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発明者は社長の私でもいいですか?--スタートアップのための「特許なんでも相談室」

大谷 寛(弁理士)2021年05月24日 09時00分
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 同連載「特許なんでも相談室」では、スタートアップの方々からいただいた特許にまつわる質問や疑問に、大谷寛弁理士が分かりやすく回答していきます。第6回でご紹介するご質問はこちら。

Q.発明者って誰のことですか?社長の私にしておけたらと思っています。

A.発明者は事実の問題で、任意に決められる性質のものではありません。事実に沿って発明者を把握し、必要な権利処理をすることが求められます。

キャプション

【解説】

 発明がなされると発明者に「特許を受ける権利」が発生します。この権利を有しない者による特許出願は冒認出願と呼ばれ、違法な出願として評価されます。また、複数の者によって共同で発明がなされるとそれぞれに特許を受ける権利が発生し、共有になります。共有者がいる場合には他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず、いずれかの共有者を出願人に含まない特許出願はやはり違法な冒認出願として評価されます。

 違法な特許出願は、審査段階で拒絶されます。また、審査段階で問題が顕在化しなかったとしても、事後的に特許が無効になります。たとえば、従業員が発明者であるにもかかわらず、とりあえず社長を発明者として特許出願をした場合、後にその特許が牽制力として競合に対して重要な価値をもつものとなったとしても、無効になるおそれがあります。別の例としては、業務委託の開発者が共同発明者の一人であるにもかかわらず、基本的には自社で考えて開発を委託したものだから問題ないだろうと判断して自社の従業員のみを発明者として特許出願をした場合、同様に無効になるおそれがあります。

 ここで「発明者」とは誰かについて、発明の技術的思想(課題およびその解決手段)の完成に創作的に寄与した者と解されており、たとえば、発明の技術的思想を着想したり、実験などによりその着想を具体化することに技術的貢献をした者をいい、管理者として一般的管理をした者、一般的な助言・指導を与えた者、補助者としてデータをとりまとめた者、資金を提供したり設備利用の便宜を与えることにより援助した者などは発明者には該当しないと考えられています。

 また、「共同発明者」とは誰かについては、発明に至る創作行為のすべての過程に一人の者が関与することを要するものではなく、発明の技術的思想の着想およびその具体化の過程において、一体的・連続的な協力関係の下に重要な貢献をなした者と解されています。

 この判断は、発明に関与した各関係者の評価に関する繊細な問題を含み、丁寧な確認が望まれます。

 従業員および取締役については、就業規則その他の社内規定により、会社の職務にともない生まれた発明についての特許を受ける権利を会社帰属とすることで、権利処理がなされます。特許出願の対象となる発明が次々と生まれるわけでは必ずしもありませんので、社内規定の整備は追って行うとして、特許出願前に個別の契約で会社に権利を譲渡することで解決することもシードステージ、アーリーステージなどのスタートアップにおいては現実解です。

 社外の業務委託であったり社外との共同開発においては、社内と比較して利害関係の対立が生じることも少なくなく、事実に沿った発明者の認定と適切な権利処理を早期に終えておくことが適切です。

CNET Japanでは、スタートアップの皆様からの特許に関する疑問を受け付けています。ご質問がある方は、大谷弁理士のTwitter(@kan_otani)までご連絡ください。

大谷 寛(おおたに かん)

六本木通り特許事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。

2016年12月-2019年12月 株式会社オークファン社外取締役。

2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。

2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。

2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。

事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。

Twitter @kan_otani

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