見た目そのままに舌でつぶせる「やわらか食」--ギフモ森實氏が調理家電で描く食卓の姿 - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2022年04月08日 09時00分

高齢者だけでなく障害児のステップアップにも

——デリソフターは最初からこの形だったのでしょうか。開発段階で他の手法を考えたことはありましたか。

 一番初め、水野と小川が考えていたのは、いわば「全自動介護食メーカー」のようなイメージの家電でした。ミキサーやヒーターを仕込んだもので、生の食材を入れるとペースト状の食事ができる、いわば「スーパーマルチクッキングメーカー 介護食版」のようなものでした。

 そこから2人が専門家や一般の方にヒアリングを重ねていったことで、「みんなと同じものを食べられるのが一番うれしい」ことに気付いた。であれば、見た目と味を変えずにやわらかくできる魔法の電子レンジみたいな機械があったらいいよね、という考えにたどりついて、コンセプトをピボットさせて生まれたのがデリソフターだったんです。

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——なるほど。ちなみにデリソフターには使えない、もしくは適さない食材はありますか。

 われわれのやわらかいという定義は、「歯茎で潰せるかどうか」を基準にしています。そういう意味では、元よりある程度やわらかくなったとしても、歯茎ではつぶせないものはあります。根菜類のゴボウ、レンコン、竹の子やキノコなどですね。

 これらは熱や圧力、デリカッターでは分解できない苦手食材です。ただ、これまでデリソフターを販売してきたなかでユーザー様からの声もいろいろいただいています。それを参考に新しい調理法、デリソフターの使いこなし術も考案して、今まで苦手とされてきた食材もやわらかく、おいしく食べられるようなレシピをどんどん提案しているところです。

——売れ行きはいかがでしょうか。

 2020年7月に販売を開始しました。直接販売のみに限定して、本当に困っている方、口コミで知っていただいた方に手売りして初回の100台はすぐに完売し、その後2期販売分も完売して、2021年5月からは通年販売にし、オンライン販売も開始しています。2020年度の出荷台数は計500台以上です。ご注文からお届けまで1週間程度という生産体制も整って参りました。

 2020年度の販売先は半分程度が個人宅、もう半分が小規模な介護系施設や病院、大学などです。歯を丈夫にするのは食事のとり方にも関係しているという観点から、歯医者さんからも引き合いがあります。

 デリソフターは水野・小川という2人の女性の介護の経験から生まれたアイデアでもあって、在宅介護の現場で使ってほしいという思いから、そもそも個人宅向けの仕様として作っていたことも個人宅利用が多い要因になっています。一度の調理量が1~2人分で、大量調理には使いこなしの工夫が必要です。

——そこまでの機能をもった家電としては、4万7300円(税込)というのはかなり求めやすい価格のようにも思いますが。

 販売前は展示会などでご紹介させていただくことがあり、そのときはまだ価格設定はしていなかったので「約10万円」というお話をしていました。ただ、製品としてはいいものだとご理解いただいても、一般家庭で使うとなると10万円はあまりリアリティのある値段ではなかったと思います。

 その後、実際に価格を検討していくなかで、製造原価にも注意しながら他社の家電製品なども参考にし、「5万円を切る」のが大きなポイントになってくると考えて4万7300円(税込)としました。正直、小ロット生産である現状は利益はかなり少ないです。協力会社さんに多大なご協力をいただいて実現した価格です。

——デリソフターを使用している方からはどういった感想や意見が届いていますか。

 親の介護をしている方、在宅の高齢者がメインターゲットでしたが、「みんなと同じものを食べられる」「見た目と味がそのまま」というところは、介護の現場にいる方や実際に食事をされる高齢者の方にとってはまさに待ち望んだものだったようです。

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 また、障害児の親御さんにもご支持いただいています。お食事は経管接種や流動食なのですが、医師などの助言のもと、成長にともなってソフト食、やわらか食と言われるものに食形態をステップアップしていくことになります。

 親御さんとしては、子どもの面倒を見ること、食事の準備などが本当に大変で、さらに食形態のステップアップを考えるとなると負担感は一段と増します。特にソフト食、やわらか食は調理が難しいものなのですが、そういったところにデリソフターはちょうどマッチしているんですね。

 お子さんにとっても、今までお父さんお母さんが食べていた普通のご飯を自分も食べられるんだ、というところに喜びを感じて、食べる意欲もより湧いてくる。いろいろなお子さんにデリソフターをお試しいただいていますが、「(今まで無理だった)お肉をそのまま食べられるんだ」と親御さんに驚いてもらえます。

 ほかには、訪問看護師の方がデリソフターを訪問先に持ち運んで、老夫婦の家庭などで食事を支援するときに使われているケースもあります。やわらかくすることで食べられるようになって自信がつき、普通のご飯が再び食べられるようになったという方も中にはいらっしゃるという話も伺っています。

 「家庭を明るくしてくれる家族のような存在に思えてきました」と言っていただける人もいて、デリソフターが家庭になくてはならないものになっていると、ひしひしと感じています。

必要なのはずっと諦めず、やり通すという強い気持ち

——家電に強いパナソニックという企業から生まれたことによる強みみたいなものはあるでしょうか。

 僕はソニーの関係会社にもいましたので、そこと比較する形になりますが、会社としてのDNAが違うなとは感じますね。ソニーは自由闊達な、エンタメ色の強い会社で、社員の方はいつも新しい物を生み出そうとクリエイティブな能力を発揮しています。先進的な技術にこだわりをもつ会社という印象が強く、僕にとってはとても刺激的な場所でした。

 パナソニックは創業者である松下幸之助氏の教え、考え方が全社員にしっかり根強く伝わっているように思います。松下幸之助氏が家電を始めた理由は「主婦を家事から解放したい」というものでしたから、生活に根ざした、女性が活躍する社会にもつながる考え方でもあります。

 ソニーのいわゆる黒物家電と、パナソニックの白物家電は、同じ家電でありながら全く違うものを作っているような感覚です。製品に込める思いから、作り方そのもの、お客様との向き合い方まで、白物家電はすごく生活目線で、そこを根底に持っている企業でしたから、たくさんの学びがありました。

 品質に対するこだわりにも、すごいものがあります。過去に1件でも市場で見つかったトラブルは、10年、20年も前のことであってもノウハウとして設計に盛り込むんです。それだけのものを作らないとお客様に受け入れてもらえないんだ、ということも学ばせていただきました。そういったパナソニックで学んだことを、ギフモでも物づくりにあたっての強みにしていきたいと思っています。

——製品としての改善点も含め、現在の課題があれば教えてください。

 もちろんハードウェアの進化も課題の1つではありますが、使う人にとってデリソフターの価値が何かを考えた時に、これは料理をつくるものであって、それにはレシピが必要なんですね。先ほどお話しした苦手食材の新しい調理法なんかもそうですが、今はInstagramなどを通じてレシピを提案していて、多くの人がより便利にデリソフターを使いこなせるようにしていければと思っています。

 本質的には製品そのものではなく、ユーザーコミュニティにおける体験が大事なんだろうなと。レシピも含めて、ソフト的な価値というところにも、これからもっと力を入れていきたいと考えています。

——森實さんにとって、大企業のなかから起業するイントレプレナーに大事なことは何だと思いますか。

 「とにかくやりたい」と思うことかなと。「できない」「しない」理由はいろいろ後付けできると思います。自分がやらなくても誰かがやってくれるだろうとか、会社がこうだからできなかったんだとか。他にも外部要因だったらたくさん考えられるでしょう。

 でも、イントレプレナーとして起業にまで至るのには、本当に心から自分がやりたいと思っているか、その思いを何年間も持続できるか、その思いを実現するためにどこまでも貢献できるか、そういうマインドが必要不可欠だと思っています。スキルがあるかどうか、というのはそこまで重要ではないかもしれません。

 アイデアを最初に生み出した2人の女性が、最初から今に至るまで、ずっと諦めないという気持ちをもって、行き詰まった時にもみんなが驚くような方法でやり抜いたりする姿を見てきました。そこには、「何がなんでもやらなきゃ」という強い気持ちを感じましたし、普通のサラリーマンとして過ごしてきた自分にはなかった考え方として僕自身も常に刺激を受けています。

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——ギフモという会社の代表として2人の情熱を引き継ぐことには不安もあったかと思います。

 ギフモを立ち上げた直後、1人でやっているときは少し不安もありましたが、その後2人がジョインしてきてからは安心感が出てきて、「このメンバーでこの製品なら絶対にいける」という気持ちになってきました。彼女たちの考え方に触れることで、自分も変わることができた。デリソフターを実現できたのは、2人や周囲から協力が得られたからこそです。

 最初の方でも言いましたが、僕は2人の大ファンなんですよね(笑)。熱狂的になりすぎたファンクラブのメンバーが、ついに会社を作ってしまった、みたいな(笑)。今も彼女らの熱量にはかなわないので、一生をかけて少しでも追いついていければいいなと。パナソニックに転職して一番良かったのは、2人に出会えたことだなと思えるくらいです。

——今後どんなビジョンをもって事業展開していこうと考えていますか。

 「家族みんなが同じものを、同じ食卓で、いつまでも。おいしい笑顔の、やさしい時間。」を実現したいです。その実現したい社会はギフモという社名にも込められています。「GIFT」と「OMOI」の組み合わせで、思いを贈り合う社会を作って行きたい、という思想があるんです。

 食事のときは、ご飯を作る側と食べる側という双方向の関係性が生まれます。ご飯を作る側のおいしく作りたいという思いと、ご飯を食べる側のおいしいものを作ってくれてありがとうという思い。そういう人と人の関係って大切ですよね。どんなビジネスでも結局は人と人との関わり合いだったりするじゃないですか。

 おいしいものを食べるだけじゃなくて、人と人が思いを交わし合うような食事のシーンをずっと続けられる社会にしたい、というのが我々の願いです。デリカッターを皮切りに、さまざまなプロダクトやサービスも今後は展開していきたいと思っています。

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