タブレット持ち帰りNG、不足する情報科の教員--どうなる「GIGAスクール構想」

 「GIGAスクール構想」によって、児童生徒の1人1台端末が実現しつつある。GIGAスクール構想とは、Society5.0時代を生きる子どもたちが誰1人取り残されることのないよう公正に個別最適化され、創造性を育む学びを実現するため、1人1台端末と学校における高速通信ネットワークを整備する構想を指す。

 すでに配布されたタブレットを自宅に持ち帰ってきたお子さんもいるだろう。しかし、思ったように端末が利用できていない面があるようだ。それだけでなく、情報科に力を入れているが、現場教員が足りていないという話もある。現状の課題と実態について見ていきたい。

配布さえまだの学校、「配布のみ」の学校も

 筆者の子どもは小学6年生だが、まだ端末は配布されていない。学校からは3〜6年生にGW明け以降に配布すること、充電は自宅で行うこと、自宅でWi-Fiを準備しておくよう、知らせがあった程度だ。「パソコンなんて配られてないよ。プログラミング?学校では全然やってない」と言う。

 なお、配布するのは通常学級はタブレット型PC「Chromebook」、特別支援学級はiPadを予定している。Googleのクラウドサービスも利用するとは書いてあるが、「すぐに全部利用できるわけではない」とも明記されており、在学中に何をどこまでできるのかは不明なままだ。

 同様に、「持ち帰り不可のまま。大阪は『オンライン授業の可能性』と言っているのに、休校になっても使えないのでは。オンライン授業のために配布を早めたんじゃなかったの?」「同意書を書いた家庭だけ3学期末に持ち帰ってきている。でもまだ学校に持ってくるよう指示もないし、家庭で使おうにもアカウントが配布されていないので何も使えない。タブレットの意味はあるのだろうか」などの話は多い。

 持ち帰れないだけではない。「クラウドサービスは危険があるのでは」「子どもたちが自由に使ってトラブルに巻き込まれては困る」などと考え、制限がかかりすぎて何も使えない状態の自治体もあるという。

休み時間にYouTubeやTikTokを視聴する子も

 では、すでに自由に使えるところは問題がないかというと、そういうわけではないようだ。

 すでに子どもがタブレットを持って帰ってきて家庭で利用している自治体ももちろんあり、自治体によっての差はとても大きい。宿題もタブレットでやっていたり、これまでプリントで配布していたものもタブレット配布になるという自治体もある。タブレット版のドリルを使い、持ち帰ってきているという話も聞いている。

 ただし、ある学校ではコロナ禍の影響で保護者向けの説明会などもなく、説明書が紙で配られたのみということで、保護者は不安がっていた。「子どもの友だちが、Scratchのアカウントでログインして知らない人のところにコメントしている。大丈夫なのだろうか」とある保護者は言う。

 またある教師から、子どもが休み時間にYouTubeやTikTokを見ていたという話を聞いた。教師が注意しようとしたところ、係活動やクラブ活動の参考になる動画を見ているということだったので、注意はやめたという。「学校では何をどこまで使っていいことにするのか。休み時間には自由でもいいのか。悩みどころだ」という。

不足する「情報科」教員

 大学入試センターは、2025年1月の大学入学共通テストから新教科としてプログラミングを含む「情報」を出題すると発表した。高校の新学習指導要領を踏まえ、現行の6教科30科目から、情報を加えた7教科21科目にスリム化する方針。2021年の夏に文部科学省が正式決定する予定となっている。

 小学校でも2020年度よりプログラミング教育が必修化。小学校では教科化するわけではなく、算数や理科などの既存の教科をプログラミングを通じて学習する。

 中学校では2021年度よりプログラミング教育が全面実施となる。「技術・家庭」の中で取り組むが、学習指導要領にはプログラムの制作、動作の確認およびデバッグなどのほか、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題解決などの記述もあり、技術面にも力をおいていることがわかる。

 高校でも、2022年度からプログラミングを含む「情報 I」が必修化し、情報を活用する能力が求められている。大学入学共通テストへの「情報」の出題は、このような情報教育を重視する傾向を反映させた形だ。

 ところが、情報科の教員はまったく足りていない。朝日新聞の調査では、2021年度までの5年間で情報科教員の採用がゼロの自治体は8県に上るという。国の調査では、公立高校で情報科を教える教員の2割以上が専門の免許を持っていないという話もある。情報科の単位数が週2コマと少ないため、情報科の教員を採用するのは難しく、他教科の教員が情報も教えるか、情報科の教員が他の教科も教える必要があるという実態があるようだ。

 2016年6月に発表された経済産業省の調査によると、IT系人材は90万人に対して約17万人不足しており、さらに不足数は拡大する見込みとなっている。将来的なIT系人材となることが期待される子どもたちへのIT教育に力を入れたい考えはわかるが、まだまだ実態が伴っていないようだ。

 今の教員は情報教育を受けていない世代がほとんどだ。人材や使いやすい教材などをそろえなければ、現場に丸投げではせっかくの端末も活用が難しい。情報科だけ用意しても、専門の教員がいないことで十分な指導ができない可能性もある。今後、明らかになってきた課題が解決されていくことに期待したい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/

Twitter:@akiakatsuki

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