KDDIは11月24日、先端技術で日本の文化芸術体験を拡張する「au Design project [ARTS & CULTURE PROGRAM]」の新たな取り組みとして、auの5GとAR技術を駆使して現代アートを体験できる「AR×ART」の提供を開始した。
同日に実施された説明会で、KDDIの5G・xRサービス戦略部 部長の繁田光平氏は、今回の取り組みに至る経緯を説明。au Design projectはこれまで、携帯電話などのデバイスにデザインを取り入れることに力を入れてきたが、現在は5Gなどの最新技術によって、アートやカルチャーの“体験そのもの”をデザインするARTS & CULTURE PROGRAMに力を入れているとのこと。
同プログラムでは、これまでにも東京国理屈博物館で、国宝「聖徳太子絵伝」にAR技術を用いて新しい体験を提供するなどの取り組みを進めてきた。そこで今回は、現代アートにも最新技術による体験価値を広げるため、スマートフォンアプリとAR技術を用いた取り組みを進めるに至ったという。
そのAR×ARTアプリの第1弾として提供されるのが、彫刻家の名和浩平氏とコラボレートした「AR×ART KOHEI NAWA」になるとのこと。繁田氏はこのアプリについて、「単にARを体験するだけでなく日本全体をインスタレーションし、旅を介して作品を感じ取ってもらえる奥行きのあるプロジェクト」になると話す。
またこのアプリは、アートのコミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」を提供するThe Chain Museumと協力して開発を進めたという。KDDIはKDDI Open Innovation Fund 3号を通じて同社に出資もしており、両社の連携によってxR技術などを活用した新しい文化芸術体験のデジタルトランスフォーメーションを推進する「augART 」に取り組み、さまざまなアート体験を構築していきたいと繁田氏は話した。
そのThe Chain Museumの代表取締役社長である遠山正道氏は、これまでのアートの歴史を振り返りながら今回の取り組みについて説明。当初壁画などで3次元空間を用いて構築されたアートは、17世紀に絵画となって2次元での表現に後退した一方、持ち運びができ画商が流通するという大きなメリットを得たという。
そして現在、ARによって空間に3次元空間にアートを表現できるようになったことで、「メディウム(媒体)が次の段階に来たと感じている」と遠山氏は話す。そこで同社のプラットフォームにARと5Gが入り込むことで、環境とアートの境界線が曖昧になり、従来の美術館とは大きく異なる体験価値を提供できるようになるのではないかと、遠山氏は今回の取り組みに期待を示す。
その後、KDDIの5G・xRサービス戦略部 エキスパートの砂原哲氏が「AR×ART KOHEI NAWA」の具体的な内容について説明した。
このアプリでは3つの体験ができるとのこと。1つ目の「PixCell_AR」は、iPhone 12 ProシリーズやiPad Proの2020年モデルに搭載されているLiDARスキャナを活用し、映し出した人やモノを、名和氏の代表的な彫刻表現表現「PixCell」に変化させるものになるという。ただしPixCell_ARの提供は、2020年12月以降の予定になるとのこと。
配信当初から楽しめるのは、2つ目の「AR×ART COLLECTION」になる。こちらもLiDARスキャナとアップルのAR技術「ARKit 4」を活用し、名和氏の作品である「Velvet-White Deer」や「Velvet-Ether」をさまざまな空間上に設置して、写真や動画を撮影できるというもの。砂原氏によると、LiDARスキャナの活用によってARのオブジェクトが瞬時に表示され、よりリアリティのあるAR表現を実現できるという。
ただし標準の状態では、設置できる作品に制限をかけているとのこと。その制限を外して全ての作品を使えるようにするには、3つ目の「White Deer_AR」を体験する必要があるという。
これは宮城県石巻市に設置された名和氏の作品「White Deer(Oshika)」をベースとしたもので、特定の場所を訪れてスマートフォンをかざすとWhite Deer(Oshika)が現れるというもの。空間マッピングとビジュアルポジショニングの技術を用いて特定の場所にARオブジェクトを配置しているそうだが、ARKit 4の「Location Anchors」とは異なる技術を用いていると砂原氏は話す。
ちなみにその出現スポットは、White Deer(Oshika)が設置されている石巻市のほか、東京・銀座にあるKDDIのコンセプトショップ「GINZA 456」、そして名和氏がコンセプトルームを手掛けた「ホテルアンテルーム京都」など、名和氏にゆかりのある場所になるとのこと。訪れる場所によって解除される作品の数は異なるという。
さらに会場には名和氏も登場し、これまで手掛けた作品や取り組みなどを解説。名和氏は2010年にも、au Design projectで「iida Art Editions」のコンセプトモデル「PixCell via PRISMOID」を手掛けているが、PixCellは名和氏が学生時代にインターネットを使い始めた頃、今後の情報化を彫刻でどう表現するかを考えた結果、生み出されたものになるという。
そうしたことから今回の取り組みは、名和氏にとっても「学生だった頃、彫刻はこうなると想像していたものが、今になって実現する」ものになるそうで、「感慨深い思い」と話していた。
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