中古レコードのオンライン売買が最優秀賞に--NTT Comの新規事業創出コンテスト「DigiCom 2021」レポート - (page 2)

IoTの導入ハードル「運用」にフォーカスした支援サービス

 3位に選ばれたのは、中小企業におけるIoT/AIソリューションの主な導入ハードルとなっている「運用」にフォーカスしてアイデア提案したNTTPCコミュニケーションズのチーム「サステナビリティメイカー」。NTTグループの企業がもつGPU活用やエッジサーバーに関する技術と、通信用のSIMやデバイスのノウハウ、IoT/AIソリューション開発に取り組む既存の多くの共創コミュニティ「Innovation LAB」パートナー企業という大まかに3つのリソースを活用することで、安価で導入しやすく使いやすいSaaS型の「運用サービス」の提供を目指す。

中小企業が導入しやすいSaaS型の「運用サービス」を提案
中小企業が導入しやすいSaaS型の「運用サービス」を提案

 IoTソリューションは、たとえば製造業においては工場設備の故障を未然に防ぐための予防保全や予知保全、倉庫では保管状態の可視化や個々の保管物の管理など、すでにさまざまな場面で活用が進んでいる。多数のセンサー類を設置してそれらを一元監視できるようにし、場合によってはAI技術で何らかの判断を自動化しながら運用することもある。人の目や感覚、手作業では難しい処理を自動化することで、高い生産性や業務効率の達成に寄与するものだ。

 このようにメリットの多いIoT/AIソリューションではあるが、パートナー企業を対象にした同チームのヒアリングによれば、顧客がIoT/AIソリューションを導入したくてもできない、いくつかの障壁があることがわかったという。それは、セキュリティ面で不安があること、端末の一元監視やキッティングを行うときの負担が大きいこと、そして現地対応が必要になることだ。

 とはいえ、そのなかのおよそ7割の項目は運用フェーズにおける困りごと、という共通項があることもわかった。また、顧客が実運用時に必要となるコストや人員を確保できず、PoC(実証実験)で終わってしまうケースが多いことも見えてきた。したがって、運用フェーズにおける省力化、コスト圧縮が、IoT/AIソリューション導入拡大のキーになるとチームは判断した。

 そこで考案したのが「運用省力化サービス」。リモート対応可能な運用サービスをパッケージ化し、各社で共通している必要機能に絞って定額サービスで提供することで、低コストで利用できるようにするもの。NTTグループならではの閉域網サービスでセキュリティに配慮し、設置したデバイスや通信用SIMなどのステータス、ログ、アラートなどをチェックできるウェブポータルを用意。現地に設置するデバイスはゼロタッチプロビジョニングにより電源を入れるだけで稼働できるようにし、それらをリモートから運用可能な仕組みにして、必要に応じてアプリの配信・更新もする、といった機能をもつ。

IoT/AIソリューションの運用において、NTT Comやグループ企業、パートナー企業の得意分野を活かす
IoT/AIソリューションの運用において、NTT Comやグループ企業、パートナー企業の得意分野を活かす

 IoT機器の運用を代行するようなサービスは他社も展開しているが、「運用省力化サービス」は、多くの企業が共通で使えるSaaSの形で運用をパッケージ化して提供する点や、既存IoT/AIパートナーを通じて顧客の声を効率的に収集し、それをシステム改善に活かせるといった部分で差別化を図っている。また、1アカウントあたりの費用を月額500円程度に抑える安価な料金設定もポイントとして挙げる。

シンプルでわかりやすいインターフェースを徹底
シンプルでわかりやすいインターフェースを徹底

 現在はパートナー企業とのPoCが進行しており、高い評価が得られているとのこと。シンプルなインターフェースで顧客自身が運用することも難しくはないが、運用パートナーなどに委託する選択肢を用意することや、障害対応のワークフローをダッシュボード上に整備することなど、サービスとしての改善要望もすでに上がってきており、期待感は大きいようだ。

 国内全体のIoT市場は2025年に10兆円超の規模になると見込まれており、運用サービスでまずはそのなかのIoTインフラ市場に足がかりを作っていくことを狙っている。2022年2月までにPoCを完了した後、コスト検証を行い、年度内にはサービス実現の可否を判断する計画で、順調に進めば2022年度上期にシステムとしての開発を完了させ、下期には販促活動を開始したいとした。

多くのIoT/AIパートナーとの協力関係があることも強みだとした
多くのIoT/AIパートナーとの協力関係があることも強みだとした

 受賞理由について、審査員であるNTTコミュニケーションズ イノベーションセンター デザイン部門(KOEL) Head of Experience Designの田中友美子氏は、「一番NTT Comっぽい」アイデアだったとし、価格、機能などの中身が具体的になっていた点を高く評価した、と話した。「デバイスを無料で提供して運用で売り上げる競合も多く、競争の厳しい分野」であることや、「(ニーズの異なるさまざまな企業の)運用を一元化することに難しさがありそう」といった懸念点も挙げたが、IoTやAIに知見のない中小企業が気軽に「PoCを始める取っかかりになる」可能性もあり、ビジネス拡大につながるアイデアになっているとした。

NTTコミュニケーションズ株式会社 イノベーションセンター デザイン部門(KOEL) Head of Experience Design 田中友美子氏
NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター デザイン部門(KOEL) Head of Experience Design 田中友美子氏

競合も巻き込み「大企業が目指すべき」イノベーションに

 全チームのプレゼンと審査の終了後、審査員のNTTドコモ R&Dイノベーション本部 イノベーション統括部長 稲川尚之氏は全体講評として、「これからマネタイズに向けてやっていくと思うが、何に対して価値を生み出して、顧客にいくら払ってもらうのか、しっかり設計することが重要。価値を何にするのかしっかり見定めて、ビジネスを作ってもらえれば」とコメント。

株式会社ドコモ R&Dイノベーション本部 イノベーション統括部長 稲川尚之氏
NTTドコモ R&Dイノベーション本部 イノベーション統括部長 稲川尚之氏

 NTTコムウェア ビジネスインキュベーション本部 ビジネスインキュベーション部長の磯谷昌利氏は、稲川氏の言葉を引き継ぐ形で「(アイデアを)マーケットに出して稼いでいくとなると、よりお客様を具体化して、誰からどうお金をいただくかを組み立てていくところのハードルがまだまだある」とし、これからビジネススキームの本格的な検討に入っていく各チームを激励した。

NTTコムウェア株式会社 ビジネスインキュベーション本部 ビジネスインキュベーション部長 磯谷昌利氏
NTTコムウェア ビジネスインキュベーション本部 ビジネスインキュベーション部長 磯谷昌利氏

 京都大学経営管理大学院 客員教授でオムロン イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長の竹林一氏は、単にビジネスとして大きくすることにこだわらず、競合をも巻き込むような仕組みまで考えることによって、大企業が本来目指すべきイノベーションのベースになっていくのではないか、と提言。

京都大学経営管理大学院 客員教授でオムロン イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長の竹林一氏
京都大学経営管理大学院 客員教授でオムロン イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長の竹林一氏

 最後にNTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 副社長執行役員の菅原英宗氏は、「アイデアを大企業で事業化していくために重要なのは、社内を使うこと」の大切さを強調した。パトロンとなる社内投資家を見つけることや、会社のブランド、営業力を駆使すること、そして「強い思いを持ち続けること」の重要性を訴えつつ、自身を含む経営層も社員のアイデア実現に向けて共に歩んでいきたい、と語った。

NTTコミュニケーションズ株式会社 代表取締役副社長 副社長執行役員 菅原英宗氏
NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 副社長執行役員 菅原英宗氏
DemoDayの途中には、DigiComの運営をサポートするフィラメントの角勝氏(左)と、DigiComから生まれたワークスペース即時検索・予約サービス「droppin」のプロジェクトリーダーである山本清人氏(右上)の2人による、新規事業開発におけるノウハウなどを語るスペシャルトークセッションも行われた
Demodayの途中には、DigiComの運営をサポートするフィラメントの角勝氏(左)と、DigiComから生まれたワークスペース即時検索・予約サービス「droppin™」の事業推進リーダーである山本清人氏(右上)の2人による、新規事業開発におけるノウハウなどを語るスペシャルトークセッションも行われた

 CNET Japanでは2月21日からオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2022 〜社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション〜」を2週間(2月21〜3月4日)にわたり開催する。最終日となる3月4日のセッションでは、今回のDemoDayで1〜3位に輝いたチームに登場してもらう予定だ。後半では質疑応答の時間も設けるので、DigiComの取り組みをより深く知りたい方はぜひ参加してほしい。

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