麻倉怜士のデジタル時評--2022年注目のオーディオ&ビジュアル5選 - (page 2)

未知の高画質を体感できる「動絵画技術」とは

 次は、今まで流れとは少し違う「動絵画技術」について紹介したい。これは、新しい形の映像再現技術で、「ICC」(Integrated Cognitive Creation)技術や「ISVC」(Intelligent Spectacle Vision Creation)を手掛けてきた、I3(アイキューブド)研究所が開発した。

 I3研究所の代表取締役を務める近藤哲二郎氏は、ソニーで独自の映像信号処理技術「デジタル・リアリティ・クリエーション(DRC)」などを担当したことで知られる人物。2009年に独立し、I3研究所を立ち上げた。

 動絵画は、近藤氏曰く、自然を中心にした映像処理技術。映像を見る空間の光などに合わせて映像を再現するというもので、一般的な27インチの液晶ディスプレイで視聴したところ、実に滑らかでスムーズ、リアルな動きを実感でき驚きだ。

 液晶ディスプレイで見ていながらも、ドット感というかギザギザ感の全くない映像で、これを可能にしているのが、複数に渡るフレームの処理。漆黒の中に熱帯魚が泳いでいくというコンテンツを見たが、目の前に熱帯魚が泳いでいくようなリアルな世界観を体験できた。

 もう一つ驚いたのは黒の沈み込み。液晶でも信じられないような黒の表現力で、動絵画では1つ1つの映像の要素があるべき姿のまま再現されているのだと思う。

「動絵画技術」。驚くほど黒が沈み込む
「動絵画技術」。驚くほど黒が沈み込む

 コンテンツとして福島県の桜の映像も視聴したが、枝、桜の花、花びらにいたるまでフォーカスが抜群に素晴らしかった。日本における桜の映像は、最も難しいと言われるコンテンツの1つで、その理由は、日本人の記憶の中に桜に対するイメージが強固に入り込んでいるから。少しでもその記憶からずれると「この桜の映像はおかしい」と感じてしまうらしい。しかし、このように難しいとされる桜の映像においても、ノイズが極小で、中間色の重なり合いも見事に再現していた。

 加えて、ディスプレイを見る角度によって映像の見え方が異なるという仕掛けもあった。正面、左右とそれぞれの場所から見ると立体感の表現が異なり、その場にいるようなリアルさがより伝わってくる。

 動絵画技術の特性をいかした演出もされていた。白鳥の飛来地として知られる新潟県阿賀野市にある瓢湖のコンテンツでは、5枚のディスプレイを並べ、あたかも建物の窓から瓢湖を見ているように見える。横の広がりとつながりを実感でき、雄大さがリアルに伝わってくる。1枚ずつ分離はしていても、脳内で連結して横に広がるような感覚を得られたのである。

5枚のディスプレイを並べ、あたかも建物の窓から瓢湖を見ているようなコンテンツに仕上がっていた
5枚のディスプレイを並べ、あたかも建物の窓から瓢湖を見ているようなコンテンツに仕上がっていた

 実際に商品化するには、いろいろなハードルがあると思うが、2022年はぜひ動絵画をテレビメーカーが採用してくれることを願っている。

ホームシアターが大革新、音を楽しむ環境が新世代へ

 8Kとして映像も進化したが、音質面でも新たな革新が見られた。その1つがソニーのホームシアターシステム「HT-A9」だ。

 ホームシアターは、スピーカーのスペース的にも、配線的にも難しく、とにかく大変。ドルビーアトモスに代表されるような空間オーディオでは天井にもスピーカーを配置するなど、一部のオーディオファンにその楽しみが限定されていた。

 ソニーが7月に発表したHT-A9は、ワイヤレススピーカーによる4.0chシステムという新しい提案。実際この商品を聴いた時には、スピーカー4つでの再現力に本当にびっくりした。特筆すべきは、高さをあわせる必要もないというスピーカーの設置位置。実際に聴いてみるとリッチで豊かな空間オーディオを体感できた。

 HT-A9では、立体音響技術「360 Spatial Sound Mapping」を使い、スピーカー間や天井までの距離を内蔵マイクと測定波で計測し、スピーカーの置かれている空間を把握。4個のスピーカーから音波を重ね合わせて、最大12個のファントム(仮想)スピーカーを最適な位置に生成する。

 これを利用すれば、すべてのチャンネルにおいて同じ性能を持つスピーカーでサラウンド環境を構築することが可能。オブジェクトオーディオで使用する天井スピーカーは、設置場所の観点から、大きかったり、重かったりするスピーカーを使用するのは現実的ではないが、ファントムスピーカーであれば、スピーカーの分身を作れるので、同一の性能を持ったスピーカーを使用できる。

 音質も素晴らしい。雷鳴は遠くから響いてくるし、雨が上から下に降ってくるような動きもリアルに再現できる。これは今まで登場してきたバーチャルサラウンドではなかなか得られなかった領域。4つのリアルのスピーカーと優れたバーチャルアルゴリズムの組み合わせにより、高いクオリティのサウンドが実現できた。

 いかにもソニーらしい技術が盛り込まれ、今後の可能性も秘めたホームシアターモデルで、さらに追い込んで新しい形を追求してもらいたい。

ソニー「HT-A9」
ソニー「HT-A9」

 サウンドバーからも注目モデルが登場した。ゼンハイザーの「AMBEO Soundbar」(アンビオサウンドバー)」は、見た目は一体型だが、音場が広く、手軽にサラウンド感が楽しめるモデルだ。実は2018年に発表されており、海外では登場済みのもの。満を持して日本市場に導入される。

 本体にはビームスピーカーを搭載し、バーチャルではなく、リアルにチャンネルごとの音を出す方式。欧州最大の研究機関であるフラウンフォーファーと共同開発しており、かなり先進的なものに仕上がっている。

 音質は、自然で華やか。重低音はそれほど感じないが、素直で自然、質のよい低音感が再現できている。特にストレート再生の音がよく、楽器の音色も自然だ。音場再現力も優れていて、大げさではなく、部屋がコンサート会場のようになる。

 サウンドバーながら、最高度の音の広がりと高音質が享受できるAMBEO Soundbarは、スマートな方法で音場を楽しめるシステムとしておすすめしたい。

ゼンハイザー「AMBEO Soundbar」
ゼンハイザー「AMBEO Soundbar」

 音の出口となるスピーカーとは別の切り口からのアプローチとしてWOWOWの「ハイレゾ・3Dオーディオ再生用ωプレーヤー」(オメガプレーヤー)についても触れておきたい。

 12月に発表されたオメガプレーヤーは、WOWOWとエヌ・ティ・ティ・スマートコネクトが共同で開発したもの。アプリには、2個のスピーカーから3Dオーディオ空間をバーチャル再生するAuro-Scene機能、ヘッドホンから3Dオーディオ再生するAuro-HeadPhones機能、そしてパソコンに接続したマルチチャンネル・オーディオ・インターフェースから直接AURO-3D信号を再生する機能を備える。

 これには、WOWOWの音楽配信をはじめよう、さらに中継まで踏み込んでいこうという強い姿勢が見られる。事実、2021年12月15日から2022年2月10日まで、オメガプレーヤーと「SmartSTREAM」を用いた、世界初となるハイレゾ・3Dオーディオ配信実証実験を実施。音楽配信を新たな柱の1つと位置づける。

 世界的に空間オーディオの注目が集まる中、オメガプレーヤーの登場は空間オーディオを気軽に、ハイクオリティに楽しめる基盤として定着していくと思う。2022年1月には渋谷のハクジュホールから、ライブの実証実験が行われるのも期待だ。

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