メタバース教育は学習の常識を変えるのか--教育におけるVR活用の可能性と未来

 新型コロナの影響により、オンライン学習の需要は大きな成長を遂げた。FacebookがMetaに社名を変更したことや、Meta Quest2の普及によって、VRやARなどの没入型テクノロジーは、より人々に身近となり、仕事、社交、遊び、学習の方法にイノベーションを起こしている。

 VRの市場の拡大とともに、VR人材の需要も増している。VRの雇用市場の広がりにつれ、VRについての知識や技術を持った人材の需要も今後増していくだろう。スタンフォード大学が授業でVRを取り入れた例をはじめとし、これからはより多くの学校がVRを授業に導入し、学生が新しい方法で創造と学習を行えるようになる。

 一方で、VRや教育者のテクノロジーに関する知識、学習環境に格差があることも指摘されている。多くの学校においてはまだまだVRの導入に障壁がある。そこで、Unity Social Impact と Meta Immersive Learningは、AR/VRのハードウェア、教育コンテンツ、教育者がより教えやすくするために提携をしてVR活用の可能性を広げようとしている。 UnityによるCreate with VRは、対象となる学校にVRヘッドセットを無償で提供し、VRを教えるための教育者向けトレーニングを無償で提供している。

 調査によると、VRは生徒の学習成果にプラスの影響を与えることが示されている。ツールとしてVRを使用すると、教師は生徒のやる気を引き出し、より協調的でインタラクティブな学習環境を作成することが可能である。 VRを従来の教育にうまく統合することができれば、各生徒の能力、スタイル、ペース、学習意欲に合わせた独自の体験を作成し、堅牢な評価を通じて生徒が前進できるようなるかもしれない。

 実際、現代の学生は、レベルやポイント、報酬を備えたゲームやエンターテイメントのシステムに慣れてしまっているため、先生の話を聞くよりもゲーム的な世界への関心が強い。50年前に機能していた教育の形は、今日の学生には効果が薄い。つまり、教育者はテクノロジーと真っ向から闘うか、あるいはテクノロジーを活用して学生たちの生産性を高める必要がある。

 ある調査によると、2018年にさえ、米国の教育機関の18%がVRを完全に導入し、大学の46%がキャンパスで何らかの形でVRを採用していた。VRの専門家の多くは、教育およびヘルスケア業界がVRおよびARの使用において、最適な分野であると信じている。教育におけるVRは2025年までに7億ドルの市場になると予測されており、フォーチュンビジネスインサイトは、教育市場におけるVR市場が、2018年の6億5600万ドルから2026年には130億ドルに成長するとさえ予測している。

子供にとってVR学習は効果的なのか?

 スタンフォード大学のバーチャルヒューマンインタラクションラボの研究チームは、2020年4月から7月まで、子供のVR使用についてのリサーチを行い、300人以上の保護者にインタビューを行った。

●新型コロナのパンデミック以降、子供のVR使用量の中央値は1日あたり20分から30分に増加した。
●授業の前後にVRを用いて講義をサポートすることについて、教育におけるVRの可能性が高いという保護者の意見が見られた。
●多くの保護者は、子供向けの教育用VRコンテンツを見つけるのに苦労していた。
●この調査の対象だった一部の女性は、VRを使用した際にVR酔いを経験し、VRの安全性についてより懸念を抱いた。
●ほとんどのVRヘッドセット会社は、VR使用の年齢制限を13歳と提案しているにもかかわらず、多くの子供たちが以前からVRを使用していた。

 VRの人気が高まるにつれ、VRを教育に取り入れようとしている教育者や組織は、VRの長所と短所、そして制限に注意を払う必要がある。

 この調査でインタビューを受けたある母親は、ロックダウン中に娘がアンネフランクの家のVR体験を探索するのにどのように時間を費やしたかを説明した。これにより、アンネフランクが隠れていたスペースがいかに小さいかをVRを使って理解し、あらゆる意見交換につなげることができたようだ。

 ただし、多くの保護者は、子供がVR体験のコンテキスト化をどのように必要としているかについて指摘した。 難民危機などを前提としたVR体験などはコンテンツとしては非常に価値あるものだが、一方で、抽象的でもある。 つまり、VRによる体験学習ができたとしても、それがなにを意味するのかを結びつけなければ、子供たちは文脈を理解することができない。これは教育全般に言えることであり、VRを単に教育現場に導入すれば良いということではないことを意味する。一方で別の家族は、VRでの難民危機経験を利用したことで、難民危機についての意見交換をより有意義に行うことができた。

 この研究に携わった研究者のFauville氏は、 「学生に実験室で実験を実行させるには、いくつかの原則を理解し、彼らが何をするのか、なぜそれを行うのか、どのように行うのかを理解する必要がある」と結論づけている。

VRに求められるアクセシビリティ

 この研究調査の対象となった保護者は、技術に精通したVR愛好家の傾向があり、その多くはVR企業で働いていた。したがって、一般の人々の平均的な保護者よりも、テクノロジーについてより知識が豊富に持ち合わせていたと思われる。しかし、調査対象の保護者でさえ、子供向けの教育的なVR体験を見つけるのに苦労していた。

 そのため、人々がより教育リソースを見つけやすくするために、研究チームは調査に含まれるVRアプリケーションのリストをまとめている。この多くは、保護者と教育者にとって良い例になるだろう。

 また調査では、VRには性別による差があり、男性に比べて女性の方がVR利用の障壁が高いことが明らかになっている。一部の女性は、VRを使用する際に、VR酔いになる傾向が強いようだ。女性は男性よりも乗り物酔いなどの視覚誘発性の乗り物酔いに苦しむ可能性が高いことがわかっており、VRも例外ではない。

 過去の調査によると、これはVRヘッドセットの多くが女性ではなく男性向けに設計されていることが原因の一つであると報告されている。男性は瞳孔間距離が大きいことが多く、多くのVRヘッドセットは男性の瞳孔間距離に対応しているため、女性のVR酔いの発生率が高くなる可能性がある。また、VRヘッドセットは髪の長い人にとっては不快になりやすい。

 これらの身体的な要因以外にも、女性が男性と比べてVRを楽しむことが難しい理由がいくつか見つかった。調査対象の数人の男性は、子供がVRに没頭してしまうことによって、物理的な現実へ興味を失ってしまうのではないかと、妻が恐れていることを述べた。女性は、ビデオゲームやコンピュータ文化全般に対して、男性と比べて無関心であるため、VRへの関心もまだまだ低い。

 VRのアクセシビリティを向上させるためには、デザインのプロセスに女性を含めることとが重要である。VR開発のすべての段階で、女性が男性と同じように使いやすいデザインであるべきであり、そしてそれを維持できる必要がある。

新しい教育リソース

 VRは、認知障害や障害を持つ子どもたちに新しい教育リソースを提供できる可能性も秘めている。VRを活用する利点の一つは、他人とのコミュニケーション、感情の管理、行動の実践練習を、現実を模倣した空間でトレーニングできることである。例えば、VOISSプロジェクトとFloreoプロジェクトは、子供たちが社会的スキルを身に付けるのを支援するために取り組んでいる。プログラムは、一般的な生活状況が再現された環境で、生徒が場所をナビゲートしたり、VR空間内の対話者の要求に正しく応答する練習などに役立っている。

 教育システムは何世紀にもわたって進化し、常に新しいテクノロジーと学生のニーズに適応してきた。現代の学生は、スマートフォンを介して情報をすばやく収集することに長けている。つまり、彼らは古いプログラムに従って勉強することへの関心は薄くなる。

 VRは、学生と教育者の間をつなぐ一つのツールになり得る。このテクノロジーは、現代の学生にとって快適な環境を再現し、学習をより関連性のある、より面白く、よりインタラクティブなものにできる。 将来、教育におけるVRが学校で本格的に使用されると、我々の予想を超える結果が得られるかもしれない。

齊藤大将

Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/

エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。

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