前回は、2021年8月に実施したウェブアンケートより、EVユーザーの現状の悩みを深掘りし、その大半を占めるのが充電スポットにおける先客問題であることについて述べた。
今回は、2月中旬にプラゴのオフィスで実施したグループインタビューで話された、EVユーザーたちのリアルな本音、EVライフについてお伝えしたい。
グループインタビュー概要は以下の通りである。尚、EVユーザーでもある筆者は今回、インタビューの被験者側で参加したのだが、充電サービス側としてではなく1人のユーザーとして同じ空間に集った仲間たちと共に充電体験や悩み、願いを共有できたことは大変貴重な経験であり、今後の開発に向けて大いに励みとなった。3連休最終日の日曜日、雨の中にも関わらず貴重なお時間を調整しご協力くださった参加者の皆様には、この場を借りて改めてお礼申し上げたい。
グループインタビュー概要車種 | 自宅充電 |
---|---|
日産リーフ | なし |
日産リーフ | なし |
日産リーフ | なし |
日産リーフ | あり |
日産e-NV200 | あり |
HONDA e | あり |
テスラモデル3 | なし |
テスラモデル3 | なし |
尚、運営側のEVSmart 寄本氏、石井氏、またプラゴ ソフトウェア開発リードエンジニアもEVユーザーである。当日は11人のEVユーザーが集まったこととなる。
第3回を読んだ読者の中には、やはりEVを買うにはまだ早いのではないかと感じられた方もいるようだ。
今回はEV黎明期に乗り始めた先輩ユーザーから、初めて運転する車がEVという(ガソリン車運転経験なし)次世代ユーザーを含め、彼らのEVライフの楽しみ方からポジティブな面も伝えていきたい。
当日の参加者は自宅に充電設備がない充電難民が5人、自宅充電設備ありが3人。自宅充電設備あり側にはEVを乗り始めたのをきっかけに、電気工事士2種の資格をとって自宅に充電設備をつけたという方がいて、会場内では一斉に「おおっつ!」という感嘆の声があがった。本人はそういったスキルアップも楽しんでいるらしく、休憩時間には、早速他のユーザーとその話題で盛り上がっていた。
印象的だったのは日産「e-NV200」のオーナーの方である。この車には蓄電池機能があり車から電源供給が可能なことから、自宅が地域の災害拠点にもなっているとのことだった。
そういった地域とのつながりから、社会課題に対する意識の高い人との出会いを多く経験し、新規ビジネスが生まれたというのだ。
また当日は「夕刊フジ」でEV放浪記を連載中のライター、篠原知存氏も参加していたのだが、EVで取材先に訪れる際、充電スポットが使えなかったり、探さなければならないマイナス要素に触れつつも、地元の方に充電スポットを聞いたり、教え合ったりすることで新たな人との出会いが生まれるのも楽しいと話していたのも興味深かった。
結果、EVに乗るんじゃなかった、次はガソリン車を買うという方は誰もいなかった。確かに国内のEVインフラはまだまだ脆弱だ。しかしEVユーザーたちは現状の不便さも、新たな人とのつながりに変え楽しんでいる。
とは言え、実際の充電環境の整備は喫緊の課題である。次にEVユーザーたちの充電事情について聞いた。
充電頻度は各EVのバッテリー容量や走行距離にも左右されるが、当日の参加者に聞くと大きくは以下の3通りであった。
A氏(バッテリー容量40kWh、自宅充電なし、月間走行距離:500~600km)
「街乗り中心で、週一回充電している。近距離にディーラーが多いので充電には困らない。自宅が集合住宅なので充電設置にはハードルが高そう。つけるとしたら経営している店舗につけたい」
B氏(バッテリー容量24kWh、自宅充電あり、月間走行距離:1000~1500km)
「自宅充電できるので近くは困らないが、航続距離が最大で走れても70キロ程度なので、遠乗りの際は充電スポットで各駅停車のように充電していくことになる。10分入れても5~6キロ分しか充電できないので、結果近距離しか乗れない。容量の大きいバッテリーに積み替えたい」
C氏(バッテリー容量50~75kWh、自宅充電なし、月間走行距離:1500km)
「街乗りはもちろん、遠乗りもEVで楽しんでいる。19時以降は駐車場料金が2時間無料になるスポットで週一回充電している。最近は2~3台待ちもざらになってEVが増えてきたことを感じている」
各EVユーザーのライフスタイルによってEVに求める機能、充電頻度などは変わるわけだが、全員が一致した部分は、EVシフトの課題は車両の航続距離の長さを伸ばすことではなく、充電にかかる所用時間の短縮と1度に充電できる量、充電スポット設置数の増加ではないかということだ。
運転自体は2時間程度走れば休憩がしたくなる。その際に待ち時間なくスムーズに必要量充電できるとすれば、航続距離は250~300kmあれば十分なのではという意見だ。
参加者のうち完全に電欠してしまいレスキューを呼ぶまでの経験者はいなかったが、近い状態になった方は数人いた。
次に、目的地充電の必要性を考えさせられるユーザーの方の電欠恐怖体験を紹介しよう。その方が箱根の充電設備のない宿泊施設に泊まった際の経験だ。到着時の充電残量は10%を下回ったところ、事前に近くに充電設備があることは確認していたので、その日はそのまま宿で休んだという。
ところが朝起きて車に乗ると残量は0%。EVは0%になっても数キロは走行可能なので、すぐさま目星をつけておいた10キロ先の充電スポットに向かった。
何とか無事着いて安心したのも一瞬、なんとその充電スタンドは故障中だった。次に近い10km先の道の駅を目指す。だが、悪いことにその場所は坂道を登り切ったところにあり、既に0%の愛車は思い切りアクセルを踏んでも30kmの速度も出ない。
祈るような気持ちでやっと道の駅に到着してやっと充電ができたそうだ。
ファシリテーターの寄本氏からも、もう最後は歩いた方が早いんじゃないかというくらいの“亀状態”になったことがあるとのコメントがあった。
ここで、亀状態の説明を加えると、日産の「リーフ」では電池残量が少なくなると「電池が残り少なくなりました」という音声メッセージにはじまり、段階的に各種アラートが出る。ついに電欠間際の状態が近くなると出現するのが亀マークである。
亀状態というワードに参加メンバーが一斉に笑ったところをみると、近い状態になった経験は車種に関わらず多いのかもしれない。
故障を含む稼働状況が、各自動車メーカーの種別を問わずオンタイムで共有されるような
仕組みが望まれると共に、プラゴでも宿泊設備で休んでいる間に充電ができる目的地充電の普及に勤めていく決意を新たにしたエピソードだった。
急速充電の所用時間30分について、筆者は第3回で、「待つには長く、用事を足すには短すぎる」と述べた。他のユーザーたちはどう過ごしているのか聞いてみた。
車内でSNSをしている、充電スポット周辺を散歩する、食事にいったら戻れないのでコンビニで買ったパンなどを車内で食べるなどがあげられた。
高速道路で急速充電中の過ごし方については、1人での食事などの場合は30分で何とか済ませられるかもしれないが、一般的には45分くらいはかかるのではという意見が多かった。なかにはトイレだけなら最速で11分とタイムを計った方もいたが、30分という時間は調整が難しい長さと感じる方が多いようだ。
ショッピングモールでの充電時間の過ごし方にはさらに深刻な課題があった。あるユーザーは家族と店内で食事や買い物をしていても、自分だけ充電終了に合わせて車両移動するために戻ると話していた。本来、家族で出かける楽しさは一緒に過ごすことであるはずだ。私自身も妻子を持つ者として、この課題については真摯に取り組んでいきたいと考えている。
プラゴでは3月1日から、二子玉川ライズと共同で、ショッピングモール内の充電EV普通充電器2基、急速充電器1基にプラゴの予約システムを搭載する実証実験を開始した。
これには、EVユーザーが充電という行為に振り回されるのではなく、「快適な充電の確約」や「充電時間での買い物の楽しみや新しい発見」という新たな付加価値を提供する目的がある。今後こういった取り組みに賛同いただける企業や施設が増え、ユーザーがライフスタイルに合わせて充電スポットを選べるような状況になることを目指している。
前述の高速道路での充電事情にも関係するが、実は充電スタンドの設置場所もユーザーにとって悩みのタネである。
高速エリアでは充電スポットがサービスエリア出口付近にあることが多く、充電終了後に施設を利用するには逆走して戻らなければならない箇所があるのだ。
車種によっては、こうした事態が町中の駐車場でも発生する。リーフの充電口は前方にあるため、車の頭から入れないとケーブルが充電スタンドに届かない場合がある。その場合もやはり、逆走しないと充電できないということが起こる。
このあたりは充電スタンドだけではなく、充電前後の行動を含めた設備周辺も考慮したデザインが必要となる。プラゴでCDO(チーフデザインオフィサー)を務める山崎晴太郎氏と共に、こうした課題にも取り組んでいきたい。
当日は2時間を超える熱いEV談義が交わされたのだが、今回はその一部を紹介した。最後に、EVユーザーたちがこれから望むことについてお伝えし結びとしたい。
充電インフラの充実については既知の通りであるので、EVユーザーたちが当事者ならではの観点で語った幾つかを抽出した。
車種を増やしてほしい当日参加者の車種は大まかにはリーフか「テスラ」に二分された。e-NV200のように現在は生産が終了してしまった車種もあるし、子育て世代に人気であるスライドドアタイプの軽自動車はまだ発売されていない。ミニバンやトラック、地方でもユーザーが伸びていくように、さまざまな車種の開発が進むことを願う。
EVの本当の楽しさを伝えたい脱炭素施策としてEVシフトがあげられると、政治的な論争やエコについての考え方の相違などに論点が変わってしまう気がするという意見もあった。
もっとEV本来の面白さが広がってほしい。例えば下り坂の場合、ガソリン車は燃料の減りを遅くすることができるが、EVは電気を増やすことができる。寄本氏によると、富士山5合目から御殿場まで降りると電池残量は30%増える。そういったEVならではの楽しみ方を知ってほしい。
充電以外のサービスの充実を小さな店舗にも置ける店のロゴやキャンペーン情報が表示される液晶のついた充電スタンドがあれば設置したい。
家庭用の充電設備にはあまりデザイン性が配慮されていない気がする。あるだけでテンションがあがるデザインの充電スタンドがほしい。
現在は終了しているが、テスラでは紹介者と購入者双方に1500キロ分の無料充電がもらえる紹介制度があった。そういった人に勧めたくなるような特典が増えればいい。
以上、今まで検討してきた充電機能や設置数に加え、最後はEVに乗ってみたくなるような付帯サービスについていただいた意見を紹介した。
筆者はEVユーザーへの“おもてなし”を志し、2018年にプラゴを立ち上げた。今後もこうしたユーザーたちの声を真摯に受け止め、続けたくなる未来をつくるため仲間たちと共に励んでいきたい。
大川 直樹(おおかわ なおき)
プラゴ 代表取締役
東京都出身。 2002年、慶應義塾大学法学部卒業。
電通に入社し、携帯電話市場におけるマーケティング業務に従事。
2007年、子会社のインタラクティブ・プログラム・ガイド社に出向し、放送通信連携に関わるベンチャー企業の経営に携わる。
2010年、自動車部品製造業である、大川精螺工業入社、取締役就任。
2013年、メキシコに駐在し、現地法人、工場を立上げ。
2018年より日本に帰国し、代表取締役に着任。
同年、プラゴを設立。
2021年 大川精螺工業代表取締役を退任し、プラゴの経営に専念。
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