アクセルスペース、小型衛星「GRUS」4機同時打ち上げ--計5機体制で切り開く宇宙ビジネス

 自社開発の小型衛星による衛星コンステレーションサービスを手がけるアクセルスペースは、2021年3月20日に打ち上げる予定の超小型衛星「GRUS」4機を報道陣に公開した。日本で量産された同型衛星が同時に打ち上げられるのは、これが国内初の事例になるという。

 4機の運用が開始されれば、現在「GRUS-1A」1機だけで運用中の地球観測サービス「AxelGlobe」が、5機体制の衛星コンステレーションとなり、特定地域の観測頻度を現在の2週間に1回から2日に1回程度まで増やし、時間分解能を高められるとした。

GRUSの模型とアクセルスペース経営陣
GRUSの模型とアクセルスペース経営陣

これまでに5機を打ち上げ

 アクセルスペースは、超小型衛星の開発から製造、運用、派生サービス提供まで一貫して対応可能な企業。東京大学の「CanSat」「CubeSat」といった超小型衛星開発プロジェクトに携わった中村友哉氏(現在は代表取締役CEO)が、2008年に設立した。

 質量が数トン、開発コストが数百億円かかるといわれる大型の人工衛星に対抗し、開発が短期間で済み、コストが数億円に抑えられる、質量100kg以下の超小型衛星の事業化を目標としている。こうした超小型衛星で衛星コンステレーションを作り、得られる画像データを農業、森林保護、天然資源開発、インフラモニタリングなどの分野で活用してもらって収益を上げる考えだ。

 実績としては、北極海域の海氷観測を目的とするウェザーニューズの「WNISAT-1」とそのリカバリー衛星「WNISAT-1R」、地球観測ビジネス実証衛星「Hodoyoshi-1」、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証機「RAPIS-1」、そしてAxelGlobe向け衛星の1号機であるGRUS-1Aという5機の衛星打ち上げを成功させてきた。

これまでに5機の衛星を打ち上げてきた
これまでに5機の衛星を打ち上げてきた

中分解能の市場を狙う衛星コンステレーション

 AxelGlobeは、地球の周回軌道に投入した複数のGRUS衛星で地球の広い範囲を高頻度で観測するサービス。撮影した画像を提供するだけでなく、蓄積した画像を解析して利用するアプリケーション市場の拡大を狙う。たとえば、農業の効率化、森林の保護や開発、資源エネルギーインフラの監視や管理、物流や貿易状況の把握、防災といった応用が考えられる。

 AxelGlobeを構成するGRUSの地上分解能は2.5mで、中分解能に分類される衛星。中村氏によると、分解能が5m程度の衛星画像サービスは無料提供されており利益確保が難しく、1mクラスは高コストなうえ米国ベンチャーが多く取り組んでいるレッドオーシャン状態だという。そこで、ニーズがあるもののプレーヤーの少ない中分解能に参入し、チャンスをつかむ計画だ。さらに、単に画像販売だけでなく分析まで含めたソリューションとしてリーズナブルなサービスを実現することが、中分解能ビジネスを提供するうえで重要だとしている。

 なお、アクセルスペースは2015年12月にAxelGlobe計画を発表した当初、50機からなるコンステレーションを2022年に完成させ、全陸地の45%を毎日観測できる体制の実現を目指すとしていた。しかし、現在はコンステレーションの規模を縮小する方向。その理由について、広大な砂漠や大海原などを観測する需要が少ないため、戦略を見直して規模を小さくすることで、プロジェクトコストを下げ、サービスを安く提供できるようにしたそうだ。

AxelGlobeの紹介ビデオ(出典:アクセルスペース/YouTube)

5機体制で観測頻度が高まる

 2019年5月にサービスを開始したAxelGlobeサービスで運用されている衛星は、2018年12月に打ち上げたGRUS-1Aだけ。この1機体制だと、特定地域の観測頻度は2週間に1回程度に限られる。

 2021年3月20日にカザフスタン共和国バイコヌール宇宙基地からソユーズ(Soyuz-2)ロケットで「GRUS-1B」「同1C」「同1D」「同1E」の4機が同時に打ち上げられ、運用を始められれば、AxelGlobeは5基体制となり、観測頻度を高められる。具体的には、日本付近を含む中緯度地域で平均1.4日に1回、低緯度地域でも3日に1回、全体としては2日に1回程度の観測が可能になる。5機体制のサービスは、打ち上げから3カ月後の6月ごろに開始する予定。

 衛星が5機に増えることで、時系列変化のトラッキング精度が高められ、農業利用、事故や災害時の事業継続計画(BCP)への応用、船舶や自動車の数を捉える経済利用など、衛星データ活用の幅が広がる。そして、現時点でAxelGlobeを試験的にしか利用していない顧客も、これを機に本格利用へ移ることを期待している。

 将来的には、衛星を10機まで増やし、観測対象地域を毎日1回撮影できる状態にする計画だ。提供する解析サービスがある程度そろったら、サービス内容を固定化せず、顧客の要望に「イージーオーダー」(アクセルスペースCBOの山崎泰教氏)で応えていきたいという。

 ちなみに、今回打ち上げる4機のうち1機「GRUS-1D」は、アクセルスペース所有の機体でない。福井県民衛星プロジェクトで実現した福井県民衛星「すいせん」であるが、AxelGlobeのコンステレーションに加えて共同運用し、相互活用していく。アクセルスペースは衛星の自社保有にはこだわっておらず、新興国などとの共同プロジェクトも視野に入れている。

4機同時に打ち上げられるGRUSの実機で一番手前が「すいせん」(上)(筆者撮影)と、打ち上げに使われるソユーズ(下)(出典:アクセルスペース)
4機同時に打ち上げられるGRUSの実機で一番手前が「すいせん」(上)(筆者撮影)と、打ち上げに使われるソユーズ(下)(出典:アクセルスペース)

今後に向けて量産体制DMAGを整備

 これまでアクセルスペースが開発してきた衛星は、一品生産の専用機ということもあり、設計プロセスと製造プロセスが一体化していた。しかし、コンステレーションを発展させていくには、複数機を同時に製造していくことが求められる。そこで、本格的な量産体制を整えるため、設計と製造を分離してディジタル製造推進グループ(DMAG)を新設した。

 同社にとって複数機を同時に製造することは大きなチャレンジだったが、製造中に遭遇したさまざまなトラブルを一つ一つ解決していくことで、貴重な経験になったという。今回得られた知見をいかし、DMAGで本格的な量産体制を半年や1年といった体制を整えたいとしている。

 ただし、量産といってもSpace Xが「Starlink」で進めている1万2000機のような規模ではなく、顧客の需要に対応しやすい少量多品種の製造スタイルを検討していく。

経産省もJAXAも宇宙ビジネスに期待

 打ち上げる衛星4機を披露した発表会の後半は、アクセルスペースCEOの中村氏に伊奈康二氏(経済産業省製造産業局宇宙産業室室長補佐)、岩本裕之氏(JAXA新事業促進部長)、ガーヴィー・マッキントッシュ氏(NASAアジア担当代表)が加わり、パネルディスカッションとなった。モデレーターは中須賀真一氏(東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授)が務めた。

パネルディスカッション(左から中須賀氏、伊奈氏、岩本氏、マッキントッシュ氏、中村氏)
パネルディスカッション(左から中須賀氏、伊奈氏、岩本氏、マッキントッシュ氏、中村氏)

 伊奈氏によると、衛星コンステレーションは時間分解能を高める鍵であり、経産省は興味を持っている。具体的な部署は明かせないが4つ、5つの省庁にコンステレーションでできることなどを説明しているそうだ。また、関係省庁に衛星データを買ってもらえるよう、政府衛星開発実証プラットフォームなどに取り組み、コンステレーションの基盤技術開発を進める方針だという。一例として、汎用の衛星バスを開発するなど、機能開発や量産のしやすい環境を作りたいとした。

 岩本氏は、JAXAに対して宇宙を活用したいとの問い合わせが増えているとした。そして、コンステレーションで時間分解能が高くなれば利用する場面が増え、生活に密着したサービスも現れると予想している。

 法改正でJAXAが民間企業に出資できるようになるため、資金の得られにくい宇宙スタートアップに出資して新しい可能性を広げていきたいという。さらに、民間からのサービス調達も進め、プロジェクトの運営や顧客開拓にも共同で取り組むとした。

 マッキントッシュ氏は、NASAが米国外の民間宇宙企業からデータを獲得して利用することについて、制度上難しいとした。そのため、アクセルスペースのデータを直接使うことはないだろうが、NASAの契約した米国企業を経由する形で、アクセルスペースなどからサービスを受ける可能性は検討する価値があるとしている。

衛星データを使うことが当たり前の時代が必ず来る

 アクセルスペースの中村氏は同社のビジネスを、単なる画像サービスでなく、解析サービスと説明している。「衛星データを使うことが当たり前の時代が必ず来る」(同氏)と考えているものの、宇宙ビジネスはまだ理解されておらず、ビジネス展開の拡大にはユーザーの母数を増やさなければならない、とした。

 宇宙ビジネスの実行には、衛星データを使う人の存在が大前提だ。これまで衛星利用を考えたことのない人へ提供していけるよう、宇宙を使って何ができるか考えていく必要があるという。

 5機体制のAxelGlobeは、2021年6月ごろに始められる見通しだ。サービスの本格化により、ここから単月の黒字化を目指し、月間売上高を億円単位にしたいとした。そして、3年以内に3桁億円規模の年間売上高を目指すとしている。

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