楽天グループは2月14日、2021年12月期の通期決算を発表。売上高は前年同期比15.5%増の1兆6817億円、営業損益は1947億円の赤字決算となった。主力となる「楽天市場」などの国内EC事業や、「楽天カード」などのフィンテック事業は好調ながらも、引き続き「楽天モバイル」への先行投資が続いていることが赤字要因となっている。
その楽天モバイルに関しては、同社が目標としていた4Gネットワークの人口カバー率96%を2月4日に達成、半導体不足の影響で当初予定の5年前倒しとはならなかったが、約4年での前倒しを実現している。同社の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、決算説明会で「(楽天モバイルは)2年前に始めたばかりのビジネス。このネットワークをこのスピードで構築した事業者はいない」と話し、短期間のうちにエリア整備を拡大したことを高く評価している。
また自社エリアの拡大に伴ってKDDIのローミング回線の利用は減少しているそうで、2021年10月には39の都道府県の一部地域でローミングの終了を打ち出している。同社が示したグラフでは、2021年末における楽天モバイル回線エリアでのデータ利用比率が9割近くに上ることもあるようだ。
楽天モバイルにとって、KDDIに支払うローミングコストの削減は大きな経営課題となっていたことから、人口カバー率96%の達成に伴いその削減効果が期待される。三木谷氏は現在のローミング回線利用状況について、「だいぶシュリンクしているが、一方でユーザーは増えている」と回答、利用者の増加に伴い影響はまだ少なからず残っているという。
そこで今後もさらなるエリア拡大でローミング利用の削減を進めるとしており、そのコスト削減の規模感については「100億円単位ではない(より少ない)形で減っていくと思っていい」と三木谷氏は答えている。
また楽天モバイルの契約数も明らかにされており、2021年12月末時点でMVNOを除く契約数は450万、MVNOを含めた契約数は537万とのこと。2月には双方を合わせた契約数が550万を突破し、順調に契約数を伸ばしている様子を示す。
三木谷氏は将来的な契約数について「1500万、2000万はいくと確信している」とするが、一方で当面は「優良なユーザーの数を増やしたい」と三木谷氏は話し、データ通信を多く利用する、番号ポータビリティで他社から移る顧客の割合を増やすなどして、確実に利益が出せることを重視する姿勢を見せている。
さらに一連の状況改善によって、楽天グループのモバイルセグメントの四半期業績は2022年の第1四半期がピークになると同社では見込んでいるとのこと。今後は無料キャンペーンが終了し、課金対象となるユーザーが増えることなどもあって、第2四半期からは回復が見込まれるとのことだ。
また三木谷氏は今後のエリア展開についても言及。4Gのエリアについては他社と同様99%超を目指すが、過疎地などは出資する米国のAST&Scienceと進めている、衛星を活用してエリアカバーする「スペースモバイル計画」でカバーしていく方針を示している。三木谷氏によると「99%の中盤から後半まで」は地上からのエリア整備を整備し、それ以降は衛星でのカバーを主体に据えていく考えのようだ。
一方で、楽天モバイルがかねて要望している、広域のエリア整備をする上で重要性が高いプラチナバンドの再割り当てについても三木谷氏はコメント。明確な方針を示すことは避けたが「経済効率だけでいうとプラチナバンドがあることで、極論を言えば3社との競争で上をいけると思っている」と回答し、獲得できればメリットが大きい様子を示している。
ただ今後はエリアだけでなく、利用者の増加に伴う通信量の増加と、それによるネットワークの混雑にも対応していく必要がある。そこで楽天モバイルでは都市部を中心にサブ6(3.7GHz帯)やミリ波(28GHz帯)といった幅の広い帯域を用いて5Gの整備を積極化し、トラフィックへの対処を進める方針を示している。同社では現在約4000の5Gの基地局を設置しているが、2022年中にはそれを1万局くらいにまで増やす方針とのことだ。
なお三木谷氏は、モバイルのネットワーク技術を外部に販売する「楽天シンフォニー」の事業についても言及、2021年は大型の案件を獲得し順調な進捗を遂げたことから、その売上規模が今後「数千億単位で立ち上がる」と評価。さらに「日本では理解されていないのが残念だが、売り上げのポテンシャルが凄い」と話すなど、将来の売上貢献に強い期待感を示している。
主力事業の1つである国内EC事業については、2020年の「GoToトラベル事業の」反動を受け「楽天トラベル」の事業が落ち込んだものの、「楽天市場」などは順調に伸びて売り上げ、利益ともに順調に拡大。その結果、国内EC流通総額が2021年度で5兆円を超え、なおもEC事業全体で順調な成長していることから今後は流通総額10兆円を目指すとしている。
ただそのためには、現在8%程度にとどまるとされる国内のECの利用率が高まることも求められるが、三木谷氏はリアル店舗のインフラが充実しているなど環境の違いがあることから、海外と比べ急速に比率が高まることはないと説明。だがそれでもリアル店舗の営業が難しいケースや、価格などECのメリットが目立つシーンも増えていることから、「8年後に(8%の)2倍にするのは不可能ではない」とも話している。
また三木谷氏は、Zホールディングスが「Yahoo!マート」で本格化したクイックコマースの分野について言及。この分野は非常に競争が激しくなっているのに加え、現在は携帯電話事業など注力する分野が他にも多くあることから「全て自分達でやるのは難しいかなと思う」と答え、自社で直接は取り組まず、楽天IDを活用して他事業者の提携を主体に取り組む方針を示した。
もう1つの主力事業となるフィンテックに関しては、やはり「楽天カード」「楽天銀行」など主力サービスの好調でこちらも増収増益を記録。楽天カードの発行枚数は2021年12月時点で2500枚、楽天銀行の口座数は1月に1200万を突破するなど、会員基盤も好調に拡大しているという。
中でも現在上場準備を進めている楽天銀行に関して、三木谷氏は資産規模が7兆円程度となり「小さな地銀を上回る所まで来た」とする一方、メガバンクの規模に達するにはさらなる商品開発、そして上場による資本力の増強が必要だと説明。その上で上場の準備は非常に順調であるとし、その時期は「(2022年の)後半、年末に近いタイミング」になると答えた。
さらに三木谷氏は、今後の事業戦略について「エコシステムよりクラウド」と説明、楽天シンフォニーで推し進めているクラウドを軸とした外部企業へのサービス提供を、他の分野にも広げていく考えを示した。その1つとなるのがコンテンツに関する取り組みで、欧州で人気を獲得している映像配信サービス「Rakuten TV」をベースに、スマートTV向けのOSを開発して世界展開することなどを検討しているという。
加えて三木谷氏は、「Rakuten Rewards」を展開する米国のEbatesや、メッセンジャーアプリを提供するルクセンブルクのViber Mediaなど、海外事業でも収益面で成果を上げつつあるとし、「中長期的ビジョンで言うと、グローバルで勝負しないと日本の収益は段々厳しくなっていく」と説明。今後は楽天シンフォニーを中心に海外向けの事業にも積極的に取り組み、「最終的には日本と海外の売上比率を半分ずつに持っていけるよう、しっかりやっていきたい」と意欲を述べている。
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