ユーザーの声はすぐに全社Slack、バリューを大きな評価軸に--「ココナラ」の驚きの組織カルチャー

 シェアリングエコノミーのなかでも“スキルシェア”は特に拡大が期待される市場の1つだが、3月19日にマザーズに上場したココナラが、破竹の勢いで成長を続けている。

 1年半前は約100万人だったスキルシェアサービス「ココナラ」の会員数は現在、コロナ禍での需要増も追い風となり、2倍以上の210万人に拡大。サービス出品数は40万件、レビュー数も270万件を超えるなど、スキルシェア市場ではトップを独走している(同社調べ)。

 また、もともとは似顔絵や占いといった少額の個人利用が中心だったが、数年前からデザインやサイト制作などの法人利用が増えており、2020年度にはついにシェアが逆転したという。中にはココナラだけで1000万円以上を稼ぐユーザーも出てきた。

ココナラ代表取締役社長CEOの鈴木歩氏
ココナラ代表取締役社長CEOの鈴木歩氏

 「個人が何かを頑張ろう、世の中とつながろうと思ったときに、時間や場所、年齢や性別、置かれている境遇などに関係なく、誰もが活躍の機会を見出せるような世の中にしていきたい」ーーそう語るのはココナラ代表取締役社長CEOの鈴木歩氏。

 なぜ、ココナラはスキルシェア市場で首位に立つことができたのか。同社のプロダクト開発体制や組織カルチャーを探った。

ビジネス制作が増えても「クラウドソーシングではない」

 ココナラは、創業当初より20カテゴリを用意するなど"ホリゾンタル”にこだわってきたと鈴木氏。自分のスキルで稼ぎたい人から、スキルを通じてただ世の中とつながりたい人まで、あらゆる属性や目的の人に機会を提供するプラットフォームを目指しているからだという。

 前述したように、コロナ禍におけるDX文脈で、サイト制作や動画などの「制作ビジネス系」の伸び率が、他のカテゴリと比べて相対的に高まったという。そうなるとランサーズやクラウドワークスなどのクラウドソーシングと事業領域が被ってくるのではないかという疑問が浮かぶ。この点について、ココナラは“EC型”のスキルシェアであることが、クラウドソーシングとは一線を画していると鈴木氏は説明する。

人気のカテゴリや利用シーン
人気のカテゴリや利用シーン
出品されているサービスの一部
出品されているサービスの一部

 クラウドソーシングでは一般的に、クライアント企業が値付けした案件に対してスキル提供者が応募する形だが、ココナラは逆で、スキルを提供する側が「私はこういうことができる、○○円でやる」とサービスを出品する。このため、値付けの決定権は出品者にある。案件を依頼したい購入者がスキルを持つ人を見つけて、双方の意向が折り合えばマッチングするという仕組みが、クラウドソーシングとの大きな違いだと強調する。

 「スキルシェアのAmazonのような、困ったときココナラに行けばすべて揃っていると期待されるプラットフォームになりたい。そのため、プロダクトは複雑に多機能化しやすいが、個人をエンパワーメントするというミッションは変わらない。そこを起点に、僕らはプロダクト開発や組織マネジメントで特徴を生み出している」(鈴木氏)

開発候補リストは「常に300以上」

 同社のプロダクト開発手法はこうだ。「短期」と「中長期」、2つの開発方針ごとに、「短期」では徹底的なユーザードリブン、「中長期」では0→1の発想で、それぞれ機能開発案を検討するという。

 まず、短期のユーザードリブンな機能改善では、四半期ごとのアンケートで何千もの意見を集めて、社員全員が目を通す。さらに、サイトフッター上部のご意見ボックスから、ユーザーがいつでも気軽に要望をチャットで送れるようになっており、Slackを通じてそれらの声が即座に全社員に共有されるという。このほか「Twitterでのココナラのエゴサーチも欠かさない」(鈴木氏)

 また、コロナ以前には毎月ユーザーイベントを自社で開催しており、「こういう働き方、生き方をしている人が、こう思うんだ」と、要望のリアリティを得ていたという。現在はオンラインに切り替えて、月に2回ほど実施しているとのこと。

 中長期の0→1発想での機能開発では、世界中のさまざまなプロダクト、サービス、アプリをとにかく自分たちで触ってみて、それらを参考にしつつ社内のアイデアを組み合わせていくという。ユーザーから要望がなくても、必要だと判断したものは大型アップデートを実行する。3年前にリリースした「見積もり機能」は、これによってビジネス制作系の急増につながった好例だという。

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 同社の機能開発候補リストを管理するスプレッドシートには、常に300以上のリストがあるという。しかも、プロデューサー、エンジニア、デザイナー、カスタマーサポート、イベント運営など、社内のあらゆるポジションから、経営陣や企画職に直接アイデアが持ち込まれるというから驚きだ。

 「型式ばったフローを用意しないと意見が出ないという会社ではない。一見、組織図は職能ごとに細分化され、大企業のような組織体制に見えるが、実際にはその時一番やりたい人、もしくはバリューを出せる人がいろんな人と連携しながら好きにやる」(鈴木氏)

カルチャーブックと同時に「バリュー評価」を導入

 同社の従業員は120名。そのうち3分の1がエンジニアで、次にカスタマーサポートが多い(2020年2月の公開数値)。たとえばエンジニアは、バックエンド、フロントエンド、SRE、とグループは細分化されているが、フロントエンドのメンバーがバックエンドを手がけることなどは日常茶飯事。また、新システム構築では経理担当者がエンジニアと毎日定例を行うこともあるという。

 こうした、業務の幅を臨機応変に変えることに対して、社内では「ちょっと枠をはみ出したチャレンジ」として、称賛する文化が浸透していると鈴木氏は説明する。

 このように、ユーザーファーストかつ変化を楽しめる組織になったのは、1年半前にリリースしたカルチャーブックの存在が大きいという。同社の代表取締役会長である南章行氏ら創業メンバーが大切にしてきた価値観を進化させ、ビジョン、ミッション、バリューを明文化した。特に象徴的なのが、「One Team, for Mission」というバリューの第1項目で、最も大事にしているのは「for Mission」の部分だという。

カルチャーブック
カルチャーブック

 「僕らが何のためにこの会社を存在させているのか、それは『個人をエンパワーメントする』というミッション実現のため。『個人が社会とつながっていくためのお手伝いをする会社である』ということを一番大事にしていて、社内コミュニケーションにおいても採用の評価基準としても最重要視している」(鈴木氏)

 これを日々の業務における行動指針として定着させるため、工夫したのが評価制度だという。カルチャーブックを刷新したのと同時に、四半期ごとの人事考課において「バリュー評価」を導入したのだ。バリュー評価は、成果を数値で表しにくく、評価基準が主観に陥りやすいといった運用の難しさから、当初はCHRO(人事最高責任者)からも「バリューを評価するってタブーですよ、本当にやりますか?」と止められたという。

 それでも導入を決めたと鈴木氏。成果評価を50%、バリュー評価を50%にしたが、このウェイト比率は相当チャレンジングだ。評価項目は、カルチャーブックにあるバリュー9項目。評価基準は、卓越した行動があればプラス、よほど宜しくない振る舞いがあればマイナス、それ以外は±0で評価する。評価の客観性を保てるよう、複数人のマネージャーでクロスチェックをしているとのこと。

カルチャーブックにあるバリュー9項目で評価する
カルチャーブックにあるバリュー9項目で評価する

 「バリュー評価の導入で、それは違うよねということを言いやすくなる。排除する仕組みというより、まだ理解が足りていないメンバーに寄り添ってアドバイスやサポートがしやすくなった。成果を数字で表しにくい職種や、息の長いプロジェクトで成果が出るまで時間がかかる場合にも、バリューという軸でしっかり評価できるようになったので、一定の納得感が生まれているように思う」(鈴木氏)

 日本企業はまだまだ成果評価が一般的だ。この大胆な評価制度を導入する際には社内から反対意見もありそうなものだが、ココナラではもともと同社のミッションやバリューに共感して入社した社員が多いことから、「特に反対意見などは出なかった」(鈴木氏)という。

今後は「4つの拡張」を目指す

 2021年3月には上場も果たし、社会からの期待も変わってくる。今後はどのような展開を描いているか。鈴木氏は大きく4つの方向で「拡張」していきたいと話す。

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 1つ目は「課金手法の拡張」。案件単位だったものが、継続で利用してもらうような形にもしていく。2つ目は「カテゴリの拡張」。ココナラというホリゾンタルなサービスの中で、新たなニーズに対してカテゴリを細分化していくと、「ココナラ法律相談」のような姉妹サイトに発展する可能性もあると話す。

 3つ目は「マッチング手法の拡張」。これまでは1対1のオーダーメイド型だったが、今後はスキルを電子書籍や動画にパッケージ化することで不特定多数にサービスを売っていけるようなマーケットプレイスを作りたいと考えているという。

 最後の4つ目は「サービス提供手法の拡張」だ。出品者と購入者がマッチングした後、本当に満足度の高い納品に至るために、テキストチャット、ビデオチャット、電話などの機能の磨き込みを検討しているという。

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4つの方向で「拡張」していく【出典:株式会社ココナラ「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2021.3.19開示)】

 鈴木氏によれば、ココナラの出品者は、都心のみならず日本全国に広まっているという。一方で購入者はまだ都心が中心という課題がある。「まだまだ小さなマーケットを(他社サービスと)奪い合っている印象はない」と語るように、スキルシェア市場の本格的な成長はこれから。副業を解禁する企業も増える中、どこまでマーケットを拡大できるのか期待したい。

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