新しい働き方として注目を集めている「ワーケーション」。そのワーケーションを、5年後、10年後の新しい働き方・暮らし方・生き方として定着させることを目指している組織がある。日本ワーケーション協会だ。
日本ワーケーション協会は、政府がワーケーションの推進を決定する以前からワーケーションの普及、定着を進めている。独自の活動として注目を集めているのが、ワーケーション施策を実施したい自治体とワーケーションに取り組みたい企業とのマッチングや、ワーケーションの専門家を認定する公認ワーケーションコンシェルジュ制度だ。
全国各地にいる公認ワーケーションコンシェルジュが、地域の魅力の発信やイベントの企画、ワーケーション事業の展開などの相談に乗っている。
日本ワーケーション協会の設立は、2020年7月1日。政府がワーケーションの推進を決定する前のことだ。代表理事の入江真太郎氏が、ワーケーションに興味を持ったのは2018年。海外からやってくるノマドワーカーたちからワーケーションの話を聞き、日本でも新しい働き方・暮らし方・生き方として定着するのではないかと思ったそうだ。
その背景には、入江氏が、幼少の頃から全国各地を移住し、観光、海外進出支援事業に携わってきたことがある。入江氏は、長崎で生まれ福島で出生届を提出という珍しい出生を皮切りに、父の仕事の都合で幼少期は、兵庫、秋田、茨城、徳島に移住した。大学卒業後は、旅行会社に就職。さまざまな土地で暮らしてきた経験を活かし、日本各地でのツアーを企画した。
その後、東南アジアを中心とするインバウンド系のベンチャー企業に転職。観光、海外進出支援事業を行ない、2018年には「Discovery Real Japan」を創業し、引き続き、観光、海外進出支援事業に従事した。これまでの人生の中で、様々な地域と関わる大切さ、リモートワークで働くことが染みついているからこそ、ワーケーションに惹かれた。
そんな入江氏に、ワーケーション施策の課題や、渡航来航の自由が戻った後のワーケーションについてなどを聞いた。
——日本ワーケーション協会を設立するきっかけは何だったのでしょうか。
コロナ禍によって、世界中で働き方や生き方が見直されるなと思ったことです。日本では、東京一極集中に関する問題が浮き彫りになるんじゃないかと。その問題に対して、ワーケーションという新しい働き方・暮らし方・生き方は合っているし、ワーケーションを底上げする組織が必要だと思い、(日本ワーケーション協会の)設立に至りました。
——日本ワーケーション協会では「ワーケーション」をどのように定義していますか。
われわれの考えをお伝えする前に、一般的に紹介されるワーケーションの説明から入りたいと思います。よくあるワーケーションの説明は「観光地やリゾート地で休暇を取りながら働くこと」です。ワーケーションがワークとバケーションの造語ということもあって、こういう説明が多いのですが、休暇を取りながら働くって矛盾していますよね。
われわれが考えるワーケーションは、「非日常の土地で仕事をすることで、生産性や心の健康を高め、より良い働き方・暮らし方・生き方を実施することができる1つの手段」です。
——ワーケーションのバケーション部分は必須ではないと。
そうですね。バケーションだけではない取り組みは増えていますし、そもそもバケーション文化が日本にはないので、バケーションを安っぽく捉えすぎている施策が多いと感じています。
たとえば、ワーケーション施策でのモニターツアーなど。ツアーの中に地域の観光コンテンツを詰め込みすぎて、仕事2時間、観光5時間みたいなことがよく起きています。ただ、結局それってただの観光ツアーだよね、と思うのです。
——たしかに、地方活性化の側面が出すぎていて、仕事の時間がなかなか取れないワーケーション施策を見かけることも多いです。ほかにも、ワーケーション事業を行なうために予算をとったけれども、結果的にワーキングスペースだけができてしまっているケースも見かけます。
そうですね。ワーケーションが推進されて、いろいろな自治体が手を挙げるようになったのは嬉しいことなのですが、地域の課題を解決したいというビジョンがあって、そのためにワーケーションが必要だと思って取り組んでいるところと、とりあえず流行に乗ろうと思っている自治体と二極化してしまっているな、と思います。
たとえば、長崎県の五島市などは分かりやすいですね。移住という課題があり、ワーケーションを通して五島列島でリモートワークをしてもらって、地域を楽しんでもらうことで、移住につなげています。
われわれとしては、ビジョンをしっかりと持ったワーケーション施策を行なってほしいので、ワーケーションに関するイベントやワークショップ、よくワーケーションの事例で挙がる長野や和歌山以外の地域のワーケーション情報などを積極的に情報発信しています。
——自治体やさまざまな団体がワーケーション誘致をはじめたことで、個人ではなく企業としてワーケーションに参加する事例も増えてきました。ただ、社内制度や福利厚生などが追いついていないなどの課題を抱えている企業も多いです。ワーケーションを実施したい企業はまず何からはじめるべきでしょうか。
社員研修などでワーケーションを活用して、1度体験してしまうことでしょうか。われわれはワーケーションを7つのタイプに分類しているのですが、会議型、研修型、ウェルビーイング型(福利厚生型)などのワーケーションを行なう企業は増えています。たとえば、オフィスで研修するのではなく、各地域に場所を変えて行なうなど。そういう時に自治体が誘致しているモニターツアーは活用しやすいので、おすすめです。
企業にとってのワーケーションの意義や、ワーケーションのタイプ分けの詳細などは、日本ワーケーション協会の「ワーケーションとは?」というページにご用意がありますので、こちらも見ていただければと思います。
——すぐに動けないような企業はどうするのが良いと思いますか。
無理にワーケーションをしなくても良いと思います。そして、まずは社員の選択肢を広げてあげてほしいと思います。コロナ禍でリモートワークをしていたけれど、結局オフィス出社に戻った企業の社員が辞めるケースが増えています。オフィス出社に戻すことは悪いことではないと思いますが、社員の選択肢を広げるためにも、一度「オフィス出社とリモートワークどちらが良いか」を社員に聞いてみたほうがいいと思います。
たとえば、オフィス出社希望が8割、リモートワーク希望が2割だった場合、2割はリモートワークを希望しているわけです。まずは、その社員たちが満足して働ける環境を考えてあげる。そこからではないでしょうか。
——現在コロナ禍で渡航や来航に制限がかかっていますが、コロナ禍が落ち着いて海外にもワーケーションに行けるようになった時のことはどのように考えられていますか?
海外に普通に行けるようになるということは、海外からも普通に日本に来られるということ。ですので、われわれはインバウンドワーケーションに関しても取り組みを行なっています。ただ、海外の人からみた日本の評価がまだまだ低いという現状があります。
「Nomad List」というノマド生活に向いている都市がランク付けされていたり、ノマドワーカーが口コミを投稿していたりするサイトがあるのですが、日本では、大阪のランクは313位、東京のランクは314位、京都のランクは746位とかなり低いです。
理想でいえば、東京・大阪・京都辺りは50位以内に入っていないといけないと思います。それに東京の順位が上がれば、自ずと他の都市の順位も上がると思います。われわれとしても危機感を持っているので、東京や大阪、福岡の自治体や観光協会とインバウンドワーケーションについて話し合いを少しずつ始めています。
——最後に、日本ワーケーション協会として今後の展望を聞かせてください。
3つあります。1つ目は、ワーケーションを体験する、実践する人を増やすこと。そのために、日本ワーケーション協会のページに具体的なワーケーション事例を増やしていったり、会員特典を充実させたり、今以上に企業や地域と連携をとったりするなどの動きをしています。
2つ目は、補助金なしでワーケーション誘致ができる地域を増やすこと。今は補助金があるのでモニターツアーを企画している地域も多いと思います。でも、立科町のように利用者が特別な補助制度を使わずにワーケーション誘致をできている地域もあります。
ビジネスの観点で考えると、いつまでも補助金に頼っているわけにもいかないので、2022年は補助金なしでも行きたくなるような地域を増やしたいと思います。
最後は、日本ワーケーション協会の会員と、公認ワーケーションコンシェルジュの増加です。2022年は会員数を現在の138から300まで増やしたいと思っています。公認ワーケーションコンシェルジュに関しては、(1)ワーケーション実施者、(2)地域の魅力を訴求できる者、(3)ワーケーションに関する専門知識・技術を有する者の3つのジャンルがあるのですが、(2)地域の魅力を訴求できる者を現在の45名から70名まで増やしたいと考えています。
1月に東京23区から地域の魅力を訴求できるコンシェルジュが誕生しました。これは、東京も1つの地域として捉えている私たちならではの考え方に、共感いただいて立候補いただいたと感じています。
東京の人が各地域に行くだけではなく、地域方の人が、また、東京など都市部に住んでいる人が、近くの少し場所を変えた場所でワーケーションをするというのも重要です。東京圏を中心に大阪圏や福岡圏などの都市部の魅力を訴求できる公認ワーケーションコンシェルジュももっと増やしていきたいと思います。
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