スマートウォッチに搭載されているヘルスセンサーは、研究上は有望な結果を出しているものの、普段の環境で実際にどれくらい使われているかは分からないと指摘する専門家もいる。呼吸器科・救命救急医でジョンズ・ホプキンス大学准教授のAshraf Fawzy氏は、「私が担当した患者の中にも、Apple Watchや同等のデバイスを使って血中酸素濃度を測定している人はいた」と言う。「しかし、思っていたほどは広まっていなかった」
Mushtaq氏は、Apple Watchなどのセンサーを用いて血中酸素を定期的に測定することは、そのユーザーが健康かどうかを総合的に判断する助けになると言う。健康な人が低酸素血症、つまり血液中の酸素が不足した状態になる場合、まずは身体に警告サインが出るのが普通だからだ。
「正直なところ、こうしたセンサーを使って一般の人が臨床的に意味のあることができるとは思えない」とMushtaq氏は言う。
だからといって、医療専門家がこの種のセンサーを無意味だと切り捨てているわけではない。従来のパルスオキシメーターと比較すると、スマートウォッチには一日中手首に装着できるという大きな利点がある。スマートウォッチの多くは、血中酸素濃度を任意のタイミングだけでなく、バックグラウンドで測定できるため、さまざまな時間帯のデータを収集できる。
従来のパルスオキシメーターが必要に応じて能動的に行う測定だとすれば、Fitbit、サムスン、Garmin、Appleのスマートウォッチは受動的な測定であり、睡眠中でも血中酸素濃度をモニタリングできる。AppleとGarminのスマートウォッチなら、1日を通じて定期的に血中酸素濃度を取得することも可能だ。
問題は、スマートウォッチのセンサーを使った血中酸素測定は、たとえバックグラウンドで測定する場合も、安静時にしかデータを取れないところにある(Appleは、バックグラウンドでの測定はユーザーが動いていない時に行われるとしており、Garminは激しい動きを感知した場合は測定頻度が下がるとしている)。
もし活発に活動している時も血中酸素濃度を測定できれば、処方する酸素量を調整する必要性を医師が判断する材料となり、有用性が向上するとFawzy氏は言う。Mushtaq氏は、エクササイズ中に血中酸素濃度が低下していないかを確認できるようになれば、心不全や肺高血圧症の患者に役立つと見る。
「この機能が助けになることは間違いない」とFawzy氏は言う。「静かに座っている時は問題なくても、活発に動いた時にだけ酸素濃度が低下する人はいるからだ」
血中酸素濃度であれ歩数であれ、ヘルスデータは単体ではなく、他の指標と組み合わせて解釈する必要がある。数字やグラフは、その活用法を知っていなければ意味を持たない。
調査会社Forresterのバイスプレジデント兼主席アナリストのJulie Ask氏は、過去の米CNETとのインタビューで「つまるところ、消費者が買っているのはセンサーではない」と指摘している。「消費者はデータではなく、結果を出す助けになると思うものを買っているのだ」
では、血中酸素データを有効活用するために、スマートウォッチはどのような文脈を用意する必要があるのか。測定結果を他の機能やアプリのウェルネスレポートと組み合わせ、ユーザーが自分の健康状態を総合的に捉えられるようにしてこの問題を解決しようとしている企業もある。例えば、サムスンはSpO2の測定値をGalaxy Watch4の睡眠コーチング機能に組み込み、睡眠パターンの解釈に活用できるようにした。Withingsは、呼吸の乱れを判断するための指標として、心拍数や動作に加えて血中酸素濃度を活用している。
Garminのウェルネス製品管理チームを統括するPhil McClendon氏は、SpO2の測定値を他のヘルスデータの参考情報として利用する可能性にはコメントしなかったが、ヘルスデータの有用性を高めるための取り組みの例として、「ヘルススナップショット」を挙げた。
Garminのヘルススナップショットは、心拍数、血中酸素、心拍変動、呼吸、ストレスなどの指標をまとめ、心血管系の状態を包括的に捉えられるようにしたものだ。McClendon氏によると、この機能は異常の発生時に体内で起きている可能性のある変化を定量的に把握するのに役立つという。
「例えばパニック症状を抱えている人なら、発作が起きた時の身体の状態を記録したデータをPDFにエクスポートし、かかりつけ医に持って行くこともできる」とMcClendon氏は言う。
現在のところ、スマートウォッチで血中酸素濃度を測定する最大のメリットは、自分の身体の正常値を把握できることだ。スマートウォッチは医師の診断には使えないが、体調不良や体の異変に気づいた時に、それを医師に伝える材料にはなる。
ALAのRizzo氏は、「どのデバイスを使うにせよ、重要なのは自分の基準値と比べることだ。値の変化をモニタリングし、基準値から外れた時に気付けるようにしてほしい」と呼び掛ける。「そうすれば現在の行動を見直したり、早い段階で助けを求めたりすることができるようになる」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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