オンラインライブとPPVの可能性--サイバー藤井氏が次に狙う「格闘技とアニメ」市場 - (page 2)

ARやXRだけではない、オンラインだからできる映像の進化の提示

――オンラインライブでは“オンラインライブならではの演出”が、枕詞としてよく使われています。代表的なものは現実に映像演出を重ねるARやXRのような表現と考えられますが、藤井さんから見て、オンラインライブだからこそできる表現や体験について、どのような考えを持っていますか。

 確かにオンラインライブの演出は、ARやXRにフォーカスしがちなところはあります。もちろんその演出もとても大切なものではありますが、僕らが意識しているのは、オンラインだからこそ実現できる映像の進化を提示することだと考えています。私たちが直近で取り組んだ、2020年11月に行われたももいろクローバーZ(ももクロ)さんの「視聴者参加型」とうたった配信ライブ「PLAY!」が、それを提示できる例になるかと思います。

 まず、マルチアングル機能の導入です。曲の流れでAのアングルを見ることができれば、Bのアングルも見られるというものです。ほかにも投票機能を活用して、ファンの皆さまに次に歌う曲を決めていただくという企画も展開しました。インタラクティブな企画や体験をリアルタイムでできることは、オンラインライブの表現として向いていると思っていますし、そのような新しいチャレンジを実施することができるライブとなりました。

マルチアングル機能について
マルチアングル機能について

 ほかにも、開演前にオンライン上で集うことができるカウントダウンラウンジも設けました。オンラインライブは、開演時間になったらいきなり公演が開始するという、心構えができていないなかで始まる感覚があったんです。実際のライブでは会場に入るとPVや音楽が流れていて、高揚感を高めてからライブが始まるので。オンライン上でもその場を提供して、ライブの臨場感を少しでも感じてもらえればと思いました。

 リアルなライブの良さを追求しつつ、オンラインだからこそできる映像の進化と企画要素を盛り込み、ライブを見るだけではなく、参加するという視聴体験の融合を追求して「PLAY!」は企画されました。

――ライブの演出については、OENや「ABEMA」の技術ありきで決められたものでしょうか。ももクロのプロダクションサイドからの要望によるものなのでしょうか。

 どちらが一方的に決めたということではないです。まず、ももクロさんのプロダクションが、もっと先進的な新しいライブの形を作るという思想を持っていて、いわゆる普通のライブはやりたくないという意向はお持ちでした。それでこちら側もこのような先端技術があって、こういった表現が可能だとか、機能があるという提案をさせていただいて、お互いにすり合わせて演出内容を決めていきました。

これからのオンラインライブはアイデア勝負へ

――いろんなオンラインライブが行われたなかで、無観客でもリッチな演出ができるアーティストや興行もある一方、いわゆる中小という規模では、配信そのものにもコストがかかり、収益が見込みにくいということで二の足を踏む状況もあります。

 まず、2020年における著名なアーティストのオンラインライブでは、無観客にもかかわらず大規模会場を借り切って、ARやXR、さらに実際に派手な演出にこだわるものが多かったように感じました。それはそれとして、本来、ライブに限らずビジネスにおいてオンラインにするということは、無駄を省いて利益を上げるという考え方なんです。それを踏まえると、オンラインライブに関しても、コストを抑えて利益を出すような思想のものがあってもいいはずです。それ自体、やろうと思えばできると思いますし、企画や発想次第だと考えています。

 あくまで個人的な考えですが、例えば活動歴の長いアーティストが、デビューした場所や思い出の場所でオンラインライブをするということであれば、ストーリーを提示して共感が得やすいステージをコストを抑えて見せることもできるでしょう。卒業式や入学式ができない状況なら、その学校や体育館を利用してセットを組まずに実施するというのも、アイデアのひとつかと。ライブハウスやイベント会場に限らず、オンラインライブだからこそのコストを抑えてファンの心を掴むことができる場所はあると思います。

 2020年は、とにかく何かしないといけないという状況で、手探り状態だったと思います。そしていろんな知見やノウハウが得られたなかで、2021年はそこから新しく考えられた企画が出てくると思いますし、アイデア勝負の年になってくるのではと考えます。

――ネットでのエンタメコンテンツが多様にあふれているなかで、時間の取り合いも起きており、そのなかでオンラインライブも激しい競争のなかにあると感じますがいかがでしょう。

 オンラインライブに限らずPPVの良さは野球や格闘技と一緒で、その時に見るという希少性や特別感があると思います。ネット上にさまざまなコンテンツがあふれているのは事実ですが、言われるほどレッドオーシャンだとは感じていません。

――オンラインライブでは、リアルな会場とは違い視聴者数の規模が読めず、さらにいつでも購入できるということで、見ることができる時間が確定してから購入するような、直前まで売り上げが見通せないという課題もありますが、それについてはいかがでしょう。

 まず「ABEMA」において、扱っている配信ライブの件数を一定数に絞って、券売するための戦略を細かく作っていることもあるのですが、オンラインライブにおける当日の券売比率は低いです。

 例えば配信チケットを販売する際に、ファンが魅力的に思える先行特典を付けて、1週間程度で締め切るということをした場合に、配信チケットの発売日と締め切りの日に販売の山が作れます。もちろんそれで終わりではなく、特別番組を前日までに行うことで、購入していただいたファンの高揚感を高めるだけではなく、世の中に周知して販売に繋げていきます。こういったことで、事前の販売の山の作り方を計画的に行っています。

 特別番組の内容も、リハーサル段階の様子をお伝えするといったものだけではなく、Official髭男dismさんのオンラインライブを配信したとき(2020年9月開催の「Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -」)は、「ABEMA」でオリジナル事前特別番組を配信して、ファンによる楽曲の人気投票を実施しました。その結果でファンは盛り上がりますし、話題になりニュースとして報じられることで、オンラインライブの開催も知られていきます。

 先ほど、オンラインライブはレッドオーシャンだと感じていないとは言いましたが、とはいえ、オンライン上では魅力的なコンテンツがあふれていますし、情報もあふれているのも事実です。宣伝戦略をしっかりと作らないと、届くべき人に届かず、オンラインライブが行われていることに気づかれないまま終わってしまう可能性もあります。リアルライブと比べると、オンラインライブでの宣伝戦略はきわめて重要だと捉えていますし、コンテンツ制作と同じ比重でそこを考えるべきです。

――オンラインライブの今後や未来像など、考えがありましたらお話しください。

 オンラインライブでは、ライブ会場に行かなくても楽しめたり、収容人数を気にしなくていいというメリットがありますし、オンラインだからこそ実現できる企画や取り組みも多々あります。一方で、オンラインでは得にくいこととして臨場感がありますし、リアルのライブでしか体験できないものがあるのも事実です。実際、多くの方がオンラインライブよりもリアルライブのほうがいいと感じている場合もあると思います。

 今考えていることとして、画質や音質を高めることによってより臨場感を感じられる映像配信に加え、マルチアングル機能をつかった演出やアンケート企画、クイズ企画などオンラインライブならではの工夫を加えることによって、リアルライブよりも楽しめるライブ、オンラインで見たほうがいいと思えるライブを作り上げることができると思っています。OENとしても、そこにチャレンジしていきます。

PPVは格闘技のポテンシャルに着目。「ABEMA」が強いアニメでの展開も

――オンラインライブに限らずPPVについて、これまで視聴者が配信番組に都度課金することを躊躇する、提供側は無料で配信しないと見られないという、双方の壁があったと思います。それが新型コロナの流行により、その壁が一気に低くなったと感じています。

 その通りで、それは私も感じています。2020年における音楽ライブのオンライン展開は特に普及しましたが、スポーツやアーティストのファンミーティング、声優のイベント、お笑いライブなど、PPVのライブ配信を実施することによってビジネス化されるものもたくさんあると思います。

 私が特に着目しているのは格闘技です。K-1とオンライン特化で、通常の大会では見られないような企画や対戦カードを行う興行「K-1 DX」を立ち上げましたが、とても好評でした。

通常の大会では見られない企画や、K-1ファイターとYouTuberの対戦などのエキシビジョンマッチを中心とした「K-1 DX」
通常の大会では見られない企画や、K-1ファイターとYouTuberの対戦などのエキシビジョンマッチを中心とした「K-1 DX」

 格闘技のPPVは米国だと大きい市場がありまして、2017年に行われたフロイド・メイウェザーとコナー・マクレガーの試合は、PPV購入数が北米で430万件に上ったとされています。一方で私の知る範囲内ではありますが、日本における2020年で一番売れた音楽ライブのPPVが、おそらく30万件程度だったと思われます。それだけ格闘技のPPVにおけるポテンシャルはすさまじいものがあります。だからこそ「K-1 DX」の取り組みを始めました。

 こちらも事前の告知展開を行って相応に販売はされていましたが、当日にネット上である一戦が話題になり、その後、その一戦がきっかけでPPVの企画全体の9割以上を占めるぐらいに売れたんです。今のところ、スポーツコンテンツのなかでも格闘技のポテンシャルが高いと感じています。

 また「ABEMA」はアニメが強いということもあり、声優の方々が出演するイベント配信も好評で、手ごたえを感じています。アニメや声優のファンの方は「ABEMA」に滞在しているので、親和性は高いですし、配信した番組はどれも想定以上の販売数がありました。男性声優のみなさんがパジャマ姿で登場する「声優パジャマ会議」は、Twitterの世界トレンドにも入りました。いわゆる「点」で配信するというよりは、一緒に育てていくような感覚で、一緒にストーリーを作っていき、ファンに向けてコンテンツに対するロイヤルティを高める施策を行っています。

 米国ではPPVというビジネスモデルは一般的だったのに対し、日本ではなかなか受け入れにくい状況がありましたが、新型コロナウイルスの流行でPPVは定着したと感じています。音楽ライブ以外のPPVでも市場を作っていければと思います。

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