神戸大学とNTTドコモは、医療用ロボットを開発するメディカロイドの国産初の手術支援ロボット「hinotori サージカル ロボットシステム(以下、ヒノトリ)」を、商用5Gで遠隔操作する世界初の実証実験を開始したことを発表した。
ネットワークを介して離れた場所から手術支援ロボットを操作する技術を実現することで、医療現場の課題とされている外科医不足や地域格差を解消し、熟練医が若手を指導、サポートするなど医療の均てん化につなげる狙いがある。4月16日に神戸大学で行われた記者発表会には、実証実験に参画する関係者と神戸市長の久元喜造氏が出席した。
この実験は、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」として採択された、神戸市の「神戸未来医療構想」の枠組みにより、産官学連携で運営されている。神戸市ポートアイランドの神戸医療産業都市にある、神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センター(以下、ICCRC)内に立ち上げられた、最先端のネットワーク環境や医療機器を設置した実証実験施設「プレシジョン・テレサージェリーセンター」と、隣接する総合型研究開発・創出拠点(以下、MeDIP)内に設けられた高度医療対応型手術室を5G回線で結び、遠隔操作に必要な高精細な手術映像(3D)とロボットの制御信号をリアルタイムに伝送し、模擬手術を行う実証実験を成功させている。
手術支援ロボットのヒノトリは2015年から5年の歳月をかけて開発され、2020年8月に国産では初めて製造販売承認を取得している。同年12月にICCRCで藤澤氏が執刀医を担当した一例目の手術を成功させている。「オペレーションユニット」「サージョンコックピット」「ビジョンユニット」の3ユニットで構成され、基本機能としてネットワーク対応のIoTシステムを装備しているのが特徴だ。
実証実験では、ICCRC側に設置した「オペレーションユニット」を「ビジョンユニット」を使いながら執刀医が操作し、MeDIP側にセットアップされた「オペレーションユニット」で患者を想定した腹部の人体モデルを手術するシミュレーションが行われた。
ネットワークはドコモの商用5Gとクラウドサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」「クラウドダイレクト」を使用している。施設内に設置された商用5Gアンテナから5Gデバイスを通じてヒノトリに接続し、大容量の高精細度画像を遅延なく伝達し、ロボットを通常と同じように操作できるか確認した。手術を担当したICCRC副センター長 特命教授の山口雷藏氏は、「外科手術の基本操作である縫合、切除、剥離といった動作が遅延なくスムーズに行えた」とコメントした。
プロジェクトとしては今後も引き続き、条件を変えながら少なくとも6〜7回は実証実験が行われる予定だ。実用化には動物実験など生体モデルを使う実験もクリアしなければならないが、他にも回線のゆらぎやセキュリティ対応といったネットワークの課題、手術の方法といったロボット側の課題、さらに法的整備も必要である。「実用化に必要な課題の抽出も含めて実験を行える施設はここだけしかなく、社会動向も見ながら実用化を進めたい」(藤澤氏)
現在、世界では米インテュイティブサージカルの手術支援医療ロボット「ダヴィンチ」がトップシェアだが、ネットワーク対応の強化でヒノトリがそこに迫る可能性はある。浅野氏も「ビジネスチャンスとして途上国などのグローバル展開も視野に入れている」と述べる。
また、メディカロイドは全自動PCR検査ロボットシステムの開発にも取り組んでおり、まもなく運用されることが期待されている。久元市長は「世界初の商用5Gを利用した遠隔手術の挑戦は大変意義があり、神戸未来医療構想を進化させるためにさらに力強くプロジェクトを進めていく」としており、今後の動向に注目したいところだ。
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