地方の街をつなぐ「常時接続リモートワーク」で働くを再定義--EBILABの伊勢&沖縄リーダーに聞く

 「田舎(地方)は、不便で、人がいなくて、ダサい。そう思っている経営者の方、東京の方の常識をガラッと変えたい」ーーこう話すのは、日本屈指のDX企業として知られる伊勢の老舗「ゑびや」の小田島春樹氏。同社は、飲食、小売、テイクアウト、さまざまな商業施設を運営しており、AIを中心としたテクノロジーを積極的に採用・開発して、業績と生産性を向上させてきた。さらには、そのノウハウをEBILABとして分社化、沖縄市コザにEBILAB Okinawa Innovation Labを設立した。

 2月に1カ月にわたり開催されたオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2021」において、2月9日には伊勢と沖縄にオフィスを構えるゑびやが、「『地方ではたらく』を再定義~“街”と“街”をつなぎ輝かすEBILABが掲げるニューノーマル~」と題して講演。伊勢からは代表取締役社長の小田島春樹氏が、沖縄からは最高戦略責任者/最高技術責任者/エバンジェリストの常盤木龍治氏が登壇し、街と街をつなぎ、誰もが働きたいところで働ける仕組みづくり成功の秘訣を明かした。

ゑびや・EBILAB 代表取締役社長 小田島春樹氏(左下)と、最高戦略責任者/最高技術責任者/エバンジェリスト 常盤木龍治氏(右下)
ゑびや・EBILAB 代表取締役社長 小田島春樹氏(左上)と、最高戦略責任者/最高技術責任者/エバンジェリスト 常盤木龍治氏(右下)

 小田島氏は北海道出身で、「妻の実家の飲食店を、デジタル活用して再建する」ために9年前に東京から伊勢に移住した。データ分析やテクノロジーを活用した事業や店舗実装は「特に好きな分野」だという。一方の常盤木氏は、IT業界19年のベテラン。「ユーザー企業にテクノロジーが溶けていく」という小田島氏の思想に共感し、同社にジョインしたという。現在は沖縄市コザで働いている。

小田島氏の紹介スライド
小田島氏の紹介スライド
常盤木氏の紹介スライド
常盤木氏の紹介スライド

 冒頭、小田島氏は「『街と街をつなぎ輝かすEBILABが掲げるニューノーマル』と題して、僕たちがどのように働いて、どのように仕事をしているかを、お話したい」と挨拶した。

地方の「街と街をつなぐ」働き方

 老舗ゑびやが店舗を構えるのは、伊勢神宮の参道。人口12万人の街で、さまざまなテクノロジーやデータを活用し、小売店、飲食店の運営、システム開発、商品開発を手がけている。そして、そのノウハウを外販するのがEBILABだ。

 「店舗をよりよくするためのシステムを、自分たちのために開発した。これを多くの飲食業、小売業の方々にも提供するため、EBILABという会社を作り、来客予測、POS分析など、店舗運営に関わるさまざまなデータのサービスを提供している」(小田島氏)

 EBILABのメインサービスは、「TOUCH POINT BI」という飲食・小売店特化型店舗分析ツールだ。売上、客数、顧客属性、マーケットシェアやウェブの口コミなど、店舗のさまざまな状況を可視化できる。小田島氏は「いわば、企業向け健康診断ツール。データを蓄積すれば、売れる商品の見極めや日々の事務作業の軽減、データ経営による収益アップが可能になる」と説明した。

ゑびやの事業概要
ゑびやの事業概要
「TOUCH POINT BI」
「TOUCH POINT BI」

 そんなEBILAB自身の働き方は斬新だ。オフィスは伊勢市と沖縄市、ともに人口が十数万人規模の街中にある。飲食小売業がある“ど真ん中”ゆえに、課題が常に目の前にあるため、「エンジニア自身が、常に変わり続ける状況や課題を知り、ユーザー導入支援なども自らこなすマルチロールで動くことができる」という。

 そして伊勢と沖縄は、インターネットで“常時接続”されている。常につながっていることで、誰が何をやっているのか、雑談も含めて話ができる。「距離を感じさせないでコラボレーションしながら物事を作っていく。でも、目の前には飲食小売業がある“ど真ん中”。これはやっぱりポイント」(常盤木氏)

 「伊勢も沖縄も、楽しいから、住みたいからここにいる」と小田島氏はいう。沖縄市コザのオフィスは軍事基地である嘉手納飛行場のお膝元で、飲食店が立ち並ぶほか、スタートアップ支援施設や、日本中からエンジニアやデザイナーが集積しているエリアだという。伊勢市のオフィスは、裏にまわれば徒歩30秒で五十鈴川の河原に出る、自然豊かな場所。川上には伊勢神宮の内宮が鎮座する澄んだ川辺で、Wi-Fiに接続して仕事したり、ランチタイムには満開の桜を愉しむこともあるという。

沖縄オフィスの様子
沖縄オフィスの様子
伊勢事務所の周辺環境
伊勢事務所の周辺環境

 EBILABの働き方は基本的に、地方の街と街をつないだ「常時リモートワーク」。売上や店舗の状況データは、どこにいても見られる。必要な物はAmazonとモノタロウですべて揃うため不便もない。満員電車のストレスに悩まされることもない。ウェブ会議上で従業員の勉強会も活発に開ける。毎朝の合同朝礼も欠かさないという。「伊勢神宮のおかげで僕らは仕事ができているので、“おかげさま”という伊勢の基本的な考えに対する敬意を忘れないようにしている」(常盤木氏)という。

 小田島氏は、「コロナに関わらず、これは僕らが3~4年前からずっとやっているスタイル。沖縄、伊勢、東京、名古屋、いろいろな地域の人たちがつながって仕事をすることが、テクノロジーの力によって当たり前のようにできる時代になった。親がいるとか、自分の地元だとか、いろいろな事情があっても、住みたい場所で働けるということを、僕らはその当たり前を使って成功した」と話した。

合同朝礼の様子
合同朝礼の様子
データリアルタイム把握の様子
データリアルタイム把握の様子
メンバー各自の拠点は国内外に広がる
メンバー各自の拠点は国内外に広がる

「常時リモート」を成功に導く施策

 次に小田島氏は、自社従業員のタスクマネージャーが作成したという資料を使って、地方で働くための具体的な施策と結果を紹介した。彼女は北海道出身で、ボツワナ、福岡、伊勢と、国をまたいで地方を渡り歩いてきた経歴を持ち、「いろいろと状況や働く場所が変わってきた中でも、EBILABはとても働きやすい」と評価しているそうだ。

 その評価ポイントは、やはり「常時接続のリモートワーク」。紐解くと、リモート前提で、オフィスの大画面にみんなの働く様子やデータを表示したり、マイクを設置するなど物理的な工夫もさることながら、さまざまなテクノロジーの活用が散りばめられている。

「常時リモートワーク」の様子
「常時リモートワーク」の様子

 ひとつはコミュニケーションツールを活用した情報の一元管理だ。「Microsoft Teams」を活用して雑談もデジタル化し、スケジュール管理、各部署のコミュニケーション、売上、日報、すべての情報が分散せず、1カ所にまとめられていることで、どこにいても働きやすさを感じるという。

 常盤木氏は「1to1のダイレクトメールを、基本的に僕らは禁止していて、オープンなチャネルで議論されることによって、他の部門の人やどういう仕事が発生したのかを、途中からジョインした方も分かるような工夫をしている」と補足した。

Microsoft Teamsの活用
Microsoft Teamsの活用

 もうひとつはワークマネジメントツール「Asana」を活用した全タスクの見える化。誰が何をどのくらいやっているのか、全タスクを管理して、エリアを問わず全員でタスク分散と調整をしながら仕事をしているのだという。

 「仕事は、上司や先輩など、誰かからお願いされるものだと捉えがちだが、僕らは全部タスク管理して、タスクと量に応じて『いまこの人やばいよね、助けよう』みたいな感じで仕事をしている。そうなると、沖縄だろうが伊勢だろうが、東京で働こうが、全然関係ない」(小田島氏)

 前出の従業員は、「こうした環境が整っているからこそ、社員ひとりひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を、自分たち自身で選択して、家であろうが、オフィスであろうが、子どもを預けるところであろうが、どこでも働くことができる」と話しているという。

asanaでのタスク管理
asanaでのタスク管理
状況の可視化と共有
状況の可視化と共有

 小田島氏は、「こうなると良い時も悪い時も、どこにいても、すぐに分かる。結果、進捗報告もしない、営業会議もしない、社内の会議資料なんか作らない、ダイレクトメッセージもしなくなる」と話し、社内コミュニケーションについてこのように強調した。

 「このダイレクトメッセージをしないことは、結構大事なポイントだと思っている。仕事においては、常に可視化していく。この壁を取り除けないイコール、物理的な近さがないと心配だという話になるんじゃないかと僕は思っていて、テクノロジーの進化によって物理的なところでコミュニケーションを取らなくても、本当にきれいに仕事が回るようになれば、地方でちゃんと勝てると思う」(小田島氏)

 常盤木氏も、「できないことをできない人に期待しないことも大切。信頼と信用をごちゃ混ぜにしないで、進捗をきちんと見ておき、進んでいなかったら他の人に渡すということを抵抗感なくやる。これを丁寧にやっていく」と話し、タスク管理において「人を追い詰めない大切さ」を説いた。

純利益の30〜40%を賞与として還元
純利益の30〜40%を賞与として還元

 さまざまな施策の結果もついてきている。生産性向上、利益率向上によって、「店舗メンバーに、東京で働いている以上に高いお給料をお渡しすることが可能になった」と小田島氏はいう。また純利益の30~40%を賞与として還元しているという。「地方ではたらくイコール貧しい、給料が低い」という課題は、解消できると訴えた。

 「地方において唯一生き残るのは、地方で変化ができること。地域の中で自分たちは変われると信じて変わるものだけが、地域を楽しく、カッコよく、便利にし、生き残れる、もしくは仕事ができるのではないかと考えている」(小田島氏)

「ここに住みたい、ここで働きたい」を起点に

 講演後は、小田島氏、常盤木氏とCNET Japan編集長の藤井が対談し「地方ではたらく」を多角的に掘り下げた。

——ゑびやでは3~4年前から「常時リモートワーク」を体現してきたそうですが、コロナ禍の影響はなかったのでしょうか。

常盤木氏:なかったどころか、従来はFace to Faceのコミュニケーションが多かった飲食業や小売業の方々も、外的要因によってオンラインにシフトしたため、僕らとしては販管費を大きく削減できましたし、より多くの企業さんを支援できるようになったので、EBILABのビジネスに関しては後押しになったという側面もあります。

——食堂の方のゑびやはいかがでしたか。

小田島氏:食堂の方は、正直厳しいです。商売としての体をなしていないような状況だと思います。街を歩くお客様の人数は、前年比で約65%減っています。売上は57%減少しました。ちょっとだけ皆さんにお伝えしたいのが、飲食店よりもっと大変なのは観光地のお土産屋さんです。売上は約8割減少していますが、特に支援などがないのが観光地ビジネスの現状です。

質疑に合わせて分析ツールのデータを表示し説明する小田島氏
質疑に合わせて分析ツールのデータを表示し説明する小田島氏

——御社の場合は、店舗ビジネス1本に絞っていないことで、そのダメージをカバーできているのでしょうか。

小田島氏:実は伊勢で商売を9年前に始めた時からずっと、南海トラフを恐れていたんですよ。ここでビジネスをしていたら、いつか大変なことが起きるかもしれないから、リスクヘッジをしなければと思って、EBILABの事業や他のさまざまな事業を立ち上げてきました。おかげで少しは気が楽になっています。

——店舗の混雑状況なども可視化されていたと思います。コロナに最適化した飲食店の形態は、どのように検討されているのでしょうか。

小田島氏:2020年4月くらいに、「これからは、どういうものに価値が見出されていくか」を考えたとき、やはり混雑を避けるという意味で「空いていることが価値になるのでは」と仮説を立てました。僕たちがもともと収集しているさまざまなデータを活用し、来客予測も使えば混雑予測もできると考え、またテーブルの使用状況も把握はできるので、「利用状況をちゃんと見せよう」と。

 それで店頭にモニターを設置し、店内の席がどのように使われているかを入店前に見ていただけるようにしています。店頭でお客様の会話を聞いていると、見ている人は見ているし、「いまここの席空いてるから大丈夫そうだから入ろう」とか聞こえてくるので、結構使われているなということが、実際に使ってみて分かりました。

店頭の空き状況モニターを背景に表示する小田島氏
店頭の空き状況モニターを背景に表示する小田島氏

常盤木氏:コロナというキーワードに対して店をどう最適化させるかということに、早い段階から取り組み、ソリューションの品揃えを増やしました。店頭のモニターは、実はこれがTwitterにも連動していますし、ポジネガ解析もやっています。SNS上でコロナというキーワードに対して、伊勢で最もポジティブに相関しているというポジションを取りに行ってます。徹底的にデータですね。

——採用や、社員同士の信頼関係を作れる組織づくりについては、どのように取り組まれていますか。

小田島氏:僕たちの採用と育成についてお話させていただきます。僕たちは積極的に採用はしていなくて、まずは実際に店舗で働いているメンバーからのロールチェンジで、育成を行っています。飲食側で採用し、その人たちの次のキャリアステップとして、エンジニアをやりたいという思いがあればやる、という風にしているのです。店頭からエンジニア、ホールスタッフからカスタマーサクセス、キッチンから広報など、いろいろなパターンがありますね。

 というのも、当社が提供しているツール自体が、リアルな店舗の方々に販売するものなので、現場のことをお話しできる人間でないといけないと思っているからです。自分自身でやりたいというのと、やらせるのではモチベーションが全然違います。またアイドルタイムって、飲食で働く人にとっては不安ですから、みんなの心の不安を経営者が拾い上げて、マーケや語学、オーナーシップなどさまざまな勉強の機会を提供するようにもしています。

 ちなみに、採用ページも持っていません。何とかうちで働きたいという方は、お問い合わせページから問い合わせるとか、僕が出ている講演目がけて来てそこで僕を捕まえるとか、そういうパターンが結構多かったりします。「ここで働きたい」と思いを持ってくれる方と僕は働きたいと思っています。

常盤木氏:自分から入り口がないのに超えてくる人じゃないと、DX人材にはなれないと思うんです。アナログとデジタル(の垣根)を超えるわけなので。コードを書いていたいから現場に立ちたくないとか、自分は現場主義だからエクセルは触りたくないとか、そういうことを言う時点で、周りのことをハッピーにするより、自分の過去の集積に固執しているということなので、チームを作ったところで課題解決の旅を一緒にできないのではないかなと思っています。

小田島氏:1人のメンバーが、なるべく多くのことをこなせるようにしておくことも重要です。僕が伊勢にきた当時も1人で、さまざまなことをしていかなきゃならないとき、たくさんのフリーランスの方に手伝っていただきました。ですので、社員も多くのフリーランスをディレクターとして活用していって、各自の役割を大きく広げるよう、少ないメンバーで生産性を最大限引き上げるようにしたいと考えています。

常盤木氏:補足すると、その下支えとして、「成果を達成できた時にはみんなに利益を分配する」というルールも、徹底的にやっています。経営者だけが一人勝ちするのではなく、全員がフラットなチームで、お互いのロールをきちんと達成していこうと。

——東京一極集中という傾向はまだまだ強いですが、地方都市の連携についてどのように考えていますか。

小田島氏:東京だからとか、地方の連携で何があるかというより、まずシンプルに僕はここに住んでいきたい、ここで楽しく生きていきたいという思いが大前提にあります。本当に楽しいからここにいるんです。気持ちがいいですし、ストレスがないのです。そのうえで、地方都市連携に関しては、いますごく感度の高い方々や優秀な方たちが、すでに地方に移住しつつありますから、それをつなぎ合わせていくと、実はすごくパフォーマンスが高い仕事ができるのではないかと考えています。

常盤木氏:UIターンは加速すると見ています。そこでいうとアドバイスがあって、地域のコミュニティスペースに、ただ情報をもらうだけじゃなく、地域に自分が還元できる存在になることが大切です。たとえば、若者が頑張っているコミュニティプレイスがあるのならば、仕事を斡旋してあげるなど、見返りを求めず最初にギブの精神で、地域で信頼される存在になる。地域の人たちに愛されるための人間関係に着目した先に、雇用があると思っています。

——最後に今回のカンファレンステーマでもある、お二人にとって「常識の再定義」とは何でしょうか。

小田島氏:僕は常識とか非常識に囚われない人間でありたいと思っています。常識を作るからそれに縛られて、非常識というものにぶつかるから批判されるので、常識や非常識ではなく、何をしたら正しいか、どうしたら倫理的で正しい決断ができるか、行いができるか、という観点で、見ていきたいと考えています。

常盤木氏:バックフォワードで考えたとき、僕がやっていることは意味があるかないかをシンプルにジャッジすることだと思います。僕らがわざわざこの時間とリソースを使ってやるべきかどうかを考えて、僕らがやらなくてもいい、たとえば大企業がやった方がいい領域は、僕らは徹底してやらないと決めることも大切です。

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