石油プラント「跡地」がドローン実証フィールドに--ENEOS HDとセンシンロボ「カワサキラボ」共同開設の狙い - (page 2)

ENEOS HDとセンシンロボ、協業の背景と「2つの狙い」

 本施設開設に先立ち、2020年6月にENEOSホールディングスはセンシンロボティクスへ資本参画している。これは、ENEOSホールディングスが2019年4月に新設した未来事業推進部の活動の一環。未来事業推進部は、既存事業にとらわれない新規事業開発をミッションとした部門で、グループ本体から独立した決済権限を持って、億単位のスタートアップ投資をスピーディに実行するCVCの役割も担う。

 両社は出資前から、しっかりと協議を重ねて、「ドローンのステーション構築構想」を示してきた。ドローンや、同じく未来事業推進部が出資するSkyDriveが手がける空飛ぶクルマ、これらが社会に溶け込み活動するための新たなインフラ「エアモビリティステーション」の構築を目指すというものだ。

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 さらに遡ると、センシンロボティクスは、実際に既存のドローン点検ソリューションを導入するENEOS系列の製油所と、数年に渡ってタッグを組んできた背景もある。徳富氏は、「ENEOS自身のプラント設備では、ドローン活用に適したユースケースの洗い出しも含め、撮影の方法の模索や、導入メリットの検証など、センシンさんとはさまざま協業させていただいている。SENSYN Drone Hubの導入はまだだが、将来的にはユースケースが確定したところから、点検業務の完全自動化を進めたい」と話す。

 上野氏も、「これまでのディスカッションで面白いなと感じたのは、“意外とデータが溜まっていない”という点。人間が巡回点検する場合は、劣化や異常を見つけた後工程の履歴は残すが、健全だった状態のデータは残らないことが多い。ドローンなどのロボットなら、点検業務の全データが蓄積されていくので、本当の意味でのビッグデータ活用が始まり、予防保全にもつながっていく」と意欲的だ。

 整理すると、両社のENEOSカワサキラボ開設の狙いは、大きくは2つ。1つは、ENEOSが保有するプラント設備における点検業務の高度化や、デジタルデータを活用した保全のスマート化を促進し、プラント設備を持つ他業種にも展開できる新たな点検ソリューションを開発すること。もちろん、警備や監視などの業務領域も手がけるセンシンロボティクスが、自社のさまざまなソリューション開発を加速することも、株主であるENEOSホールディングスとしては歓迎するところだ。

 そしてもう1つは、将来的に公共地において、ドローンや空飛ぶクルマが第三者の上空を飛行できるようになる未来を見据えた、新規事業創出だ。機体の離発着、エネルギー供給、メンテナンス、レンタルができる「エアモビリティステーション」を構築して、点検、警備、災害対応、配送などさまざまなサービスを提供していく起点となることを目指すという。

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「エアモビリティステーション構想」をオープンイノベーションで

 そのためには、ENEOSホールディングスとセンシンロボティクスの2社だけではなく、さまざまなステークホルダーとの共創が必要になる。ENEOSカワサキラボは、実証フィールドとしてのみならず、オープンイノベーションの拠点としても、重要な位置付けになっているようだ。

 ENEOSホールディングスの徳富氏に、「エアモビリティステーション構想」の実現に向けて、どのような共創パートナーを求めているかを聞いた。

 「大きく分けて3つある。1つ目は、官公庁や自治体。街中にドローンを導入していくのであれば、法規制の整備や自治体のサポートは不可欠だと思う。2つ目は、われわれ以外のドローン事業者。たとえば、ドローンメーカーさんや、街中で運航するということはUTMの事業者さん、ドローンポートとしてはSNNSYN Drone Hubがあるが、より適切なものを作っていくためには他のドローン事業者さんとの協業も必要になると考えている。3つ目は、とはいえ顧客不在ではビジネスモデルやサービスの磨き込みが不十分になるので、点検や警備をはじめとする各種ソリューションを実際に使っていただく事業者さんも、パートナーとしてお迎えしたい」(徳富氏)

 すでに数社が来訪しており、両社が共創パートナーとして歓迎する主体の全カテゴリを網羅しているという。徳富氏の話を受けて、センシンロボティクスの上野氏も、このように話してオープンイノベーション加速への意向を示した。

 「2022年12月にレベル4の規制緩和が予定されているなか、そのタイミングで公共地でのサービス提供を目指すため、パートナーの獲得がその進捗を加速するはず。ENEOSカワサキラボは、そのための1つのツールだ」(上野氏)

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 最後に、これまでの両社のオープンイノベーションを振り返り、グッドポイントを聞いた。共創パートナーを選定していくうえでも、重要な視点となるのではないだろうか。

 「センシンさんとは、出資を決める前から、ドローンのステーション構想というビジョンを共有できていた。いろいろと議論していると脇道に逸れることもあるが、最初に想いをひとつにすることで、率直に意見を言い合いながらも、同じゴールに向かって進めるのだと思う」(徳富氏)

 「われわれの得意とするところや未成熟なところなど、われわれのケイパビリティと想いをすべて理解していただいたうえで、お互いにどう伸びていくかを議論している。そこがうまくいっている秘訣かなと思っている」(上野氏)

 いま、ドローンやエアモビリティという空の産業は、2022年12月のレベル4解禁、2023年の物流ドローンや空飛ぶクルマの実用化などの予定が目白押しで、社会実装を前提とした実証実験が加速している。

 一方でENEOSホールディングスは、2040年の低炭素・循環型社会を見据えた長期ビジョンを発表しており、本稿で焦点を当てた「空域」以外にも、宅配ロボット、電動モビリティなど、多様なソリューション開発に取り組むチームがあって、相互のシームレスな接続も視野に入れているという。

 ENEOSカワサキラボを拠点とした「エアモビリティステーション構想」に、今後どのような共創パートナーが加わるかによって、次世代の社会インフラや生活のプラットフォームのあり方も変容していくのかもしれない。まずは、2021年から2022年にかけての動向は、引き続き要注目だ。

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