自然災害やサイバー攻撃--新たなリスクに「データ」で挑む東京海上のデジタル戦略

藤井涼 (編集部) 藤川理絵2022年02月15日 09時00分

 東京海上グループがデジタル戦略を加速させている。データを駆使して「価値提供の変革」と「社内体制の変革」を推進し、その回転エンジンとして「グローバルデジタルシナジー」を発揮していくという。

 このデジタル戦略を率いるのが、東京海上ホールディングス 常務執行役員グループCDOの生田目雅史氏だ。ドイツ証券やモルガン・スタンレー証券、ビザ・ワールドワイド・ジャパン、ブラックロック・ジャパンなどを渡り歩いてきた同氏は、「(自身の)キャリアを通じてさまざまな“データ”を活用してきた」と振り返る。

東京海上ホールディングス 常務執行役員グループCDOの生田目雅史氏
東京海上ホールディングス 常務執行役員グループCDOの生田目雅史氏

 「金融市場では企業価値評価やリスクの所在をデータに基づき数字で表現する大切さを学び、決済市場では金融データや個人購買データを、マーケティング、行動分析、消費分析に役立ててきた。いま東京海上は、データの利活用による保険という業態の変革に挑戦しており、私のこれまで35年間のキャリアとも完全にオーバーラップしている。今後は保険の領域で、新たな価値創造を実現したい」(生田目氏)

時代の進化と「2つの使命」

 ではなぜ、いま保険の領域において、データを活用した変革が重要なのか。生田目氏は「世界中の不確実性がますます高まっている点が背景」と指摘する。新型コロナやトンガ火山噴火、近年大型化する台風や水災など、これまでの常識が全く通用しない「新たなリスクへの対応」が世界中で求められているためだ。

 新たなリスクとは、自然災害や病気だけではない。AIの実用化、コンピューティング能力の向上、データの大容量化、自動運転などモビリティの進化、ブロックチェーン技術による金融ビジネスの変革、新たに事業化が進むNFTなども含めて、「デジタル技術そのものがもたらすリスク」まで見据え、注力領域を拡大する方針だ。

 生田目氏は、「時代が進化するほど、その進化を支えるため保険企業が直面し、貢献するべき使命は、どんどん大きくなる」と話す。さらに、「将来に向け発展する人類の社会に対して、付加価値を出し続けていきたい」と、デジタル戦略への意欲を示した。

 これまでも、自動車事故やクレジットカードの不正利用といった、リスクに備えた保険の提供で、その産業の飛躍的な成長と社会の進化に貢献してきたが、今後はさらに進め、事故を起こさせないためのインフラ整備や、不正利用がない世界の実現などにも、保険企業独自の知見や解析力をもって貢献していきたいという。

 「保険企業が果たすべき責任と使命は、2つあると考えている。1つは、新たなリスクを広く深く見つめたうえで、リスクマネジメントの観点からサービスを提供すること。もう1つは、われわれが得ているデータを活用して付加価値を創出し、発展する社会を加速させる役割を果たすこと。さらに付け加えるならば、メタバースのような仮想ライフ、ワーケーションなど、個人の人生と社会との関わり方の多様化にも、しっかりと向き合いたい。サービス提供のあり方も、変えていく必要があるだろう」(生田目氏)

東京海上グループの「デジタル戦略」の全体像

 東京海上グループのデジタル戦略の全体像はこうだ。テクノロジーとデータを徹底的に活用して、「価値提供の変革」と「社内体制の変革」を2軸で目指す。そして、2軸に共通する横軸の取り組みとして、「グローバルデジタルシナジー」を発揮していく。

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 1つめの軸である「価値提供の変革」おいては、従来の保険業に留まらない新しいビジネスモデルの創出を目指す。新たなリスクや社会課題を解決できるソリューションを提供するべく、デジタルの利活用を推進するという。

 2つめの軸である「社内体制の変革」においては、効率性の高い経営体制、業務プロセスやオペレーションのDXを目指す。業務のデジタル化、自動化を進め、被害の算定や商品の提案といった、個々人の能力に頼るところが非常に大きい業務についても、AIやテクノロジーを活用することで人が提供する価値を最大化する“人の力とデジタルのベストミックス”を推進するという。

 そして、この2軸をさらにスケールする可能性を追求するのが「グローバルデジタルシナジー」だ。同社が事業を展開する国は、すでに約50カ国。日本ではまだ難しいデジタルの取り組みも、実は海外のグループ企業でPoCや実装がどんどん進んでおり、毎週のように各拠点からレポートが届いているという。「海外で実装された技術を、日本や他国に横展開することで、デジタル戦略を加速できる。グローバルなプレゼンスを最大限に活用して、価値提供と社内体制の変革につなげていきたい」(生田目氏)

国内の「データ中核会社」とグローバル戦略

 そのために、国内外の組織体制も強化してきたという。まず国内では、グループのデータ中核機能を担う東京海上ディーアールを2021年7月に始動。「新たなビジネスモデルを創出するための基礎になるのは、データ収集力と高度なデータ解析力だ」と生田目氏は話し、東京海上ディーアールがデジタル技術のノウハウを結集したデータ戦略の中核になることを強調した。

 従来、保険商品やサービスの開発は、グループの各事業部門が担ってきたが、今後は、東京海上ディーアールと各事業部門が連携する体制へと変更。常に最先端の解析技術を導入実装できるようにした。

 社内の人材育成に加え、外部からの採用も強化している。データサイエンティスト、エンジニア、プログラマ、事業企画責任者、マーケター、デザイナーなど、さまざまなデジタルプロフェッショナルを、外部からも結集している。また、データ解析力を高めるためマザーズ上場のパークシャーテクノロジーとジョイントベンチャーを設立して、たとえば人工知能やディープラーニングなどの技術も必要に応じて即時導入できる体制を構築した。

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 次に、グローバル戦略だ。デジタル戦略に特化した情報収集と情報連携を目的に、現在はグローバルで7拠点が稼働中。シリコンバレー、東京、台北、シンガポールに加えて、コロナ禍の2020年から2021年にかけては、ニューヨーク、ロンドン、サンパウロに新拠点が立ち上がったという。全世界の最先端の情報が、リアルタイムに双方向連携されている。

 各エリアの個性は豊かだ。たとえば、ロンドンの責任者はサイバー領域に強く、ロンドンからはサイバー領域のグローバルな知見が共有されている。サンパウロがあるブラジルは、金融テクノロジー導入の積極性が高い国で、同社ブラジル拠点でも他国に先駆けてデジタル実装が旺盛に進められており、サンパウロからの情報発信は高い価値があるという。

 「コロナがもたらした変化とは一体何か。そのような探索をする、マーケットインテリジェンス機能が、いま極めて重要になっている。これを抜本的に強化するため、強い専門チームが必要だと考えて、2020年以降に急いで体制を強化した」(生田目氏)

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 「当社の強みは、新たに生まれるデジタル技術をいち早く実装し、その成否を見極める実証フィールドが非常に広いこと。もちろん、国によって規制や市場慣行が異なる部分もあるが、新たに活用したデジタル技術のコアとなるエッセンスを共有しつつ、各地で応用していく。また、このプラットフォームを、世界中のインシュアテック企業やベンチャー企業に活用いただき、われわれもともに付加価値を創出していきたい」(生田目氏)

「デジタル戦略」の進捗に手応え

 こうした取り組みに、生田目氏は「手応えを得ている」と明かす。東京海上ディーアールを中核とした体制変更によって、東京海上日動、東京海上日動あんしん生命、イーデザイン損保では、データドリブンな商品を開発できた。すでに大手企業との契約につながる領域もあり、今後は複数の領域で同様の商品をシリーズ化して、高いデータ分析性を有する商品群として、販売していく予定だ。

 顕著な例は、イーデザイン損保が2021年11月にローンチした、スマホ完結で契約ができる自動車保険「&e(アンディー)」。最短では60秒で保険料試算が可能で、契約変更においても、AI画像認識機能を活用して契約書をスマホで撮影してアップロードすると、既存の契約条件が瞬時に展開されるという。

 「アンディでは、高度な次元において顧客体験価値の極大化を図り、デジタル完結型のインシュアテック企業としての進化を果たしたと思っている。これからは、データドリブンな商品の提供、フィービジネスやソリューションビジネス、あるいはアルゴリズムそのものを共有していくような事業も、グループ全体で積極的に展開したい」(生田目氏)

 AI活用も、円滑に進捗しているという。たとえば損害査定は、人の判断をともなうが、自動車事故や水災の被害算定ではAIのフル活用に成功。顧客への商品提案においても、AIを活用したプログラム実装が速やかに進んでおり、「AI活用は業務上、すでにデファクトスタンダードになりつつある」という。

 ただし、「精度のファインチューンにおいては、まだ一定程度人間の能力が必要」とのこと。業務プロセスのどの段階でAI判定を行うべきか、AI判定の厳しさはどの程度がよいか、試行錯誤を繰り返しているという。同時に、人の育成も重要視する。国内だけで1万7000人にのぼる従業員と、代理店各社のスタッフの方々に対しても、技術導入サポートを強化し、連携をしっかりと進める構えだ。

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 「現場にとって、フリクションゼロの業務プロセスを実現したい。そのためには、デジタルを活用の目的や意義を、全社的に共有していくことが非常に大切。単なる効率化ではなく、デジタル技術の導入推進を業務プロセスにしっかりと根付かせるからこそ、人間の能力をより付加価値の高い事業活動に向けられる。“人の力とデジタルのベストミックス”を実現していくことが、当社のデジタル戦略の目指す姿であり、金融機関のテクノロジー実装の理想形だと考えている」(生田目氏)

オープンイノベーションの「究極を実現したい」

 そんな東京海上グループが、新たに手がけるのは「オープンイノベーション」だ。2021年11月に、多種多様な業界から13社が結集する「防災コンソーシアム(CORE)」を立ち上げた。2022年4月から正式に稼働する予定で、今後追加で参画企業募集も行うという。

 新たなリスク、不確実性のなかでも、自然災害は世界に共通する大きな課題だ。東京海上では、保険事業者の役目には被災時の保険提供だけではなく、いつもどこでも安心して暮らせるための付加価値の提供まで含まれる、と自社の使命を再定義した。こうして各社に声をかけた東京海上が、各社から強い賛同を得て、コンソーシアムの事務局をつとめるに至ったという。

 注目すべきは、「データありき」のコラボレーションである点だ。生田目氏は以下のように語り「オープンイノベーションの究極の姿を実現したい」と意気込んだ。

 「自然災害という課題に対して、何が付加価値になるのか、何がお客様の安心安全を高めるのか、賛同企業とともに考え、実証実験も行いたい。たとえば、より高度な気象状況にもとづいた災害分析、現状把握、対策実行、避難、生活再建、予兆検知予防など、取り組むべき課題は幅広いが、気象データを解析するのもデータありき。水災の予測もデータありき。企業の垣根を越えたデータのコラボレーションが、デジタル技術を通じて新たな価値創造を産むことは間違いないと考えている」

CNET Japanでは2月21日からオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2022 〜社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション〜」を2週間(2月21〜3月4日)にわたり開催する。3月2日には、生田目氏とともに、東京海上日動火災保険でdX推進部 担当課長を務める大島典子氏が登壇する予定だ。後半では質疑応答の時間も設けるので、東京海上グループの取り組みをより深く知りたい方はぜひ参加してほしい。

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