オンラインでも相手の「胸に響く言葉」とは?--信頼関係を築くための会話術 - (page 2)

浅川智仁(ライフデザインパートナーズ代表取締役)2021年09月08日 09時00分

話し上手は、聴き方上手--これを実行するだけで、信頼関係を築ける

 当然だが、お客様の言葉で、お客様の状況を話してもらうためには、私たちは“質問”をしなければならない。なぜならば、「問題」や「願望」の先に何を求めているのかは、すべて目の前のお客様が答えを持っているからだ。さらに、自分の聞きたいことだけをただ闇雲に聞いていたとしたら、相手の心の紐は強く硬く締まっていく。感情を揺り動かすことは甚だ難しい。

 興味深いことに、人間の脳は、必ず質問に答えるという機能上の性質がある。質問の仕方を変えるだけで、会話の流れは大きく変わってくるわけだ。分かりやすく言うと、ポジティブな質問をしたら、相手からはポジティブな答えが出やすくなり、逆にネガティブな質問をしたら、相手からはネガティブな答えが出やすくなる。

「日本人の良いところはどこですか?」
「日本人の悪いところはどこですか?」

 前者の質問を投げかけられた時と後者の質問を投げかけられた時。答えが同じになるはずがない。

プラス(+)の質問 → プラス(+)の答え
マイナス(−)の質問 → マイナス(−)の答え

 「人間は、必ず質問に答えようとする」。この原理原則から考えると、質問しようとする側は、その時すでに目の前の相手の答えを何らかの形で生み出しているということも言える。つまり、質問の質が、お客様の答えの質になるということだ。

 デジタルの進化は、人間関係の領域を爆発的に広げた。それは、自分と違う価値観を持った人と話すことを容易にしていくことにつながる。自分では良かれと思って話した情報が、相手にはただの無駄話になっている。そんなギャップが、対面時よりも多く散見されていく。

 だからこそ、今画面上で目の前にしている相手の価値観が、自分と同じであるのかを共有するテクニックが強く求められることを認識しなければならない。これをわれわれは、「価値観のチューニングを合わせる」と表現するが「いかに早く、短い時間で、お互いの結論を共有させられるか」。そんな会話が求められているのだ。

 ところで、今まで対面で打ち合わせをしていた相手と、オンラインに切り替えた際にも、同じだけの時間を使って話しているだろうか。おそらく、はるかに時間は短くなっているはずだ。

 直接会って話をするのが当たり前だった時代、お茶が出るまでの雑談から始まり1時間やそれ以上話していたことが、オンラインではすぐに本題に入る傾向が強くなった。少しの雑談はあったとしても、大きく話がずれていくこともなく、無駄な話がそぎ落とされコンパクト化されていく。結果的に、3分1の20分ほどで終了してしまうことを私も何度も経験した。

 これまで以上に「時間」に対する価値観もシビアに変わってきたわけだ。そこでわれわれは、コンパクト化された会話が求められるこの時代に、「最初に着地点を用意する」というコミュニケーションメソッドを推奨している。これをわれわれは「会話の枕詞」と呼んでいるのだが、簡単に言うと、始まる前に終わりを言葉で見せるというテクニックである。

 
 

 たとえば昔、学校の先生からこんなことを言われた経験はないだろうか。授業中突然、「ここからは、テストにでるぞ〜」という言葉、この言葉を聞くと、生徒の耳は一斉に先生の言葉に向く。これは、発信者側の先生が聞き手の生徒に対して、コンパクトな表現で次に話すことは君たちにとって大事なことだと条件付けしているわけだ。

 これを心理学では「プリフレーム」と呼ぶのだが、会話の“主旨”や“着地目標 ”を明確に最初に伝え、互いに「時間内の目的を認識」して進めていくコミュニケーション技術は、これからの時代にマストだと言えるだろう。

「何を言うか」よりも「どのように言うか」--物よりも言葉にチカラを宿す時代へ

 さて、こんなご経験が読者にもないだろうか。突然かかってきた電話でわずか数分、「この人の話、もう聞きたくない」「もう結構」と思うこともあれば、逆に「興味あるな。その話もっと聞きたいな」と思ったりするような経験だ。

 私は、お客様に1度も会わない、そんな営業手法に長く取り組んでいた。電話だけでファーストアプローチから契約、納品からサポートまで行っていたわけだが、脳機能科学や心理学などを積極的に研究し、それを現場で愚直に実践していく中で、いつしか、“お客様の心の揺れ動き”が電話口からでも分かるようになっていった。

 20万コールを超える電話営業の中で、仮説と検証を繰り返し、最初の3分で、

「どうしたらお客様は、自分の話を聞いてくれるのだろうか」
「どうしたらお客様は、もっと話を聞きたいと言ってくれるのだろうか」
「どうしたらお客様は、自分のことを話してくれるのだろうか」

 を研究していった。

 どのように言葉を伝えたらお客様の心の紐がほどけ、自ら抱えているニーズ(問題・願望)を話してくれるのだろうか。そして、どの言葉、ボキャブラリーを使ったらお客様の心の紐が硬く結ばれてしまうのか。逆に、どうすれば1度も会わずに、電話だけで心の紐がほどかれていくのか。それを現場で研究し、実践していったわけである。

 会話というのは順序で変わる、と私は考える。仮に物事を、A→B→Cの順番で伝えると、

「もうやめて」
「もう聞きたくない」

 と嫌がられることでも、B→C→Aという風に順序を変えて伝えてみると、

「もっと、話を聞かせて」
「それって、どういうことなの?」

 となることがあるわけだ。伝える順番を変えるだけで、お客様の興味や関心は真逆に触れる。

 会社や業界を見渡してほしい。全く同じ商品を全く同じパンフレットを使い、全く同じ価格で売っているにも関わらず、なぜ売れる人と売れない人との差が生まれるのか。私は、そこに着目し、プレゼンテーションにおける会話の順序を体系化した。

 会話に「伝える順番」があること。これはなにもセールスに限ったことだけではなく、普段の会話でも同じだ。われわれは、お客様から感謝されるセールスパーソンは、自動的に売上にもつながり、お客様への貢献だけではなく、会社への貢献も生み出すことができる“素晴らしい職業”であることも伝え続けている。

「会話が変われは、人生も変わる」

モノがあふれる時代に必要なのは「人の言葉」

 情報やモノがあふれている今、スペック・中身・プランもほぼ変わらない中でどうしたら他の商品と差を付けることができるのか。そして、テクノロジー・サイエンスがもっともっと進化していく中で、他社との違いをどう見せていくことができるのか。

 ズバリそれは、「言葉」にあると考える。誰が語る、どんな言葉なのか。そこに対する重要性は、進化すればするほど、さらに大きくなっていくと確信している。ハイテクノロジーがますます発達していくこれからの時代に、その力量の差は、露骨に表れてくるだろう。

 さらに、直接会って話をする機会が激減していくなか、オンラインを通してでも「人として」の想いが、実は鮮明に伝わる時代になっていくと私たちは考えている。借りてきた言葉や聞いただけの言葉、文字で綴られている言葉だけを伝えている人間と、自分自身で葛藤し、苦悩し、試行錯誤を繰り返し経験してきた中で紡がれる命の言葉を伝える人間とでは、同じ言葉であったとしても、全く違う言葉になる。

「何を言うか、ではなく。誰の言葉を聞き、誰からモノを買うのか」

 テクノロジーの発達、急激な進化している今だからこそ、言葉を大切にし、人間力を上げていける人間が、これからの時代を創り上げていくことを確信している。

浅川 智仁

ライフデザインパートナーズ株式会社 代表取締役

ライフデザインパートナーズでは、『なぜ、商品やサービスを販売するのか?』この質問に即答できるセールスパーソンになり、おのずと数字がついてくることで、『お客様に貢献したい』『会社に貢献したい』と思われている組織の理念に基づき、その組織の中にいる“ひとり”の人間にフォーカスしていく理念型経営専門の営業研修を行っている。著書に『お金と心を動かす会話術』(かんき出版)、『できる人は、3分話せば好かれる』(三笠書房)、『できるリーダーは、こう話す』(PHP出版)、2021年6月には新刊『仕事ができる人は、3分話せばわかる』(三笠書房)など8冊出版している。

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