【事業開発の達人たち】大企業だからこそできる新規事業開発の仕組みがある--NEC・北瀬聖光氏【前編】

藤井涼 (編集部) 石田仁志2022年06月22日 09時00分

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。今回はNEC 執行役員 兼 コーポレート事業開発部門長の北瀬聖光さんにご登場いただきました。

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NEC 執行役員 兼 コーポレート事業開発部門長の北瀬聖光さん(左)

 北瀬さんは、NEC本体で中長期的な新規事業開発を進めつつ、自らが誕生させたBIRD INITIATIVEの代表取締役社長 兼 CEOとして、企業の研究部門が保有する技術をカーブアウトさせる事業やDXコンサルティングサービスもおこなっています。前編では、新規事業を生み出しやすくするために北瀬さんがNEC社内の体質改革を進めていく過程のお話を伺います。

入社してすぐに新規事業開発の道へ

角氏:北瀬さんは1993年にNECに入社されたということですが、随分若く見えますね。

北瀬氏:よく言われます。以前海外のワークショップに行ったときに、名前に「まさ」がつくメンバーがたくさんいて、「君は“ベビーフェース・マサ”だ」とニックネームを付けられたこともあります。実際、新規事業を手掛けている人は若見えする人が多いので、究極のアンチエイジングは新規事業開発だと思っています(笑)

角氏:気持ちが若く保たれますからね(笑)。入社後はどのようなキャリアを?

北瀬氏:最初は大学向けの営業に配属されました。元々はコンピューターグラフィックスの研究者をしていたのですが、「それだけ喋れるなら営業になれ」と。当時大学マーケットは大赤字で部門内に閉塞感が漂っていたのですが、大学と共同で新しい技術を開発し、その技術を基に新規事業を創って赤字を黒字転換させました。

角氏:入社してすぐに新規事業開発ですか?それは凄い。具体的にはどのようなことを?

北瀬氏:大学マーケットで事業をする中で、日本初・世界初の案件を何件も手掛けてきました。たとえば、国内の大学にMacがほとんど入っていなかった時代に東京大学様へiMacを1200台導入し、ウインドウズとのハイブリッドで世界最大規模のシンクライアントシステムを構築したり、いまでは当たり前のウェブブラウザをクライアントUIにした大規模図書館システムをリリースしたりするなど、いろいろと初めての仕組みを開発しています。それらを全国展開する形で事業を大きくしていきました。

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角氏:事業の革新性もさることながら、その前にそのような仕事を取ってくる能力が凄い。ビジネスで一番難しいのはそこだと思うのですが。

北瀬氏:仰る通り、新規事業では検証段階までは順調に進めても、実際に事業化まで持っていける人は少ないです。社内ではそれを「検証症候群」と呼んでいて、リアルな事業に近づいて面倒事が増えていく壁をちゃんと乗り越えられる人間を育てていくよう心掛けています。

角氏:ビジネスに近づいていけばいくほど、パラメーターやステークホルダーが増えていってハンドリングが難しくなり、どこかで諦めてしまうパターンが多いですよね。でも北瀬さんは、ビジネスとして回していくところまで進められたと。

文教マーケットを黒字化させコーポレート改革へ

角氏:大学領域はどれくらい続けられたのですか?

北瀬氏:15年ですね。黒字転換したことが評価され、次に文教マーケット全体の事業改革を任されました。その時は、現在のGIGAスクールに繋がる小中学校への情報端末導入の啓蒙活動をしながら、不採算事業を黒字化させたり売却したりするなどで、営業利益率を6%アップさせたんです。その結果、今度はNEC全社でといわれ、2014年からコーポレートの新規事業開発チームであるビジネスイノベーションユニット(BIU)に異動しました。

 実はその前に、NEC株が100円を切って経営危機に陥った時期があったんです。それで2013年に会社を変えるための中長期的な事業開発を推進する専門部隊としてBIUが発足し、翌年に具体的な仕組み開発に入った段階で参加しました。

角氏:BIUではどのような取り組みを?

北瀬氏:当時は委託される事業領域をお客様側が線引きしていて、NECでは線引きされた後のICT領域内でモノを考えていたんです。そこで、まず自らが事業を創れるようなプロセス作りから始めました。次に、中長期の事業を創っていくためには企業経営や事業、プロダクトをデザインしていく機能が必要なので、NECグループに点在していたデザイナーを集約してデザインセンターを立ち上げました。

角氏:なるほど。

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フィラメントCEOの角勝

北瀬氏:その頃、社外取締役から「NECはいい技術を持っているのに事業化が下手だ」という指摘が続いていたんですね。そこでBIUは、2016年に研究所の技術をいかにマネタイズするかに集中、その1つとして2018年にはdotDataというAIのスタートアップを北米で発足させることができました。また、それまでBIUはコストセンターだったのですが、2018年には自らが事業主体者になって、利益を計上できるように体制が変わりました。その後BIUは進化を続け、昨年4月に研究部門とBIUを統合し、グローバルイノベーションユニット(GIU)という形になっています。

 それらの活動をしていく中で社内にはいろんな壁があり、その壁を乗り越えていく中でいろいろな規制緩和をして、イノベーティブな企業に変わっていくために人事と評価とガバナンスを変えました。

社内のルールを変えて5件の事業をカーブアウト

角氏:どのように変えていったのですか?

北瀬氏:まず人事では、大きな事業を創るためキャリア人材を柔軟に採用できるようにしました。職種についても、営業やSEなどの職種の並びに、BizDevとデザインを包含した「ビジネスデザイン」という職種を作り、彼らを組織内で成長させていくための教育プログラムも作っています。またそのような人材は社内評価が低い人が多いので、社外有識者も審査する形での飛び級制度も作りました。評価されない仕事は続きません。評価されない仕事にはいい人は来ず、いい人が来ない新規事業は潰れますからね。

角氏:なるほど。新規事業や担当者の評価方法は?

北瀬氏:評価にあたっては、新規事業はすぐに利益が出るわけではないので、いまやっているプロジェクトを売却するといくら値が付くのかというバリデーションを実施しています。そのプロジェクトはいくらの価値がつくか、価値を高めるために具体的に何をするかを考慮してフレームワークを開発し、新規事業の評価の仕方を作りました。昨年10月からはBIUの新規事業だけでなく、ビジネスユニットや現場の大型プロジェクトについても同じ考えを適用するようになっています。

角氏:さらっとおっしゃいましたが、相当難しくないですか。まず、既存の概念との闘いがありますよね。そこをどうやって説明・説得されたのですか?

北瀬氏:新事業開発が必要なことはみなさん理解されていて、新規事業が必要ということに対しては誰もノーとは言いません。でも、具体的な機能や評価、予算のところは当然大変でしたね。

角氏:その中でどうやって新規事業を創っていったのですか?

北瀬氏:2014年頃はキャッシュが乏しくて、新規事業界隈の方々にどうすればいいか相談しても無理だと言われて(笑)。でもお金が無いなら外に取りに行くパターンもあるとアドバイスをいただき、その後外の資本を使ってdotDataと、私が社長を務めるBIRD INITIATIVEなど5件の事業をカーブアウトしました。

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角氏:5件は凄い。ただ外にお金を集めに行くのも簡単じゃないですよね。コツはあったんですか?

北瀬氏:NECの看板はあったと思います。裸一貫のスタートアップではないのでバックアップは当然あるだろうと。

角氏:やはり見込みは立てやすいとなりますよね。

北瀬氏:大企業から数々のスタートアップが生まれていますが、その際は一般的なスタートアップと同じことをするのでは意味がないと思うんです。大企業だからこそできる新規事業開発の仕組みを作らなければならないというのが私の考えです。不確実性が高い領域はスタートアップで市場にチャレンジし、見通しが立ったら組織に取り込み、アセットを使ってスケールアウトさせる力を一気に上げる。または逆に大企業内のリソースを移してカーブアウトさせる。するとスタートアップにとっても事業性に繋がりますし、カーブアウト元にとってもそれを使った柔軟な事業展開、シナジーが作れます。それらを組み合わせることが大企業流のスタートアップの事業開発だと思っています。

角氏:元々企業として持っている資源をどう生かしていくか、内部外部との関係性を使って大きくさせていくのが醍醐味というか、強みが一番生きるところですよね。

創薬事業に参入するために定款を変更

北瀬氏:そして最後にガバナンスですが、dotDataはNECを退職した4人で作ったのですが、その会社にNECの12万人のグループポリシーを適用するのはナンセンスだったので、正式に適用除外するルールを作りました。また、NECが創薬事業に参入した2019年には定款変更もしています。人事の仕組みを作り、評価の仕組みも作り、定款も変えました。かなり新規事業を進めやすいように変えてきたと思っています。

角氏:そういった大きなことをするときに、面倒だから見なかったことにしようという逃げの姿勢がないのが素晴らしいです。

北瀬氏:実はdotDataをカーブアウトする時、こっそりやってしまおうと思ったのですがバレまして(笑)。大きな事業をしようとするといつかは目に留まる。なら最初から真正面からぶつかっていった方が、結果的により遠くにより早く辿り着けることを学びました。

角氏:1回失敗したところからの学びがあったんですね。ただ表情も話ぶりも一貫してポジティブですね。この感じで話をしていると周りは安心します。そういう意味では、パーソナリティ的に得をされているのでは?

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北瀬氏:すごく得をしていますね。私は「Stay Positive(ステイ ポジティブ)」と言い続けているんです。新規事業に取り組んでいる際、率いている人が下を向いていると怖いんですよね。実は営業になった当初は、私もうじうじしていました。俺を営業にした上司が悪い、あれが悪いこれが悪いと。それがある本を読んだとき、「わかりましたといったのは自分だよね、本当にやりたくなかったら逃げればいいし、転職すればいいだけの話。結局は自分で言ったよね」と思えるようになって、他責にすることはなくなりました。

角氏:そこが気付きのタイミングだったんですね。

 後編では、NECとBIRD INITIATIVEが進めている新規事業についてお話しいただきます。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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