広がる5G--スマホ以外でも進む進化とは - (page 3)

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2022年07月28日 07時30分

メガネにも5G

 移動しながら使う5Gは、さらに期待を広げてくれる。ARだ。ARグラスを通して見ているものについて情報を取得するには、データ速度の向上と、安定した5G接続が必要になる。そうした接続さえ整えば、視野の中のどんなものでも即座に翻訳できる。それが、2022年の「Google I/O」で披露されたARグラスのコンセプトだった。あるいは、AR機能で目的地までの経路を分かりやすく視覚的に案内してもらうことも可能だろう。Googleは先頃、新しいARグラスの公開テストを開始しようとしていると発表した。

ARグラス
Googleはリアルタイムの翻訳を実行するARグラスを開発している。ARによって変わる技術として、他に何があるだろうか。
提供:Google

 ARグラスのような個人用デバイスを広大なネットワークに接続するときの複雑さは、大部分が既に解決されている。Qualcommのセルラーモデムおよびインフラストラクチャ担当ゼネラルマネージャーのDurga Malladi氏は米CNETにそう語った。大きな障害となるのが、バッテリーの持続時間だ。スマートフォンなら、4000mAhあるいは5000mAhという大容量のバッテリーをその四角い本体に搭載できるが、ARグラスとなるとあまりに小型で、大きいバッテリーパックを搭載する余地はない。その点が、5Gネットワークに接続できる時間の制約になる。

 「重要なのは、スマートな接続方法を考案することだ。単に短い通知をメガネに送受信するだけでいいなら、ギガビット級の速度は必要ない」(Malladi氏)

 その方法はおそらく、テクノロジー業界でも特に大胆な、ある予測が現実になるよりも早く見つかるだろう。著名なアナリストMing-Chi Kuo氏による予測のことだ。MacRumorsが見つけたメモによると、同氏はAppleが10年以内に「iPhone」をARヘッドセットに置き換える方向へ動いていると記していた。

医療とスマートシティの動力にも

 5Gでダウンロード速度が上がるのも、ユーザーにとっては重要だが、最先端の応用技術を可能にするのは、5Gネットワークの遅延の少なさだ。これにより、遠隔手術などが可能になる。何年も前からニュースの見出しを賑わせているが、外科医と患者の間で遅延を最小限に抑えれば、即応性が改善され、理想的にはその結果も良いものになる。それにARと仮想現実(VR)を加えれば、外科医が実際に手術中の室内にいるような臨場感を高めることができる。

繁華街
病院と街が事故状況を5Gで追跡することができるようになる。患者を迅速且つ安全に搬送できるだろう。
提供:Getty Images

 「そうした応用は、5Gによる低遅延がなければ実現しない」と、Counterpoint Researchのデバイスおよびエコシステム担当シニアアナリストを務めるParv Sharma氏は話している。

 遠隔手術は、遠隔医療の一面にすぎない。遠隔医療は、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックで医療の専門家が遠隔から患者を診療する方法を次々と見出してから普及が進んでいる。超音波モニター「Butterfly iQ」は、スマートフォンからモバイルネットワークを介して医療従事者にデータを送信するデバイスで、極めてコンパクトなため、先頃は国際宇宙ステーションにも持ち込まれた

 5Gは、従来型の医療の現場でも威力を発揮する。2021年3月に、AT&TはロサンゼルスのLawrence J. Ellison Institute for Transformative Medicineでローカル5Gネットワークの運用を開始している。目的は、患者の追跡と、がん研究のための安全なデータ転送の速度の向上だった。英国でも、キャリア会社のVirgin Media O2が、ロンドンのBethlem Royal Hospitalでネットワークをプライベート5Gに切り替え、これまでのWi-Fiネットワークより迅速かつ安全に患者の様子を確認し、記録を更新できるようになった、とTechRadarが報じている。モノのインターネット(IoT)、センサー、関連技術によって医薬品の温度、空気の状態、室内の利用率などがモニターされるようになる。

 だが、5Gは私たちの暮らす街にとって、もっと大きい可能性を秘めている。街路にセンサーを備えれば、5G接続した車に交通状況を警告できるが、それだけでなく、環境条件をモニターして都市労働者に危険を知らせることもできる。

 これらのセンサーは、新規格であるRedCap(Reduced Capability)のデバイスによって今後さらに安価になる。RedCapデバイスは、意図的に通信速度を落とすことによって消費電力を抑えたデバイスで、ネットワークが張り巡らされたエコシステムの中でノードとして機能する、バッテリーが長持ちするセンサーやウェアラブルデバイスを可能にするものだ。

 Ericssonの北米担当5Gマーケティング責任者Peter Linder氏は、「5Gによって状況は変わる。これは、すでに熱狂的なペースでネットワークが構築されており、そのネットワークにはこうした種類のサービスのためのスライスを作成する機能が組み込まれているからだ」と述べている。

 IDCのSolis氏は、これらの都市規模のアプリケーションを支えるために必要となるネットワークが実現するのは、ミッドバンド5Gよりもずっと後の話であり、マルチアクセスエッジコンピューティングが普及した後のことになると述べている。マルチアクセスエッジコンピューティングは、遠くにあるサーバーファームから、ユーザーに物理的に近いネットワークのエッジにある、高速にアクセスできるな拠点に処理能力を持ってくることを可能にする。

 5Gネットワークの整備は、接続性の新たな時代を切り拓く要素の一部に過ぎない。私たちは、5Gの通信速度と信頼性を実際に体験しない限り、最高のアプリケーションを想像することはできない。なぜなら、私たちの考え方は、まだ4G LTEのスマートフォンを基準にしているからだ。4G LTEが普及し始めた頃も、開発者が広帯域のモバイル回線を生かしたまったく新しいアプリケーションを作る方法を思い付くまでには、しばらく時間がかかった。

 Soils氏は、出先でデータにアクセスする能力が非常に限られていた3Gの時代には、配車サービスアプリのようなものは想像もできなかったことを例として挙げた。ところが今日では、UberやLyftは現代の移動インフラに必要不可欠な存在になっている。

 「その当時、『配車サービスアプリを実現するためには高速なネットワークが必要だ』などと言った人はいなかった」とSolis氏は語った。「配車サービスアプリが実現したのは、ネットワークやスマートフォンが実際に高速になり、それを開発者が体験してからのことだ。これは、『インフラを作れば、アプリケーションは後からついてくる』という考え方だと言えるだろう」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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