ソフトバンクは11月4日、2022年3月期第2四半期決算を発表。売上高は前年同期比12.2%増の2兆7242億円、営業利益は前年同期比3.2%減の5708億円と、増収減益の決算となった。
同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏によると、売上高は半期ベースで過去最高となり、LINEの子会社化や携帯電話端末の販売回復が貢献しているとのこと。一方で減益の要因はやはり、政府の携帯電話料金引き下げ要請によるコンシューマー事業の減益影響が大きく、好調な法人事業やヤフー・LINEの事業による利益の伸びでもそれでもカバーできなかったという。
ただし、通期業績予想に対する営業利益の進捗率は59%と、目標の半分は超えているとのこと。過去最高益を記録するとしている通期計画に対しては「期初予定通り順調にやり切れるだろう」と宮川氏は話す。
そのコンシューマー事業の営業利益は367億円と前年同期比で416億円減少しており、そのうち携帯料金引き下げの影響は260億円に達するとのこと。一方でソフトバンク、ワイモバイル、LINEMOの3ブランドによるスマートフォンの累計契約数は6%増、5Gプランの累計契約数は1000万を超えるなど順調に伸びており、「3分の1以上が5Gプランに加入するところにまできた」と宮川氏は話す。
ただ現在、同社は5Gのインフラ整備に積極的な投資が必要な時期を迎えており、資金を多く費やす必要がある時期に料金引き下げを迫られていることの影響が懸念される。この点について宮川氏は、料金引き下げによって収支のバランスが崩れてきていることから「一番厳しい、悩ましい時期というのが本音」と語る。
それでも同社としては、モバイル通信以外の分野でのリストラやコスト削減を進めてネットワーク整備に影響が出ないよう進めているというが、「これが5年、10年も続くとなると、通信インフラの整備をどこかで見直していく時期が来るかもしれない」と宮川氏は説明。料金引き下げの傾向が続けば、中長期的にネットワーク整備にも大きな影響が出てくるとの見解を示した。
また、政府が携帯料金引き下げ要請の姿勢を継続していることに対しては、「(料金引き下げを)目指すのが日本としての方向ならついていこうと思うが、業界を引っ張っている先進国はそうした方向ではない」と宮川氏は回答。料金引き下げに傾倒するあまり、日本のモバイル通信技術の技術開発が遅れ国際競争力が低下することへの懸念も示している。
その5Gネットワーク整備については、ここ最近楽天モバイルやKDDIが半導体不足の影響に言及しているが、宮川氏は「実害があるのは(法人事業向けの)iPadが入ってこないこと」とし、直近で致命的な影響が出ることはないとした。ただ通常発注してすぐ入手できる部材などの入荷時期が大幅に遅れるなど、徐々に影響が見え始めているとのことで、現状のような状況が2、3年後も続けばネットワーク整備にも影響が出てくるのではないかと話す。
ちなみに前回の決算において、LINEMOの契約数が50万に満たないことが明らかにされたが、宮川氏は今回「LINEMO単体での数字は公表しないことになった」と説明。LINEMOとLINEモバイルの合計で100万契約を超えているというが、それ以上の詳細は非公表となったようだ。宮川氏はLINEMOの現状について、月額990円の「ミニプラン」が追加されたことで契約数は順調に伸びているというが、「ワイモバイルの方が顧客の受けがいい」とも話しており、今後低価格帯ではワイモバイルを強化していく方針を打ち出している。
ただワイモバイル、LINEMOいずれの顧客が増えてもソフトバンクとしては売上が減少することとなる。宮川氏は「一度下げた料金は上がりづらいと思う」とし、低価格のサービスは今後も継続して提供するというが、一方でリッチコンテンツが増えることでネットワーク利用が増え、ソフトバンクブランドに移る顧客を増やすことが「今年、来年の主戦場」になるとしている。
さらに今後は基地局だけでなく、コアネットワークも5G仕様になるスタンドアロン運用が広がってくることで、コンシューマー向けにもスマートフォンだけでなくIoTデバイスの利用が増えると見られている。宮川氏はそうした時代に合わせたサービスを作っていくことでも、モバイル通信の事業を伸ばしていきたいとしている。
好調を続ける法人事業は前年同期比で売上高が前年同期比5%増の3509億円、営業利益は前年同期比15%増の740億円。先に触れたiPadの入手難など半導体不足の影響が少し出てきているというが、ソリューションなどは引き続き好調に伸びており、単発ではない継続的な事業の拡大に注力しているとのこと。
そうした法人事業の中でも引き合いが多いのは、1つにRPAなどを用いた自動化ソリューション。そしてもう1つはLINEをインターフェースとして活用し、自社の顧客とのコミュニケーションに活用するソリューションであるという。LINEの子会社化によってLINEを活用した仕組み作りもソフトバンクの仕事になっており、それが事業拡大に貢献しているそうだ。
ただし、その法人事業は、10月25日にNTTコミュニケーションズなどの子会社化を発表したNTTドコモなど、通信各社が力を入れてきている領域でもある。宮川氏は現状の市場環境について、大きく遅れていた国内企業のデジタル化が急速に進んでいる影響で「人手が足りず、やり切れていない」状況だというが、それだけにデジタル化に関連する人材の育成に力を入れているという。
そのNTTドコモのグループ再編について宮川氏は「超脅威」と話し、NTTグループの再集結を容認する動きには疑問を呈している。ただ国内企業のデジタル化が急加速し、それをより多くの企業が支援する動きが広がっていることについては「顧客の前ではバトルになるが、健全な競争なのでウェルカム」としている。
とはいえ、法人事業を巡る競争は激しくなってきていることもまた確か。そうした中でソフトバンクが勝ち抜く上では、デジタル化に先んじて取り組んできた知見と、親会社のソフトバンクグループの出資先企業が持つデジタル化の先端事例などを融合しながら展開できることが強みになると宮川氏は答えている。
宮川氏はスマートフォン決済の「PayPay」の現状についても言及、宮川氏が「スーパーアプリになるためには最重要のKPI」と位置付ける決済回数が、前年同期比で81%増の16.6億回に達したとしている。2021年10月より決済手数料有料化を開始したが、それによる加盟店の解約率は0.2%、売上に対する影響も0.1%と軽微にとどまっているそうで、今後は「PayPayマイストア」などPayPay加盟店舗のデジタル化支援サービスに力を入れていくとしている。
そのPayPayの黒字化についても宮川氏は言及、コストとの兼ね合いをコントロールすれば黒字化できる段階にまで来たというが、当面はまだ拡大路線を続けたいとのことで、黒字化の実現時期は「数年以内」としている。その際中心となる収益手段について、宮川氏は「手数料はある程度メインになってくると思う」とする一方、海外他社の事例などから後払いローンや店舗のデジタル化や販促支援など、手数料収入に依存せず複合的に収益を上げる体制を作り上げたい考えを示した。
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