「宇宙での健康課題」に挑むアイデアが続々--N高・S高生らが宇宙兄弟コラボの「Project LoM!」成果発表 - (page 2)

 6チーム目の「名駅A」チームは、月で戸建ての家に住めるアイデアを紹介。月面では大きな基地のような建物に共同で暮らしているイメージがあるが、その共同生活では人間関係や騒音のトラブルが起こると予想する。そこで月面でもプライベートを確保するために考え出したのが「月でも戸建て『Moon Ger』」だという。

 これは、モンゴルの遊牧民が使っている組み立て式の住居「ゲル」の発想を生かしたもの。2〜3人で簡単に組み立てられる上に頑丈なことが特徴だ。使わなくなったらすぐに撤去できることから、宇宙ビジネスで2〜3カ月だけ滞在する、ビジネスパーソンなどをターゲットにしているという。地上での転用では、プライベートなサウナをすぐ作って楽しめるようにしたいと語った。

キャプション
キャプション

 7チーム目の「池袋D」チームが発表したのは、まだ医療体制が整っていない状態での月面作業員向けのアイデア。月の表面の放射線量は地球の300倍以上であるため、発ガンのリスクが高い。そこで、数滴の尿によって毎日検査ができる仕組みを考えた。

 具体的には、ガン患者の尿の匂いを判別できる「線虫」という宇宙でも生きることができる虫を使って、作業員がトイレにいくたびに、日々のガンのリスクを検査するというもの。作業員に専用のリストバンドを装着して排尿してもらうことで、トイレの場所と持ち主のIDを紐付けられるとした。地上への転用については、妊婦にとってストレスになっている検診時間を、この仕組みによって少しでも短くできればと話した。

キャプション
キャプション

 最後の8チーム目となる「京都B」チームは、宇宙での歯磨きの課題を解決するマウスピース型の電動歯ブラシを紹介した。宇宙では、吐き出した水滴が精密機器に入り込まないように、歯磨きのあとはその水を飲み込まなければならない。ただ、その行為自体がストレスにつながってしまうと指摘する。

 そこで考えたのが、マウスピース型の電動歯ブラシ。マウスピースを口に入れるだけで超音波の振動で歯磨きできるようにするほか、本体内蔵ボトルに口内の水分を吸収する機能を搭載することで、水を飲み込む必要をなくした。また、手を使わなくて済むため宇宙空間にも適していると説明する。地上でも、たとえば災害時の停電や断水時でも使えるのではないかと語った。

キャプション
キャプション

最優秀賞に選ばれたアイデアは?

 全8チームが発表を終え、審査員によって各賞の受賞者が発表された。まず、『宇宙兄弟』特別賞を受賞したのは、月面での「地球食レストラン」を発表した千葉Aチーム。審査員を務めた『宇宙兄弟』の編集者・小室氏は、『宇宙兄弟』では2026年以降という数年後を描いており、作者の小山宙哉氏は現代の人々が月に行ったら感じることや困ることを想像しながら描いていると説明。地球食レストランについても、『宇宙兄弟』の中でも出てきそうな想像力の豊かなアイデアだと評価した。

キャプション
『宇宙兄弟』の編集者である小室元気氏 (C)Chuya Koyama/Kodansha

 続いて、JAXA特別賞を受賞したのは、尿から発ガンのリスクを早期発見できる池袋Dチームのアイデア。JAXA 宇宙教育センターの鈴木氏は、ローコストであり実現可能性が高いことを挙げ「その気になれば明日からでも実現できそうないいアイデアだと思った」とコメントした。

JAXA 宇宙教育センターの鈴木圭子氏
JAXA 宇宙教育センターの鈴木圭子氏

 審査員長特別賞を受賞したのは、ホログラムによるアニマルセラピーを発表した京都Cチーム。宇宙アドバイザー協会理事の三枝氏は「宇宙でも時間に余裕ができたらアニマルセラピーが欲しいと思うようになるのでは。現実と未来が融合した非常にすばらしい発表だった」と評価した。

 最後に優秀賞の上位3位が発表された。まず、3位にランクインしたのは代々木Aチームの骨折治療機G.I.P.S。小室氏は、『宇宙兄弟』でも使えそうな具体性があり、ロゴやモックアップのクオリティも素晴らしかったと評価した。また、2位には京都Bチームのマウスピース型電動歯ブラシが選ばれた。鈴木氏は、口内健康の重要性は注目されており、地球でいま売り出してもすぐにヒット商品になるのではと期待を寄せた。

キャプション
宇宙アドバイザー協会理事の三枝博氏

 そして、全50チームの中から見事、最優秀賞に選ばれたのは神戸Aチームの、放射線によって”色が変わる”ウェディングドレス。その理由について、三枝氏は「宇宙で厄介者の放射線を逆利用する発想がおもしろい。社会問題になっている熱中症対策にもつながるアイデア」と評価した。これに対し、神戸Aチームは「独自性あるけれど課題解決になっていないんじゃないかと悩んだ時もあった。自分たちが考えたことをうまく伝えられて嬉しい」と最優秀賞への思いを語った。

 今回のProject LoM!について、S高の校長である吉村総一郎氏は、「想像力を働かせないといけない様々な問題に、独自の発想でアプローチしてモックアップも作るなど、どの発表も非常に素晴らしかった」とコメント。また、小室氏も「本当に社会人のプレゼンを聞いているみたいだった。今の高校生は今後をしっかり想像できる、話し合いができる世代になっていることにすごく驚いた。ぜひ1チームずつ『宇宙兄弟』の編集会議に来てもらいたいくらいだ」と、全チームのプレゼンを高く評価していた。

S高の校長である吉村総一郎氏
S高の校長である吉村総一郎氏

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]