楽天は11月12日、2020年12月期第3四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比14.8%増の1兆402億円、営業損益は605億円。事業自体は好調だが楽天モバイルを中心に先行投資が続いているため、今四半期も赤字決算となった。
同日にオンラインで開催された決算説明会では、同社代表取締役会長 兼 社長である三木谷浩史氏をはじめ、各部門の担当者が、楽天の各事業の業績や最近の動向について説明。三木谷氏は、同社の国内EC流通総額が大きく伸びており、「楽天トラベル」や「楽天カード」などの事業も、国内の同業界がコロナ禍でマイナス成長となっている中、大きな成長を遂げていると業績の好調さをアピールした。
楽天の副社長執行役員 コマースカンパニープレジデントの武田和徳氏も、国内EC事業の売上高は前年同期比17.2%増の1492億円、営業利益は0.9%増の152億円となるなど好調だと説明。コロナ禍による影響で楽天トラベルなどの利益が32億円落ち込んだものの、EC需要の高まりで59億円押し上げられたことで、それをカバーしているとのことだ。
その楽天トラベルに関しては、コロナ禍の影響が弱まったことと、政府の「GoToトラベルキャンペーン」施策、さらにはセールやクーポンなどの独自施策が好調で、同業他社よりも足元の回復は早いとのことで、「第4四半期にはプラスに転じる見込み」と武田氏は話している。
また金融・決済のFinTech関連の事業については、特に楽天カードの営業利益が前年同期比37.5%増の115億円と大きく伸びるなど、こちらも好調が続いているとのこと。2019年の消費増税前に駆け込み需要があったことから、その反動に加え、コロナ禍の影響を受けたこともあり完全回復には至っていないというが、ECの親和性が高いことが功を奏し、以前の成長水準にまで回復しているとのことだ。
その楽天の成長を支えるのが、共通のIDとポイントで高いロイヤリティを醸成している独自のエコシステムだと三木谷氏は説明。KPIとなるメンバーシップバリューは今四半期時点で7.8兆円に達しており、今後これを10兆円にまで高めていきたいとしている。
一方で、今後もモバイルへの投資が続くことから、海外の事業を中心に売却・撤退も進められており、2020年には米国とドイツでのマーケットプレイス事業から撤退したとのこと。さらに投資先である米Lyftを活用したアセットファイナンスを実施することで、有利子負債を増やすことなく約7億1400万ドル(約752億円)を調達することも明らかにしている。
その楽天モバイルでの携帯電話事業に関しては、同社の代表取締役社長である山田善久氏が、最近の取り組みについて説明。9月に5Gのサービスを開始したことや、新規契約や、番号ポータビリティによる転出などの手数料を無料にする「ZERO宣言」を打ち出したこと、さらには2021年夏頃に4Gのエリアカバーを人口カバー率96%にまで広げることなどをアピールした。
また山田氏は、楽天モバイルの累計契約申込数が160万を突破したことを明かし、MVNOとして展開している楽天モバイルの事業を合わせると、約340万件の契約があるという。好調に推移している理由について三木谷氏は、完全仮想化のネットワークが想定以上に堅調に動作していること、エリアカバーが順調に拡大していること、そして楽天のエコシステムを活用したオンラインでの顧客獲得が好調であることなどを挙げる。
ただし、これはあくまでも契約申込数であり、実際の契約数とは異なる。申込数が100万契約を突破した時は、実際の契約数との乖離があったが、その理由について三木谷氏は「Rakuten miniが爆発的売れて、在庫がない時期があったことからギャップが激しかった」ためと説明。現在は大きな乖離は起きていないという。
一方で、基地局整備を当初予定の5年前倒しで進めていることから設備投資が増えていることに加え、ユーザーが増えたことでKDDIへのローミング費用が増え、コストは増加傾向にあるとのこと。ただ、現在は300万人まで1年間無料で利用できるキャンペーンを実施しているが、2021年になるとそれが終了するユーザーが増え、徐々に売上が計上されていくと山田氏は説明する。
その上で山田氏は、モバイル事業自体が売上を増やし、長期的な顧客接点を獲得できるなど、ECやFinTechと並ぶ同社の基盤となるビジネスになり得るとし、今後も力を入れていくと説明。さらに楽天モバイルの完全仮想化ネットワークを活用した、モバイル通信プラットフォーム「Rakute Communication Platform」(RCP)をグローバル展開し、国内のローカル5G事業者や海外の通信事業者、政府などに提供することでもう1つの大きな収入源にしていくとしている。
一方で、携帯電話市場ではこの四半期に大きな動きが相次いでいる。その1つとなるのが、政府による携帯電話料金引き下げの方針を受け、KDDIやソフトバンクがサブブランドで、20GBで低価格のプランを打ち出したことだ。
だが三木谷氏は、同社の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT V」がそれらより安価でデータ通信が使い放題、かつ5Gも利用できるなど優位性があることから、特に明確な対抗策を打つ方針は見せていない。政府の料金引き下げが話題になったことで「日本の携帯電話料金が高かったことがユーザーに理解され、我々にはプラスに働いている」と三木谷氏は話しており、手数料無料化などでファンを増やし、5Gに向けた新しいサービスの開発を進めることで差異化を図っていく方針を示した。
また、9月にNTTがNTTドコモの完全子会社化を打ち出したことを受け、決算発表の前日となる11月11日に、楽天モバイルをはじめとした28社が、NTTによるNTTドコモの完全子会社化に係る意見申出書を総務大臣に提出。NTTによる完全子会社が公正な競争を阻害するとして批判している。
この点について三木谷氏は、「固定回線設備は国のお金で整備してきたのだから、携帯電話事業とは分離して競争するのが、(NTTの分離・分割の)元々の趣旨だったと思う。それがリバースするなら議論が必要」と回答。オープンな場での議論を進めることで、公正競争環境の担保を求めていくとしている。
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