仮想現実(VR)は多様なトレーニングで活用されている。例えば、大手スーパーWalmartの店員を特売日の混雑に備えさせることから、医学生に患者の診察方法を教えることなどだ。では、他人の感情的な苦痛を見極めて対応し、自殺を防ぐためにVRを活用することはできるだろうか。
それが、トラビス空軍基地で米国防総省が実施している自殺防止トレーニングの試験運用における野心的な目標だ。この基地では最近、第60航空機動航空団がVRによる自殺防止トレーニングの試験運用に参加した。
トラビス空軍基地の発表によると、トレーニングの参加者はVRヘッドセットを装着し、仮想空間にいる明らかに感情的な苦痛を抱えている仮想の人物と対話する。参加者はその人物に適切な質問をし、助けを求めるよう促す。参加者が相手を助ける機会を逃したり不適切なことを言ったりすると、トレーニングコーチが割って入り、サポートする。
VRや複合現実(MR)によるトレーニングは、数年前にもてはやされた後、予想より冷やかに捉えられているこの技術にとって、明るい材料だ。VRトレーニングは、追加のリソースを必要とせず、何度でも実行できるし、リアルな環境では実現できないシナリオに簡単に対応できる。また、トレーニング参加者を潜在的な危険から守ることもできる。
自殺防止トレーニングのような活用例では、講座や教科書では型通りに感じられがちな状況設定でも、VRではうまく行けばある程度の感情的なリアリティを吹き込むことができる。
「声は、われわれが互いにコミュニケーションを取り、問題を解決し、感情的なつながりを構築するための最も基本的な手段だ」と、このVRトレーニングを開発したMoth + Flameの創業者で最高経営責任者(CEO)のKevin Cornish氏は語る。「声を出してトレーニングを進めることは、シミュレーション環境でのロールプレイの可能性を開く。このトレーニングで訓練するのは会話スキルであるため、学習者に会話させ、理解させることがトレーニングの中心だ。学習者に実際に声を出させるシナリオは、頭の中で答えを考え、紙に書かれた複数の選択肢から1つを選んで丸を付けるよりもはるかに大きなインパクトを与える」
トラビス空軍基地から契約を獲得した後、Moth + Flameは、兵士とその配偶者が仮想環境の中で、苦しんでいる仲間の兵士と対話するという自殺防止モジュールを開発した。
Cornish氏はメールで次のように述べた。「シミュレーション環境でのトレーニングは、現実世界の状況を模倣し、現実世界で再現するのは難しい会話をする自信を学習者に与えることができる。従来の、動画やパワーポイントのスライドによるトレーニングプログラムでは、学習者はリアルな設定での会話スキルの訓練はできない。かといって、専門家との1対1のロールプレイは高く付き、例えば空軍の兵士全員に受けさせられるものではない。VRなら、その両方の長所を提供できる」
感情的な苦痛を特定することが目的のプログラムは当然、ハイリスクだ。興味深いことに、Moth + Flameはエンターテインメント分野での経験を生かして、リアルで魅力的なトレーニングプログラムを作成した。
「Moth + Flameはこれまで、NetflixやAmazon、Googleなどの世界的なブランド向けにエンターテインメント体験を生み出してきた。視覚効果は常に、当社のユーザー体験を他のVRシミュレーションより優れたものにするための要となってきた。当社は写真のようにリアルな映像を使うことで、あたかも現実世界にいるかのように感じさせる。当社は空軍と協力し、空軍兵士にとっての体験を十分にシミュレーションするトレーニングの台本を書き上げた」(Cornish氏)
トラビス空軍基地での試験運用は、近い将来さらに広範な実装につなげるためのテストケースだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」