【事業開発の達人たち】「さるぼぼコイン」で地域の信用組合特有の課題を解決--飛騨信用組合・古里圭史氏【後編】 - (page 2)

永井公成(フィラメント)2021年03月05日 09時00分
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 これは実際、非常に有益なアプローチだと思っています。たとえば、豆腐屋さんの場合だと今までの日本円の世界で考えると「じゃあ地元産の大豆を使って、ちょっと品質のいいものを高い価格で売るか」といったような発想の商品しか出てこない。でも、このさるぼぼコインの世界で考えると、「さるぼぼコインでしか買えないスペシャルなものを作りましょうよ」というアプローチができるんです。みんなちょっと遊びの感覚を持ってきていて。たとえば、豆腐屋さんでも「スペシャルなものだったら油揚げは?揚げたての油揚げを食べたことある人はおらんから、できたての揚げをその場で食べてもらったらいいんじゃないかな?」「それめっちゃ面白いじゃないですか!」みたいな話になるんですよ。

角氏:なるほどね〜。

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古里氏:今回の商品・サービス開発の中ではたくさんそのような気付きがありました。「なんで今まで何回もこういうお話をしていたのに、このアイデア出てこなかったんですかね」と聞くと、「こんなこと思いつかんかったなぁ」と言われました。この前提になっている世界観を変えることで発想を飛ばす手段はソフト開発に使えると気づいたんです。だからそのうち、当初はこうやって開発を行ってさるぼぼコインでしか買えなかった商品とかサービスだったけども、それがその会社の主力となる新しい商品・サービスになる、ということを描いています。

 そこで、これまでに自前運営で注力してきたクラウドファンディングの取り組みがより生きてきます。コロナ禍で当組合が関わった案件がCAMPFIRE(キャンプファイヤー)の2020年のアワードで1位をいただいたんですけど、このコインタウンでの商品・サービスの開発をどんどんクラウドファンディングにつなげていくラインを作っていきたいです。当組合がパートナーとなっているCAMPFIREやMakuakeなどのプラットフォームでプロジェクト化したものが、量産や商用化を目指せる時には、金融機関本体の融資にさらにつなげていけます。その後も当組合が持つさまざまな資金拠出メニューや支援施策を活用してさらに成長支援をしていきます。今までやってきたことがこうやってつながっているんだよ、というのを文脈を変えながらいろいろな切り口で説明するんです。そうすると、「なるほど、そういうことか」と納得していただけるんです。

角氏:今のお話の中にも、普通の人では思いつかないようなアイデアがあって。そのアイデアがあるから、普通だったらつながらないものがつながっているんだろうなと思うんですよ。

 さるぼぼコインというフィルターを通して価値を見直すことによって、どんどん面白いアイデアが出てくるというのは、実際に現場でその効果を見ているから言えることですよね。ご自身でひとつの製品の価値を見つけて他のものとどんどんつなげていって、ひとつのパイプラインを作ってそのループを回すみたいな、そういうことをされているのかなと思いました。

古里氏:おっしゃるイメージに近いと思います。

角氏:だから「これやりましょうよ」といった時に、みんな「ここにリスクがあるんじゃないのか」と、粗を探してくるじゃないですか。それも善意で粗を探してくれているんですよね。でもそれが、全部どこを探しても粗がないなとなった時に多分変わると思うんですよ。それを目指されているんだろうなと思いました。

古里氏:ありがとうございます。このサービスをやる時もそうですけど、本当に各方面からすごくネガティブなことを言われました。金融機関の内部でも「そこにこんなお金使って何になるんだ」みたいなことも相当言われましたけど、そういうところで結構鍛えられたのもありますし、そのためにかなり用意をしていたんですね。

さるぼぼコインで、コストゼロの預金が28億円に

古里氏:実はさるぼぼコインは信用組合の収益構造もがらりと変えるようなインパクトがあるんです。当初からうちの預金の構造を変えようと思っていました。というのも、企業の決済をするための流動性の高い当座預金口座を、僕らみたいな協同組織の金融機関でセットして下さる方ってすごく少ないんですね。

 なぜかというと、飛騨信用組合は飛騨市と高山市と白川村の2市1村しか営業店舗がないので、地域内にある企業でも、名古屋や岐阜の企業とお取引する時にひだしんの口座がメインの決済口座だと、送金時の手数料がものすごくかかったりするなど何かと不便なんですよ。当然、地銀に決済口座を持てるというステータスが取引上重要になったりもします。となると、やっぱり商用の流動性の高い預金口座はメガや地銀さんで持つはずなんですね。そうすると支店が違うだけの同じ銀行の口座が使えるのでコストも低くなるし、非常に便利なんです。

 これが集まってくる金融機関は、決済制の口座なので利息を払わなくていいんです。当座預金で利息ゼロだと、放っておいても預金が潤沢に入ってきて、かつコストゼロのお金を使えるわけですから。預金に関して言えば仕入コストが低く、それを低金利の住宅ローンなどに跳ね返させたりできるんです。それに対して僕らはそのお金が集まってこないので、個人や企業から高いレートをつけた固定制の定期預金を集めてくるほかないんです。融資や住宅ローンや消費者ローンを考えていただければ分かると思いますが、同じ地域内ではどこの金融機関で借りても、ほぼレートは一緒じゃないですか。悲しいかなやはりレートだけでどの金融機関から借りるかを判断されるお客様が多いのが現実です。

 そのため、僕らは利ざやが薄くなってしまうんですね。なので、流動性の高い預金をできるだけ集めたいという思いがありました。この点もさるぼぼコインの事業の中に織り込んでいます。日本円見合いで電子マネーをチャージしていただきますので、裏っかわには流通額と同額の預金があるわけです。コストの低い流動性の高い預金が出入りはあるものの、この3年間で累計30億円ぐらい入ってきていることになります。

角氏:それって、かなりすごいんじゃないんですか。

古里氏:純増分ですし、かなり預金にかかるコスト低減に貢献していると思います。さるぼぼコイン事業だけの収支も諸々考慮すれば、ほぼペイしている状況ですし。これは本当によく考えたなと思うんですけど(笑)。新規の預金の増加量もそうですが、「決済」という新しい領域の金融サービスに展開したことで、これまで組合との接点がなかったユーザーや事業者と接点が出来たということが大きいですね。そしてもう一つ別の観点ではこれまでとは全く違う種類の「お金の流れ」を取り扱えるようになったということです。これは日々絶え間なく流動している決済の場面でのお金という意味です。だから流動性の割合が増えつつ、預金も増えて、預金コストも下がって。かつ新規の口座開設数が2.8倍ぐらいになっていて、顧客接点も全部増えているんですね。

 先ほどお話しました地域通貨のままBtoBでも資金循環させる必要性については、域内の経済循環促進の観点と送金手数料による組合収益への貢献の観点から説明をさせていただきましたが、後者については預金の歩留まりという観点からも説明ができます。日本円に戻されずにさるぼぼコインの世界でお金が回っている限りは、先ほど申し上げたロジックから組合の口座の中の預金取引になりますから、預金流出が発生しないんです。ここまで職員に説明すると、さすがに「なるほど」と言ってくれます(笑)

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角氏:日経新聞を読んでいても、地銀の生き残りをどうするかは国全体の課題のひとつになっていると思うんですが、結局は地域のブロック経済を作ってうまく回していくことに収斂されていくんじゃないかなと僕は思っていたんです。まさにそれがいち早く実現されているみたいな感じがしますね。

古里氏:ありがとうございます。

角氏:すごいですね。完全にブロック経済。観光地だからこそ外部から入ってくるお金の比率を高めやすい。そこにさるぼぼコインタウンを使ってソフトパワーも高めて、いろいろな面白いメニューとか面白いコンテンツを増やし、外から来たい人を増やし、来た人がリピートする確率も高め、しかもお金を使った時にお金がその地域出回り続ける仕組みもあるということですね。

古里氏:おっしゃる通りです。

角氏:素晴らしい。世の中の地銀に古里さんみたいな人がいっぱいいたら、地銀は潰れないんだろうなと思うんですよね。

古里氏:もっともっとできることたくさんあると思いますね。地銀さんや信金さんは私たちとは比べようもないくらい、お金も人も、そのほかたくさんのリソースがありますので、なんでもできちゃうと思うんですけど。

角氏:これはすごい。でも結局アイデアを出して、それを実現させるまでの苦労をいとわない、ほかの人の善意によるネガティブ発言に潰れずに、そこから本当により良いものにアイデアをリビルドしてどんどんいいものを作って、鍛え上げていくという、そこの部分ができる人が世の中にもっともっと増えてほしいなと思いました。

古里氏:ありがとうございます。まだまだ本当に道半ばです(笑)。

角氏:いやいや、すごいですよ。さるぼぼコインを作って、そこからそれを地域のインフラに仕立てて、行政もそれを頼るようにして、町の商店街とかもそれを頼るようにして。そこまででも十分すごいんだけど、そこからまた次の展開を考えて、外から観光客を呼ぶ装置にして、呼ぶための装置をみんなが面白がってどんどんアイデアを出すための装置にもして。そして地域の中の豊かな循環を増やす。

 大変面白かったです。ありがとうございました。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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