国内でもいよいよ、ドローンによるオンデマンドフードデリバリーサービスに向けた実証が始まった。出前館、吉野家、エアロネクストらは6月10日、神奈川県横須賀市で作りたての「ほかほか牛丼」を医療従事者へドローンでデリバリーする実証実験を行い、国内初となる成功をおさめた。
本実証を統括したエアロネクストは、2021年4月から過疎エリアである山梨県小菅村で、セイノーホールディングスと協働して食料品・日用品のドローン配送の定常運行を試みており、すでに1日10便のドローンデリバリー定常運航に漕ぎつけているという。
今回は、航空法改正により2022年に解禁が見込まれる「レベル4」(有人エリアにおける目視外飛行)を見据え、フードデリバリーのさらなる普及を図る吉野家や出前館らとともに、将来的に新たなデリバリー手段となるドローンの「配送品質」などを確認した。
エアロネクストは、独自の機体構造設計技術 4D GRAVITYを開発して特許群を取得し、知財戦略をとることで有名なスタートアップだ。4D GRAVITYとは、飛行部と荷物搭載部を分離させることで、離陸から着陸まで「常に荷物を水平に保つ」技術だという。
同社CEOの田路圭輔氏は、フードデリバリーにおける自社技術の価値をこのように説明した。「同じくドローン配送の実証が進みつつある日用品や医薬品と比べて、フードデリバリーでは届いたときの見た目がとても重要になる。フードデリバリーにこそ4D GRAVITYは不可欠だ」(田路氏)
確かに、ドローン配送の実証実験を繰り返し行ってきたANAホールディングスとエアロネクストが提携を発表した際のインタビューでも、「お寿司のネタが崩れるなどの課題がある」と話題に上がっていた。ドローンの機体と荷物が一体になった構造では、ドローンが前方に進もうと機体を傾けると荷物も一緒に傾いてしまうのだ。
さて今回の実証内容を、順を追ってレポートしよう。まず、横須賀市立市民病院に勤務する医療従事者が、出前館アプリを使って牛丼を注文する。
するとすぐ、病院から約5km離れたところに停留する吉野家のキッチンカー「オレンジドリーム号」内設置されたタブレットに「出前館です」音が鳴り、注文が入る。
当日は、病院側とキッチンカー側の運営スタッフが通話しながら連携しており、「注文からデリバリー完了まで」の時間を計測していた。いかに“ほかほか、熱々のまま”届けるかを重視するためだ。
吉野家スタッフが牛丼1つ調理するのにかかる時間は、なんと10秒。「できました」という声かけで、待機していた出前館スタッフがすぐに受け取った。
今回のドローン離陸地点は、立石公園にある半島。吉野家キッチンカーの停留地点から、約150m離れた海岸付近に設定されていた。というのも、まだ「レベル4」解禁前であるため、無人地帯を飛行する必要があることと安全面への配慮から、海上ルートを飛行するためだ。
このため、出前館スタッフが歩いて離陸地点まで牛丼を運んだ。ドローンの配送品質を確認するためにも、ここで揺らしてしまわないよう慎重に運ぶ姿が印象的だった。
離陸地点では、出前館スタッフがドローンオペレーターに箱を渡して、ドローンに箱をセットした。よくある、機体の下部に箱を設置して飛び立つタイプではなく、こちらの機体は上部を一度開いて、箱を内部に設置してからまた閉じるという構造だ。
機体サイズは、全幅170cm、全長140cm、高さ45cm(プロペラ含まず)。5kgまでの荷物を搭載できる。ちなみに試作機であるため最終スペックではないが、最高飛行速度10m/s、航続距離は往復20kmまで可能とのこと。
箱の設置が終わったら、病院側にある遠隔運航管理システムから離陸指示があり、ドローンは飛び立っていった。
「ドローンが離陸した」との連絡が入ってから約10分、海の上にドローンの姿が現れた。病院屋上までは、河口から河川上空を飛行して有人地帯を避けた。
そして病院に隣接する、神奈川県立海洋科学高等学校の協力を得て同校グラウンド上空を経由して、屋上の着陸地点に向かった。
ドローンは着陸後、すぐに荷物を切り離して、再び離陸した。今回は、着陸地点へ戻るという実証は行われなかったが、片道でバッテリー消費30%ほどとのことで、リターンも十分可能だ。
最後は、ドローンのオペレーションスタッフが荷物を受け取り、医療従事者が待つテーブルに牛丼を置いて無事にデリバリーが完了した。
横須賀市立市民病院は現在、新型コロナウイルス感染症の入院が必要と診断された中等症の患者を受け入れる重点医療機関に指定された病院である。周辺に昼食をとる場所が少なく、また昼食をとる時間的な余裕もままならないなか、食堂も時間短縮で運営されているという。
牛丼を受け取った臨床検査技師の宮崎彩瑛さんは、「すごく温かい状態で、開けたら湯気がでてきた」と顔をほころばせた。吉野家が確認したいとしていた「蓋が外れていないか」「汁がこぼれていないか」「お肉が寄ったりしていないか」など商品の状態は、概ねクリアできていたようだ。
温度管理については、今回は実証していないものの、実は冬の寒い頃から繰り返してきた試験飛行のなかで実証を行い、「保温性があって、縦揺れ横揺れしにくい箱を用意してほしい」と、開発側にリクエストを出していたという。
今後の展開について、エアロネクストの田路氏は、「今日ようやく最新の機体をお披露目できた。すぐに小菅村に持ち込んで、さらに調整を進めていきたい。2022年度中には事業を開始する予定だ」と意気込みを語った。エアロネクストは、山梨県小菅村にドローン配送を主事業とする戦略子会社「NEXT DELIVERY」も立ち上げている。
出前館の藤井英雄社長は、「着地のスムーズさに非常に驚いた。われわれも配送品質を非常に大切にしているが、これならお客様にお届けしても心配がないと思った」と話し、段階的に進める必要があるとしつつも「世帯が密集しておらず自転車配送が難しいエリア」「施設や大規模な集合住宅」などを例に挙げて、「いまあるシステムを活用してでもできることがある」と前向きにコメントした。
「雨の日こそ飛ばして、試してみたい」と、さらに積極姿勢を示したのは吉野家の河村泰貴社長。「悪天候の方がデリバリーの需要は高い」との言及に、田路社長と藤井社長が首を揃えてうなずく隣で河村氏は、「法規制が変わっていくのを待つのではなく、技術と規制が追いついた時を見据えて、例えば容器など最適な方法をいまから一緒に考えていき、できるだけ早い時期にお客様にお届けしたい」と話した。
遠隔運航管理やオペレーション統括を担当したACCESSの夏海氏は、「エンジニアがかなり頑張って準備してきた甲斐があって、無事にフライトを終えられてよかった。これからもわれわれの技術をドローンの社会実装に生かしていきたい」と安堵した表情を見せた。
また横須賀市立市民病院 管理者の北村俊治氏は、「医療従事者なので、医療という公益事業の提供という面からドローンを見てしまう」と話し、医薬品や医療部材のドローン配送にも期待をにじませた。
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