このような取り組みのなか、近藤氏は気がついたことがあるという。「ツール導入やアウトソーシングでコストダウンや合理化は進むが、電脳交通を使うことで売上を増やせるという価値を提供できていない。タクシー業界は、コストを下げるのと同時に集客も急速に回復させていかなければ、経営が持たない」(近藤氏)。
そこで取り組んだ1つが、配車システムと外部システムとのAPI連携だ。例えば、2021年4月にはモバイル・コマース・ソリューションが提供するボタンデバイスを押すだけで、タクシーを配車できる「タクシーダッシュボタン」と、電脳交通の配車システムを連携。別々のシステムを処理するオペレーション負荷を減らしつつ、集客チャネルを増やすことができた。
さらに7月1日には、「電話配車による事前確定運賃サービス機能」を発表した。要は、これまでは配車アプリを使った場合のみ、事前にルートと料金を確定した状態でタクシーを呼ぶことができたが、電脳交通の配車システムを導入している事業者であれば電話で配車注文を受けた場合にも、アプリと同様に事前確定運賃を提示できるようになる。
これもまた、タクシー事業者の売上アップにつながるという。電話で確定運賃を案内できれば、ユーザーも安心できるため、受注の機会損失を防ぐことができる。また、配車アプリではドライバーが個々に、注文通り配車するか、注文を無視して配車を見送るかを判断でき、(C2Cの観点では正しい仕組みとはいえ)事業者からするとやはり受注の機会損失になりかねないが、電話経由で受注できれば確実に配車できる。
しかしいまどき、アプリより電話なのか。その疑問に近藤氏はこのように回答した。
「電話での注文にこだわっているわけではないが、国内における配車注文数の内訳は、配車アプリは2〜3%程度で、特に地方では圧倒的に電話のほうが多い。高齢者も電話のほうが使いやすい。実態に基づいてユーザーインターフェースを検討した。一部の業務をテクノロジーで自動化し、ドライバーと関係性のある人が配車指示を出すことで確実性を担保するような手段が、現状では最もマッチング率が上がり売上にも貢献できると思う」と述べる。
また、「国交省の方針としても将来的なダイナミック・プライシング導入を見据えて、事前確定運賃はとても重要な制度。配車注文の大多数を占める電話で、運賃とルートを事前に案内できるようになることは大きな意義がある」(近藤氏)
配車システムへの機能も追加中だ。例えば、沖縄県のてだこモビリティサービスがコロナウイルスワクチン接種者を会場まで移送するサービスをアナログ管理で始めたが、煩雑でヒューマンエラーが問題だった。そこで電脳交通の配車システムで新たにリリースされた「乗合機能」を活用することで、効率が大幅に改善、集客拡大につながったという。
今後も積極的に機能を追加して、「Windowsのように、“タクシーのOS”を目指したい」と近藤氏は話す。タクシーをはじめさまざまなモビリティに電脳配車OSをインストールすることで、いろいろなアプリケーションを使える、外部システムとも連携できるようにして、事業者の効率化のみならず売上拡大につなげたい構えだ。
一方で近藤氏は、「高齢化が進んでいるなかで、タクシーも含めて公共交通の機能性が問われているのではないか」とし、「ドアツードアやオンデマンドでの移送サービスへの需要は高まっている」と指摘する。事業開発、マーケティング、テクノロジー、それぞれを担える人材が数多くバランスよく存在する業界が率先して、未来のモビリティを描き直す。吉野川タクシー再建で得た知見を、タクシーを含めたモビリティ全体ひいては地方経済全体に還元していくという気概が感じられる。
すでに、地域の移送を担う事業者が電脳交通のツールを導入し、行政の要請に合わせてデマンド交通を即時に運行開始できる体制を整えて、その街にあった最適な交通を提供するといった協議も始まっているという。公共交通の“リエンジニアリング”が、コロナ禍を機に静かに進みつつある。
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