「課題の発見→解決」の前に、もっと大切なことがあります。
それは「地域を知る→好きになる」というプロセスを踏むことです。都市部であればたいていのビジネスの課題は、「人材」と「予算」があれば解決できます。それに対して、地域の課題解決はとても複雑なのです。
まず市民、行政、企業といったステークホルダーがいて、市民の中にも「その土地からほとんど出たことがない人」「子育てを機に地元に戻った人」「老後のためにUターンした人」「縁もゆかりのない土地ながら、好きで移住した人」などさまざまなタイプが混在していて多様です。行政の担当課も、民間の人からすれば馴染みのないセクションに分かれていて、それぞれに力関係が働いています。
そもそもの話、いま山積しているのは仮に解決策を見つけてもあまり儲からないため、企業が通常の商売として手をつけずに放置してきたものばかりです。要は、難易度がかなり高い。解決には時間も手間暇もかかります。
また地方には、公共の問題だけでなく、「後継がいなくて事業承継が難しい」「人手不足で採用に苦労している」「人材がいなくて業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない」といった民間の問題も山積しています。
でも、仮にそういう課題を抱えている経営者がいたとしても、ワーケーションでやってきた「よそ者」に最初から「いま自分たちはこういうことに困っている」と教えてくれるでしょうか? 自力ではどうにもできない「課題」は、当事者にとっては「恥」のようなもの。本当に困っていることは、そう簡単には話してもらえません。
時間をかけて、何が課題なのか?その本当の原因は何なのか?その課題の解決にはどんなステークホルダーが関わるのか?ワーケーションをきっかけに本気でその課題解決に取り組むことになれば、時間の面でも労力の面でも相当なリソースが求められます。途中で人間関係でいざこざが起きたり、予算やいろいろな規制に阻まれて挫折しそうになる場面は、おそらく避けられないでしょう。
地域の課題解決は、とてもやりがいがありますが、非常にハードルが高いのです。そういう時に「その地域のことが、とにかく好き」という気持ちがなければ、乗り越えていけないと思います。ですからワーケーションでは、「課題の発見→解決」の前に、「地域を知る→好きになる」のプロセスこそ大事にしたいのです。
ワーケーション先の地域との協業はハードルが高い、という話をここまでしてきましたが、そのハードルを超えてまでやる意味は、特に人材育成の面で大いにあると感じています。
筆者自身、この3〜4年の間、副業として長崎県・五島列島を舞台に、地域とさまざまなプロジェクトを動かす中で大きく成長したと感じています。企画立案、予算確保、チーム編成、マネジメント、ステークホルダーの利害調整、そして具体的な実装まで、地域の限られたリソースの中でプロジェクトを走らせるのは、東京のビジネス領域におけるそれよりも、正直何倍も難易度が高く、とても鍛えられます。
特にビジネスパーソンとしての土台があり、「次のハードルが欲しい」「新しい展開が欲しい」と感じている中堅社員にとっては豊かな可能性を秘めています。大きな組織の中で働いてきた人ほど、全体を見渡せる規模の、手ざわり感のあるプロジェクトを通じて得られるものは、意外なほど多いと思います。
この連載で5回にわたりお伝えしてきた「ビジネスパーソンのためのワーケーション超入門」いかがでしたか?ワーケーションが、1人でも多くのビジネスパーソンにとって、With/Afterコロナの人生をデザインし直すヒントとなれば嬉しい限りです。
鈴木円香(すずき・まどか)
一般社団法人みつめる旅・代表理事
1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。
「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。
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