会社やサービスを立ち上げた時、その内容を伝えるため必要になる企画書。その中にはどういった情報が盛り込まれ、どんな思いが詰め込まれているのか。ここでは、数多くのプレゼンをこなす起業家、ビジネスパーソンらが手掛けた企画書の中身を公開。企画書を作る上でのこだわりや気をつけていること、アイデアなどを紹介する。
今回は、家具、家電のサブスクリプションサービスを手掛ける「CLAS(クラス)」が取り扱う個室型フォンブース「Kolo」の導入先向け営業資料を紹介する。すでに取り扱いを始めていたKoloだが、CLASでは10月以降に営業資料を見直し、新たな切り口で導入先に案内することで、大きな需要増に結びついているという。「営業ツール」として、企画書が果たす役割とは何か、多くの人に機能、性能を伝えるためにどういった点に気をつけているのか、などをCLAS 事業開発チーム法人営業マネージャーの塚本將二朗氏と事業開発チームで制作を担当する廣瀬遙氏に聞いた。
Koloは、パーソナルスペースを確保できる個室型フォンブース。ほかの人の話し声が聞こえて会議に参加しづらい、機密性の高い電話をする必要がある、などのオフィスでの困りごとを解決する設備として注目を集めている。新型コロナ感染対策により、オンライン会議が急増したことも受け、引き合いは多い。
CLASでは、2020年7月にKoloの取り扱いを開始。購入すると1台につき100~150万円程度かかる個室型フォンブースをサブスクリプションで取り扱うことで、月額2万9000円~と初期費用を抑えて導入できる。
2020年10月にCLASに入社した塚本氏は、入社後すぐにKoloの営業用企画書の手直しに着手。「元々使っていた企画書は、A4サイズで2ページ程度にまとめられたシンプルなもの。商品の機能と説明、金額が書かれたのみだった。実際の使い勝手や、導入によるメリットなどは、営業担当者がそれぞれ口頭で説明していた」(塚本氏)状態だったという。
こうした営業スタイルは、営業担当者の力量に頼るところが大きい。「企画書を作り変えた後は、順番通りに説明すれば、Koloの特徴や導入するまでの流れ、導入することで企業の抱えている課題がどのように解決されるのか、社員の方にどんなメリットをもたらすのかといったことがすべて伝わるように設計している」(塚本氏)と話す通り、もう1人の営業担当者として役割を果たす。
2ページだった企画書は、13ページへと増量。その際、骨子と文章周りを塚本氏が担当し、廣瀬氏はビジュアルに落とし込むという2人体制で作り上げたという。
個室型フォンブースは新型コロナの影響もあり、類似商品も多数存在している。塚本氏は骨子を作る上で類似商品のウェブサイトやカタログなどを徹底的に研究。すると、1対1の面談に使ったり、集中して仕事をするためのスペース確保のためのアイテムとして打ち出されているケースが多かったという。
「実際に自分がどうKoloを使いたいか、と考えた時に集中スペースというよりも、今だったらオンライン商談に使うだろうなと。なぜなら、現在のオフィス環境でオンライン商談ができるスペースは限られているから。それは会議室が足りないということの裏返し。ここが企画書の主軸だろうと考え、まとめていった」(塚本氏)と、自らの気づきを企画書に落とし込む。
「この企画書は法人営業の資料なので、課題解決に結びつくことが大前提。お客様の困りごとに対して、どういうソリューションを提供できるか、それを合理的に説明できなければ、刺さる企画書にはならないと思った。オンライン商談ができる場所が少なく困っているのは営業職の最前線にいる人たち。この企画書を見た時に、使う人が共感してくれると思った」(塚本氏)と話す。
しかし、法人営業の多くは、使う人(Koloの場合は営業担当者など)と決済権を持つ人(同総務部など)が異なる。そのため、オンライン商談に使えるという具体性を打ち出す一方で、Koloとはどんなものか、どんなメリットをもたらすのかをわかりやすく伝えなければならない。
Koloの企画書では、2ページめに4つの課題解決に伝わる事例を挙げた上で、次ページでは「提供価値」と「導入用途」を3つずつ説明。いずれも文字数を抑え、伝わりやすさを優先する。
この際、サブスクリプションというCLASならではのサービス形態についての説明も入れ込む。「営業担当者から口頭でも説明するが、きちんとサブスクリプションの中身まで理解していただくことはまだ難しい。初期コストの削減や使って試せるというメリットをお伝えすると同時に、Koloであれば、配送料がかかるという月額料金以外に必要な経費も企画書にもれなく落とし込んでおく必要がある。そうすることで、間違いが起こらないようにしている」(廣瀬氏)と、必要な情報を過不足なく盛り込むことで、営業ツールとしての役割を果たす。
塚本氏は「サブスクリプションは初期コストが低くなるだけではなく、使って試したり、不要になった時点で返却できたりと、リースとは異なるメリットがある。こうしたサブスクリプションがもたらす経営的なインパクトについて、きちんと入れ込むことを気をつけている。また『不要になった』『壊れた』など、導入計画中はなかなか思い至らない、導入後の困りごとを先回りして、記載しておくと成約率も変わってくる」と、営業担当者が見落としがちな部分を企画書で補う。
2人体制で仕上げたKoloの企画書は、塚本氏が全体の構成や文字周りを手掛け、廣瀬氏がPowerPointでデザインするという共同作業。「構成案をもらったときに、入れたほうが良い要素やページの並び順などは2人で話し合い、ある程度できあがった段階で、営業担当者に見てもらい、意見をもらう。こうしたものは頭数が多いほうがいいものができるので、意見をたくさんもらえるようにすることが大事。ただ、テキストベースだとイメージがしづらく、意見が出にくいこともあるので、ある程度形になってから見てもらい、ブラッシュアップしていった」(廣瀬氏)と、独自の方法で作り上げた。
塚本氏が構成案を考える時は、すべて手書きでアイデア出しをしていくとのこと。その後、箇条書きにして、廣瀬氏と情報を共有。メインコピーや要素の配置など、イメージをすり合わせていくという。「情報を共有したり、話し合いながら作るため、デザインしていったあとも齟齬はあまり生じない」と2人は声をそろえる。
実は、塚本氏と廣瀬氏の2人体制で企画書を作成したのは、Koloが初めて。社内でも好評だったため、現在、そのほかの企画書も2人で見直しを進めている。
「単なる企画書と思いがちだが、本当に作り方1つで変わってくる。同じ製品を扱っても表現の仕方を変えることで、結果が如実に変わる。実際、Koloも企画書をリニューアルしたことで結果が出ている」と塚本氏は、表現の重要性を話す。
一方、ビジュアル面を担当する廣瀬氏は「できるだけ簡素化すること」を心がける。「一番大切なのは、誰が見てもわかるものであること。言い回しや文字量はもちろん、色味もパッと見た時に理解できる使い方、デザインに気をつけている。そうすることで、資料が独り歩きしてもKoloの良さが伝わり、成約率は左右されない」という。
企画書内で使用するビジュアルは、Koloを販売する関家具のオフィシャル素材。「洗練された画像だったので、そのまま使用させていただいた。企画書内におけるビジュアルの役割は、文字の力を助力すること。例えば、ユーザーのペインポイントのイメージに晴れやかな画像を使うとちぐはぐになる。そういう場合は単純だけれど困った顔を入れると連想しやすくなる。そうした気持ちに沿ったイメージを使うことが大切」と気を配る。
さらに「CLASは今ある課題に対する解決を提示することがサービス内容。法人営業でもその部分が第一と考えるので、できるだけイメージを固めすぎないよう、抽象的な画像を選ぶようにしている。インパクトの強い画像は、意識がそちらに向いてしまったりするので、一部だけ使ったり、切り抜いたりと強くなりすぎないように工夫している」(廣瀬氏)と細心の注意を払う。
前職は廣瀬氏が制作代理店、塚本氏は新聞社勤務と、その道のプロフェッショナル。塚本氏は「テキスト部分を校正するときは、すべて音読している。読み上げてみて、一息で読めない部分や一読で意味が取りにくい部分を見直す。リズムよく読めるように句読点の位置をわざとずらしたり、体言止めを使ったり、同じ言い回しが連続しないようにしたりと、とにかく細部にこだわる。また、全体的に文字量は多めに書いて、そこから削るようにしている。少ないのを増やすより、多いところから削る方が楽なので」(塚本氏)と細かく配慮する。
廣瀬氏も「テキストだけでも企画書は作れる。しかし画像やアイコンなどビジュアルあるが加わることで、理解力が早まったり、深まったりするはず。また、全体を通しては、CLASという会社らしさを出すように気をつけている。会社のキーカラーであるネイビーをベースに、軽やかさ、自由な雰囲気が出るようなイメージに仕上げた」と、ビジュアル面からも完成度を高める。
制作期間は約2週間程度。第1弾として制作したため、現在は半分程度の日数で完成できるほど、スピード力が上がっているとのこと。
2人で作るメリットについては「作業を分担できるところ。構成案からスライドデザインまで1人でて手掛けると時間もかかる。今回はお互いの強みに特化できたので、うまく補いあえたと思う」(塚本氏)とのこと。廣瀬氏も「時間や作業量だけ見ても1人で作るのは大変。ただそれ以上にメリットと感じるは、1人で考えると偏りが出るが、2人で作ると、一つの目標に向かいながら違う意見を出し合えるところ。何かを作るときはどうしても思い込みが強くなってしまいがちだが、相手がいることがそこにストップがかけられる。それは大変助かる」と続ける。
「現在の企画書はある意味プロトタイプで完成ではない。今後も内容はアップデートしていく。世の中が変わるとソリューションも変わる。それに応じて企画書も変わる。常にアップデートしていくのが良い状態」(塚本氏)と、営業ツールとしての企画書は、常に更新されていくとした。
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