インディーゲームの世界進出を後押し--マーベラスが開発者支援プログラムに取り組む狙い

 マーベラスが取り組む、ゲーム専門オンラインインキュベーションプログラム「iGi indie Game incubator」(iGi)。国内では初めてとなるこの施策について、発足の経緯や国内外におけるインディーゲーム事情など、プロジェクトの主催であるマーベラスの山崎マイク晴樹氏、運営協力として携わるヘッドハイの一條貴彰氏ならびに、ルーディムスの佐藤翔氏に聞いた。

 iGiは、スペイン・バルセロナのインキュベーションプログラム「GameBCN」の監修のもとで実施するオンラインのインキュベーションプログラム。「天穂のサクナヒメ」を開発した「えーでるわいす」など、国内外で活躍してきたインディーゲーム開発者や、ゲームに精通した各分野の専門家がメンターを担当。日本のインディーゲーム開発者をさまざまな側面からサポートする。

「iGi indie Game incubator」公式サイトより
「iGi indie Game incubator」公式サイトより

 プログラムへの参加費は無料で、6月から11月までの半年間の開催を予定。募集対象は5チーム(個人・法人問わず)。応募の受付は3月15日から開始されており、締め切りは4月18日23時59分までとなっている。その他詳細は公式サイトに記載されている。

 山崎氏は2019年にマーベラスに入社し、海外事業推進室に在籍。海外法人を通じてインディーゲームの開発投資などを担当しており、GameBCNにもメンターとして参加している。一條氏は、これまでインディーゲーム向けビジネス専門のコンサルティングを手掛け、それを独立して事業化。自身もゲームクリエーターとして活動し、「Back in 1995」などを手掛けている。佐藤氏は長年ゲームアナリストとして活動しており、近年ではヨルダンのゲーム業界団体で勤務した経験もあり、新興国のゲーム産業にも精通している。

「今まで無かったの?」と驚かれた

――このプログラムの日本展開について、きっかけや経緯を教えてください。

山崎氏:私がさまざまな海外の商談会に参加したなかでGameBCNの存在を知り、さらに優秀なチームはGameBCNの出身であることが多かったのです。Marvelous Europeとしても、インディーゲームに対する投資を行っていく事業展開があり、GameBCNのスポンサーをして関わることになりました。そして私もメンターとして参加するなかで、有意義なプログラムと感じたのと同時に、日本にはこのようなプログラムが無かったので、日本でも展開したいと。そこで旧知の仲である佐藤さんに相談しました。

マーベラス 海外事業推進室の山崎マイク晴樹氏
マーベラス 海外事業推進室の山崎マイク晴樹氏

佐藤氏:私はここ何年か、新興国や東南アジアのゲーム事情について調べたり、現地でクリエーターとの交流もしていました。それで3、4年ぐらい前に、マレーシアを中心とした東南アジアのインディーゲームクリエーターを対象とした「GameFounders Asia」にメンターとして参加したことがあったんです。

 当時マレーシアは、日本のゲームの一部を外注先として引き受けるような会社はあったものの、自社のゲームを発信していくという雰囲気は乏しく、インディーゲームについても、プログラムに参加していたチームを見て不安を感じるところもあったのですが、3~4カ月トレーニングすると見違えるように変わったんです。ここ最近、マレーシアやインドネシアなど東南アジアのインディーゲームに、非常に優れたタイトルが出ていて、世界の賞を取るような状況もあります。それは個々の努力は前提にしつつも、きちんとサポートするインキュベーションプログラムがあったからこそ、成長があったと多々感じていました。

 私としても、こうした取り組みをしたいと思ったところで、ルーディムスを起業したタイミング(2020年9月)で山崎さんに相談されました。そして、日本のインディーゲームに知見がある一條さんにお声がけしました。

​ルーディムス ファウンダー・CEOの佐藤翔氏
ルーディムス ファウンダー・CEOの佐藤翔氏

一條氏:私もインディーゲーム向けのコンサルティングを長く手掛けてきたというのもありますが、ひとりのクリエーターとして活動しているなかで、諸外国のイベントに出展したりクリエーターと交流すると、産学官連携でゲーム産業を育てる流れがあって、実際にクオリティの高いゲームが出ているのも間近で見ていました。それで日本でもインキュベーションプログラムがあったほうがいいと思ったところで、佐藤さんからお話をいただいたのが、参加した経緯になります。

ヘッドハイ 代表取締役の一條貴彰氏
ヘッドハイ 代表取締役の一條貴彰氏

――なぜ日本には、これまでインディーゲームに対してのインキュベーションプログラムがなかったのでしょうか。

山崎氏:明確にひとつの要因があるというよりは、いくつかのことが重なってできていなかったようにも思います。

佐藤氏:私が思うところでは、ゲーム会社やゲームイベント、行政も含めてインディーゲームへの知識が十分ではなかった側面があるように感じます。また、事業として展開する大手ゲームメーカーのゲーム制作と、個人や小規模のゲーム制作では溝のようなものがあるというぐらいに、交流などがあまり行われていないこともあったようにも思います。

一條氏:国内において、同人イベントなどで小規模チームがゲームを出展して、面白いゲームもあるのですが、産業として支援する流れは今まで少なかったです。要因としてハッキリとしたものではないですが、かつてはゲーム開発技術が機密情報でスタッフも偽名だった時代もあったり、また日本では副業がしにくいサラリーマン社会であるとか、そういったものが複合してあるような気もします。

山崎氏:日本と海外との、教育方針の違いもあるように思います。日本は、大手企業に就職する、そこに入ることで自身も親も安心するところがあります。また、それが専門学校としてのKPIにもなってます。海外では必ずしもそこが目的ではないですから。

佐藤氏:米国や英国の投資家と話をしたとき、日本でのインキュベーションプログラムについて「今まで無かったの?」と驚かれます。大手のプラットフォーマーやゲームパブリッシャーは、インディーゲームの開発者をサポートするのが自然なことというのが諸外国での考え方ですし、会社に入って独立してゲームを作るという流れもできています。また、それが成り立っていない国であっても、英語ができればその国に行ってプログラムを受けることができます。でも、日本人が外国に行ってプログラムを受けることは敷居が高い。インディーゲーム開発やクリエーター開発支援があっても、日本では見えにくく、手の届きにくいものになっているのもあると思います。

山崎氏:iGiを通じて、日本発でクリエーターが発信していくことで、インディークリエーターの育成がゲーム産業の発展にとって重要なものであることを広めていきたいという想いがあります。

――メンターにはどのような方が参加されているのでしょうか。

山崎氏:メンターについては、おおむね開発関係とビジネス関係の方になります。

一條氏:開発関係は私のほうでお声がけしました。基本的には個人・小規模でゲームを作って、一定の実績を収めている方を中心としています。みなさん同じように問題意識を抱えていたところがあって、今回参加していただいたえーでるわいすのなるさんは、かつて同人ゲームにおける横の繋がりがあったほうがいいと、自主的に勉強会を行っていたこともあったんです。でも最近はそれがなくなっていて。この活動を通じて再開できればと考えております。

公式サイトより。「天穂のサクナヒメ」を開発した「えーでるわいす」のなる氏とこいち氏がメンターとして参加している
公式サイトより。「天穂のサクナヒメ」を開発した「えーでるわいす」のなる氏とこいち氏がメンターとして参加している

佐藤氏: ビジネス関係は私のほうでお話をさせていただきました。主にバックオフィスやローカライズの専門家に参加していただいています。これまでもさまざまな形でインディーゲームのサポートをしてきた方々なので知見は豊富ですし、よりオフィシャルな立場でサポートできるということで、みなさん前向きなお返事をいただきました。

山崎氏:GameBCNをそのまま日本に持ってくるのではなく、いかに日本のクリエーターに対して、かゆいところに手が届くと言えるような体制を作ることが大事です。国内のインディーゲームコミュニティと関係の深い方々が参加していただいていることは、プログラムの成功に直結しますので。また、マーベラスが「天穂のサクナヒメ」をパブリッシングしている以上、えーでるわいすのなるさんとこいちさんがプログラムに参加していただけるのはとても嬉しいです。

佐藤氏:メンターについては、サイトに掲載している方々が全てではありませんし、要望があれば、その課題解決に適した方をお声がけすることも考えています。

――iGiでは、後援として神戸市の名前もありますが、自治体が参画するのは珍しいと感じています。

山崎氏: GameBCNはNPO法人として活動してまして、カタルーニャ州やバルセロナ市がサポートをしています。GameBCNのフォーマットを日本で展開するにあたっては、産学官連携を日本でも構築したいと考えていました。そこで、バルセロナ市と姉妹都市の関係である神戸市をカタルーニャ州から紹介していただきました。両市は姉妹都市連携を積極的に行われていることもあり、ご賛同をいただきました。インディーゲームをオフィシャルにサポートする仕組みを構築するうえで、自治体が後援していただく意味合いは、非常に大きいです。具体的なサポート内容としては調整中ですが、産学官連携をより強めて、より継続してやっていきたいと考えています。

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