唯一性の高いモノを所有していることをデジタル的に証明し、価値を生み出すNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)。そのNFT市場に2月に参入して以来、独自のプラットフォームを展開している「Rakuten NFT」において、4月からJリーグとコラボレーションした新たな試み「J.LEAGUE NFT COLLECTION PLAYERS ANTHEM」が始まっている。
特別に編集されNFT化したJリーグ選手のプレー映像を、一般のユーザーが購入、所有できるもので、Rakuten NFTとしてはスポーツ分野への取り組み第1弾となる。Rakuten NFT内ではそれらコンテンツの個人間売買もでき、サッカーファンとしてコレクションしていくことも、所有権を譲渡するなどして資産として運用することも可能になっている。
初回となる4月12日の発売分は、6種類各300個を用意し、抽選販売を実施した。5月20日には第2弾の販売も開始したばかり。このようにRakuten NFTがJリーグと協業することで今後どんなことが起こるのか、あるいはそこにJリーグや選手、消費者の間でどんなメリットがあるのか。Rakuten NFTを担当する、楽天グループ NFT事業部 日置ルイ氏、IPマネジメント事業部 菊池辰也氏、砂子達也氏の3人に話を伺った。
——はじめに、改めてNFTがどういうものかと、「Rakuten NFT」のプラットフォームとしての特徴を教えてください。
日置氏:NFTを簡単に説明すると、ブロックチェーン上に記録されたコンテンツの証明書です。これまでは、たとえばデジタルデータだと自由に複製などができてしまい、場合によっては不正な行為にもつながっていました。しかし、コンテンツをNFT化して証明書となるトークンを付与することで、そのコンテンツがいつどこで、誰の手に渡ったのかが記録され、それが本物であることの証明ができることになります。
一般的なNFTプラットフォームにおいて、そこでNFTを購入するまでにはいろいろなプロセスを経る必要があります。まずウォレットを開設して暗号資産を購入し、それでNFTを購入する、という手順を踏みますので、多くの方が気軽に試せるようなものではありません。
一方でRakuten NFTは、楽天の会員登録を行い、クレジットカード情報さえ登録すれば利用できます。Rakuten NFTでは「NFT市場の民主化」をビジョンに掲げていまして、一般のユーザーのみなさんに手軽にNFTを楽しんでいただけることを目指しています。NFTの売買のなかで楽天ポイントも使える、貯まる、というのも特徴ですね。
——コンテンツとしてはどのようなものを扱っていますか。
Rakuten NFTは、ファンコミュニティが醸成しやすい分野のコンテンツを扱うことにしています。注力分野はスポーツ、音楽、アート、漫画とアニメ、アイドルという5つのカテゴリーです。今回、スポーツジャンルではJリーグから始めることになりましたが、他のカテゴリーにおいても、コンテンツ開発は大手IPホルダーさんと一緒に進めています。
これまでにアニメ「ULTRAMAN」や、競馬をテーマにした「黒鉄ヒロシG1激闘史『2010年シリーズ』」などのNFT商品を販売し、開始数時間で完売するなどご好評をいただいています。その後もさまざまな企業様のご協力のもと、アイドルやアニメ関連のコンテンツを販売してきました。
——JリーグのNFTをリリースするに至った経緯を教えてください。
菊池氏:Rakuten NFTをどんなラインアップにすべきか議論していくなかで、当然のようにスポーツという括りが出てきました。スポーツはある意味楽天のお家芸でもあります。楽天がプロ野球とJリーグのチームをもっているから、というのはもちろんのこと、他のスポーツについてもいろいろな形で支援する機会が多くありますし、海外でもスポーツとNFTの組み合わせは注目が高まっています。海外のNFT事例でいえば、米プロバスケットボールリーグのNBAと協業した「NBA Top Shot」のようなモデルケースもできています。
Jリーグをテーマにするというアイデアはすぐに出てきましたので、われわれの方からJリーグさんのドアをノックさせていただいて、ご一緒しませんか、と。そうしましたら「コンテンツを楽天さんの方で作ってみてはどうか」とご提案いただけたのがきっかけです。
——どのようなコンセプトでJリーグのNFTを開発したのでしょう。
菊池氏:NFTの1つの側面である「投資」だけにフォーカスしてはいけない、楽天らしさを持つべきだということは肝に銘じていました。Jリーグの関係者、クラブチーム、選手、サッカーファンの方々にとってNFTのあるべき姿は何か、をわれわれのなかで何度も議論していくうちに、「すべてはファンのためにあるべき」ということがキーワードとして挙がりました。
Rakuten NFTを立ち上げたタイミングは、感染症防止のためにマスクを装着しなければならず、気軽に試合観戦に行けなかったり、試合自体が開催できなくなったりする時期でした。だからこそ生まれた考えだったのかもしれませんが、われわれとしてはスタジアムのピッチ上で起こる感動をみんなに届けたい、その感動をファンのみなさんが所有できるようにしたい、という点を一番大事にしたいなと。ですので、Jリーグ第1弾のNFTでは、ピッチ上の感動を生のままお届けするべく、印象的なシーンや瞬間を切り取って提供しています。
また、今のところまだ広くは知られていないNFTではありますが、きっと近い未来にNFTは、多くの人がJリーグやチーム、選手に関心をもっていただくときの入口みたいなものになるとも考えています。そこに先駆的に関わるわれわれは、NFTについてもっとわかりやすく伝えていく必要があると思っています。実は私も、隣に座る砂子も、子供の頃からサッカーとともに育ってきました。そういうこともあって、NFT上で何をすればサッカーファンのみなさんに喜んでいただけそうか、ということをじっくり考えながらアイデアを練ってきたつもりです。
——サッカーファンが持ちたくなるようなNFTにしようとしている、とのことですが、それはたとえばどんなものなのでしょう。
菊池氏:サッカーファンのなかにも、子供の頃にやっていただけの人もいれば、大人になった今もずっと続けている人もいます。また、単に「サッカーが好き」と言っていても、人によって「ちょっと好き」から「すごく好き」まで幅があったりして、それらさまざまなレベル感に合わせた何段階ものコンテンツを設定しなければいけないな、と考えました。
たとえば選手のすばらしいワンプレーの映像に対して、何千円、あるいは何万円ものお金を出せる方というのは、サッカーや選手が「すごく好き」な人だと思うんです。そういう方は、映像はいじらないで生のものがほしい、魚は生の刺身で食べたいんだ、という考えかもしれません。なので、NFTとして提供するときにはわれわれの方で映像をこねくり回すことは避けた方がいいと考え、第1弾では本当に生のままのシーンを切り取った映像を販売させていただきました。
ほかには、特定の選手が好きだから買う人もいるでしょうし、将来有望そうな選手の未来に投資する目的で購入される方もいるでしょう。前者の方にとっては、生のシーンを切り取った映像のNFTは希少価値レベルとしては低めであっても、サッカーコンテンツとしては魅力的であると考えられます。
一方で、NFT界隈から入ってくるような後者の方にとっては、希少性みたいなところに関心があるでしょうからそういう人たちに向けてシーンとアートを掛け合わせた唯一無二のものにする、という考え方もあります。5月20日からの第2弾で提供するものがまさにそれで、パスをつないでゴールするというシーンに、クリエーターの手でエフェクトなどを加えて格好いい映像にし、よりコレクション性の高いものにしようと思っています。
砂子氏:あと、人気選手のコンテンツだけ揃えているとどこかで手詰まりになってしまう、とも考えています。人気選手だから価格を高く設定する、という方法も、「ファンのために」という元々のポリシーとは合わないところがあります。純粋にサッカーが好きな人も含め、みんなが感動を味わえる、そういったことをNFTを通じて演出していければいいですよね。
——NFTによってJリーグやクラブチーム、選手にはどんなメリットが生まれるとお考えですか。
菊池氏:ズバリ言うと、タッチポイントを増やせることです。すでにNFTや暗号資産をご存じだったり所有していたりする方もいますが、そういった方がファンになるきっかけになるのではないかと。たとえば投資目的でNFTを所有される方のなかには、普段Jリーグはあまり見ないけれど、調べてみたときに、「将来有望なこんな選手がいるんだ」と気付いて、そのコンテンツの価値向上を見据えてNFTを購入しておこう、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。少なくともJリーグを知っていただく機会は作れているので、最初の入口としてはそれだけでも意味のあることではないかと思っています。
反対に、Jリーグファンの方たちはNFTのことを知らない人ばかりだろうと思います。しかし、「楽天」という名前でNFTを展開していくことによって、広く知ってもらってNFTに親近感をもってもらえれば、NFT市場を盛り上げることにもつながるはずです。
そしてもちろん、業界においては収益の面でもメリットがあると考えています。今回のNFTは、売り上げの一部がJリーグ経由でクラブチームに還元される形になっています。ファンの方が買ったときは売り上げが発生し、他の方に譲渡したときは一定の手数料も発生します。そこから一定額をJリーグさんにお渡しする形で、その後はクラブチームにも配分されると伺っています。サッカーから少し遠いところにあると思われがちなNFTですが、間接的にはきちんと収益として還元できる、これも大きな意義のあることだと思っています。
——NFTプラットフォームのプレーヤーとしてはほかにもたくさんあります。Jリーグのコンテンツを扱うにあたり、他社と競争になるといったことも視野にあるのでしょうか。
菊池氏:そうですね。競合となる他のNFTプラットフォームでも扱うようです。ただ、われわれはコンテンツを独占したいという考えは一切ありません。なぜなら、NFT市場全体で盛り上げていかないと、永遠に細い人たちの深いビジネスのままで広がらないと思っているからです。いろいろなプラットフォームがJリーグの企画にエントリーされたと聞いたときには緊張感は増しましたが、そのなかでわれわれなりの独自性が出せればいいなと。
——その観点で、Rakuten NFTの優位性はどんなところにあるのでしょうか。
菊池氏:先ほど日置が申し上げたように、楽天の会員登録をしてクレジットカード情報を登録すれば利用できるという手軽さも含め、Rakuten NFTは安全で、ほかにはないわかりやすさがあることですね。NFTのハードルを一気に下げようとしているわれわれの気概を見ていただいたからこそ、Jリーグさんの方でもRakuten NFTと一緒にやろうという判断を下されたのだと思っています。
——Rakuten NFTだからこそコンテンツとしてできること、というのはありますか。
菊池氏:今後、楽天のアドバンテージを発揮できるところがあるとすれば、楽天グループは70以上の事業を展開していますので、そことのリンケージは出せると思います。たとえば楽天チケットとのリンクですね。試合のチケットをNFT化して、観戦したという記念や証明に使えるようにできますし、あるいはサイン入りグッズにNFTを付加して真正性を保証することもできると思います。他にもいろいろな事業がありますので、それらとNFTをリンクさせたビジネスが展開しやすいのも、われわれの強みだと考えています。
それと、一般的なNFTプラットフォームのような広く無限に転売できる世界ではなく、Rakuten NFTのなかで楽しんでいただけるサービスですので、ユーザーの方はわれわれのなかで管理できる状態にあるのもビジネス側ではメリットになると思います。当初Jリーグさんの方でも懸念点として挙げられていた部分ですが、NFTという市場に対して、本当に信頼性があるものなのか、転売を助長するようなことにはならないのかなど、まだ慎重になってらっしゃる業界の方もいらっしゃいます。
それに対してRakuten NFTであれば、仮に不正な転売を重ねるなど問題になるような動きがあったとしてもプラットフォームのなかでコントロールできます。われわれのプラットフォームだからこそ、そのなかではみ出ないように運営できる、安心、安全にビジネスできるところはポイントかなと思っています。だからこそJリーグさんも真っ先にわれわれとの協業を進めていただけたのだと思いますし、すでにコラボレーションしている他のIPホルダーの方ともビジネスが進められているのかなとも思います。
もちろん、誰もが自由に購入したり、所有権を譲渡したりできるのもNFTのいいところですので、転売の問題があったときにどう制限するか、しないかはバランスも考慮しなければなりませんが。
日置氏:ちなみに、これまでにもチケット購入者に対して限定のNFTを付与するといった取り組みはしてきました。3月にはバンダイナムコピクチャーズのアニメ「TIGER & BUNNY」のイベント来場者向けの特典として、NFTによるコンテンツをプレゼントしました。また、4月にあった「ULTRAMANワールドプレミア&オーケストラコンサート」でも来場者に特典としてCGアニメーションのNFTを配布させていただきました。
そんな風にデジタルノベルティとしてNFTを活用していくこともすでに始めていますので、単なる証明書という使い方だけでなく、モノからコトにつながるような体験型のプロモーションに今後もどんどん活用していく予定です。
砂子氏:最近ですと、遊園地の優先チケットをデジタル化するといった動きもありますが、たとえばチケットに付与されている限定NFTを提示したら会場で選手とタッチできるなど、プラスアルファの特別な何かができるような取り組みは、わりと早めのタイミングでできるかもしれないですね。
——今後の展開について可能な範囲で教えていただけますか。
菊池氏:われわれが注力する5つのジャンル、ファンコミュニティの醸成がしやすい分野においては、すでに主要なIPホルダーとお話させていただいています。興味、関心のレベルが異なる人がいる、という話をしたように、そこに対していろいろなバリエーションで提示していく必要があると思いますが、どのジャンルについてもRakuten NFTが関わっていけるようにしたいですね。
今後リリースするコンテンツのなかには、メジャーなものもあれば、マニアックなものもあるかもしれません。あらゆるレベルのコンテンツを網羅することが「NFT市場の民主化」につながるものだと思いますので、われわれとしてはとにかく幅広く、もっと深掘りしていけるように準備しているところです。
——Rakuten NFTは将来的にどんな世界を目指しているのでしょう。
日置氏:まず今年中には日本一のNFTプラットフォームになることを目指しています。2023年以降には個人でNFTを作れるようにし、さらに海外展開も視野にいれて進めてまいります。海外のコンテンツを取り扱うことや、海外のみなさまにわれわれのコンテンツを提供することも考えられます。漫画やアニメなど、海外からの注目度が高いコンテンツは日本にはたくさんありますので。コミュニティを通じて、ファンのみなさまがNFTをもつ喜びをより大きく感じられるように、新しい機能、新しいコンテンツを順次リリースしていく計画ですので、ご期待ください。
砂子氏:ファンの方々が直接NFTを出品できるようになれば、コミュニティを醸成したいというわれわれが元々狙っていたところの目標にもさらに一歩近づくのかなとも思います。サッカーではサポーター同士がユニフォームを交換したり、ライバルチームのサポーターであっても試合終了後は仲良くなったりするような、気持ちの交わりを大事にするカルチャーがあります。NFTもそういったコミュニティを醸成する1つのツール、手段になる可能性もあるのではないか、と考えています。
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