場が本格的に立ち上がっていく」と相槌を打った。

 今後は、2022年度内に14自治体で、「AirTruck Starter Pack」を利用したドローン物流を行う。14案件のうち10件程度は実証実験だが、基本的には「地域にドローン配送を実装する前提」の自治体ばかりで、セイノーHDも協働する見込みだ。運営母体は、NEXT DELIVERYとKDDIスマートドローンのほか、社名は非公開だが大手パートナー企業が採用する予定もある。将来的な全国数百自治体への展開も見据えた戦略協議も始まっているという。

 両氏は、「資本業務提携によって、長期的な計画や協議が可能になった。全国数百自治体への展開、地域の新しいインフラ構築を目指して、そこにアプローチするための取り組み方を、自治体さんや、ほかのパートナー企業さんとも一緒に、しっかり協議していきたい」と語った。

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