自律飛行型ドローンの「Skydio」、日本上陸から約2年の手応え--柿島代表インタビュー

 Skydioは、AIによる自律飛行技術や障害物回避技術を搭載した小型ドローンを開発する、米国の大手ドローンメーカーだ。2020年11月、海外初の拠点として、日本にオフィスを開設した時には大きな話題になった。2022年春には、新たに「Skydio 2+」と「Skydio X2」の販売を開始し、日本におけるマーケティングも強化している。

「Skydio 2+」バッテリー持ち時間が4分伸びて27分に。2本のアンテナが立ち、通信安定性向上と伝送距離延伸を図った
「Skydio 2+」バッテリー持ち時間が4分伸びて27分に。2本のアンテナが立ち、通信安定性向上と伝送距離延伸を図った

 Skydio合同会社を牽引するのが柿島英和氏だ。同氏は、EMCやAWSなど外資系企業でトップセールスとして渡り歩き、直近はSORACOMで立ち上げから参画し、執行役員をつとめた人物で、2021年12月にSkydioに参画した。ここでは、柿島氏がSkydioに惹かれた理由や、AIを使った自律飛行技術の強み、日本での今後の動きなどを聞いた。


Skydio合同会社の代表である柿島英和氏

「AIドリブン」というゲームチェンジャー

 Skydioは2014年にシリコンバレーで創業し、米国で初めて10億ドルの評価額を超えたドローンメーカーだ。現在、米国では600以上の企業、公共部門の顧客を持ち、出荷台数は2万台を超えているという。

 最大の強みは、AIを使った自律飛行技術だ。機体に合計6つの魚眼カメラを搭載し、VISUAL SLAMという技術で自己位置を推定して、リアルタイムに周囲をマッピングしながら飛行する。このため、障害物を検知すると、自律的に回避経路を計算して避けながら飛行でき、米国防総省を含む顧客からも高い評価を得ているという。


 評価ポイントはさまざまだ。屋内や橋の下などの非GSP環境下でもクラッシュリスクを気にせず飛行でき、トレーニングコストも抑えられる。また、機体制御に磁気センサーを用いないため、強力な電磁波を発する物体の近くなど、環境を選ばず運用できる。


 柿島氏は、「米国の大手ビジネスコンサルティング会社Frost&Sullivanからも、AIと自律性は商用ドローンの活用を促進する2大テクノロジーであり、Skydioはその両方の最前線に立っていると評された」と話し、このAIと自律飛行こそ、柿島氏がSkydioに惹かれた理由だと語った。

 「ドローンといえば新たなハードウェアというイメージが強いかもしれないが、Skydioはソフトウェアも融合させてAIドリブンで、従来とは異なる文脈でドローンのユースケースを拡大しているところが面白い。また、天井や道路が滑落したニュースなどを見て、日本のインフラ老朽化にすごく危機感を持っていたので、Skydioなら日本で顕在化したドローンの活用ニーズに応えられるのではと考えた」(柿島氏)

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「Skydio 2+」からの映像をPCでリアルタイム視聴しているところ

MIT発ベンチャー、3年で500人超えに急成長

 Skydioが、AIを使った自律飛行を強みとする背景には、共同創業者であるCEOのアダム氏とCTOのアブラハム氏のキャリアがある。もともとMITでコンピュータービジョンやマシンラーニングを用いた、GPSを使わない飛行研究の第一人者として活躍しており、Google Project Wingの立ち上げに参画したのち、Skydioを創業したという。


 「彼らは12年以上前に、MITの駐車場で固定翼機を飛ばして、障害物を回避しながら自律飛行させることに成功している。また、人物を特定してターゲットの動きを予測しながら追跡飛行し、同時に障害物を回避する技術も、10年以上かけて研究開発している。この積み重ねによって、ソフトウェアの精度は、他に比類ない形にまで高まっている」(柿島氏)

 2020年に日本上陸した当時から2年間弱で、Skydioは急成長しているようだ。柿島氏は「100人から500人に規模が拡大した。ソフトウェア関連のバックグラウンドを持つ優秀なエンジニアがどんどん集まっている」と明かす。「スタートアップならではの整っていない部分もあるが、熱量の高い人たちが新たなマーケットを切り開いていくSkydioの雰囲気は、非常にダイナミックで面白い」(柿島氏)

ソフトウェアベースで次々と新機能を拡充

 自律飛行型ドローンとして名を馳せてきたSkydioだが、今後の注目ポイントは「オプションの拡充」だという。自律飛行前提の特性を生かして、ソフトウェアベースでさまざまな機能を追加しているのだ。

 まずは、こちらの映像で自律性を確認いただきたい。室内でGPSを使わずにSkydio 2+を飛ばして、壁に向かって直進させた様子で、取材時に撮影した。機体が自律的に衝突回避するため、操縦指示に反して、機体は横に移動している。

 次に、こちらの映像は、あらかじめ記憶させた2地点間を機体が往復飛行する様子で、同じく取材時に室内で撮影した。途中で障害物を検知すると、自律的に回避経路をとる。Skydioの機体には、このような「Skill」と呼ばれる機能群が実装され、ファームウェアアップデートで機能を追加している。

 柿島氏は、「このほかにも、クラウドサービスを活用してSkydioを遠隔制御する、ドローンの取得映像を離れた拠点へリアルタイム伝送するなど、ソフトウェアの拡充をどんどん図っていることが、われわれの特徴であり強み」と話す。

 そして、米国の開発チームも特に注力しているのが「3D Scan」だ。3Dデジタルモデルを生成するための静止画を自動撮影できる機能で、CNET Japanでもこちらの記事で、3D Scanのデモンストレーションの様子を紹介した。

Skydio 2+が石油タンクの周囲を自律飛行して、3Dデジタルモデル生成用の静止画を自動撮影している様子(SkydioアプリのAR表示のスクリーンショット)
Skydio 2+が石油タンクの周囲を自律飛行して、3Dデジタルモデル生成用の静止画を自動撮影している様子(SkydioアプリのAR表示のスクリーンショット)

 ちなみに、日系建設機械メーカーが過去に行った実証では、建機の画像1800枚を取得するのに1時間程度で完了し、フォトグラメトリのソフトウェアでモデリングした際の手戻りもほぼなかったそうだ。人間の手で行うマニュアル飛行撮影ではこうはいかない。かつ、障害物を自律的に回避できる飛行性能が備わっていないドローンでは、これはなかなか実現できそうにない。原点回帰で、「AIを使った自律飛行」技術が精度高く実装されているからこその機能といえる。

 「3Dデジタルモデルを作って、デジタルツインで何かシミュレーションするなどは、まさにこれからという領域。建設現場の進捗管理、インフラ点検での劣化状況の3D比較など、さまざまな業界の方から非常に興味を持っていただいている」(柿島氏)

日本では5社のパートナーと協働

 日本での今後の展開について、柿島氏は「機体とソフトウェアの提供は、5社のパートナーを通じて行っていく。われわれは現場のリアルな声を聞き米国の開発チームと連携して、求められる機能の開発促進を図る」と語る。提供形態は、機体と自律飛行のソフトウェア(Skydio Autonomy Enterprise:略称はSAE)のセットがベーシックで、このほかに必要なソフトウェアはオプションとなる。日本での提供はB2Bに限定しており、利用者は各社の提供内容と価格を見比べて契約することになる。

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 パートナーの5社は、2つのグループに大別される。1つは通信キャリアを母体としてもつ2社。2022年3月から同社公認のSkydio認定講習を日本国内で唯一提供しているNTTコミュニケーションズと、9月1日よりスクールと機体補償と補助金利用サポートをセットにして提供開始したKDDIスマートドローンだ。もう1つのグループは、ドローンサービスプロバイダとしてスタートアップの3社。橋梁点検など点検事業に強みのあるジャパンインフラウェイマーク、ドローンなど新技術の社会実装に向けて実績豊富なセンシンロボティクス、測量・点検など幅広くサービス提供するFLIGHTSの3社だ。

 「現在、Skydioの通信には2.4GHz帯のWi-Fiを用いているが、今後はモバイル通信を用いた目視外飛行の需要が高まっていくので、マルチキャリアで技術連携を図っていきたいと考えている。またパートナーの5社は、いずれも業務フローへのドローン実装に実績がある企業ばかり。一緒にビジネスを開拓していきたい」(柿島氏)

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 日本での販売目標は非公表だが、Skydio合同会社の販売実績はすでに累計1000台を突破し、順調に販売数を伸ばしてきている。円安進行の影響も懸念されるが、米国でドローンを活用した点検サービスを提供する企業の事例では、DJI機からSkydioに変更することで飛行時間や処理時間を短縮でき、パイロット1人当たりの収益が37%改善したという報告もあるそう。日本でも「自律飛行によるROI改善」を目的として、導入はさらに加速していきそうだ。

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