介護×テクノロジーで現場に即した社会実装を--日本ケアテック協会が設立

 介護現場でのデータの利活用促進や現場に即したテクノロジーの社会実装の促進などに向けて11月11日、一般社団法人日本ケアテック協会(代表理事:ウェルモ代表取締役CEO 鹿野佑介氏)が設立された。ケアテックとは「介護」と「テクノロジー」を組み合わせた造語で、在宅や施設における介護実務やマネジメント、運営業務全般など幅広い領域でAIやIoT、ICT、クラウド、ビッグデータ解析などの最先端技術、さらにそれを応用した製品やサービスを指す。

左から専務理事と事務局長を兼務する竹下康平氏、代表理事を務める鹿野佑介氏、常務理事を務める森剛士氏
左から専務理事と事務局長を兼務する竹下康平氏、代表理事を務める鹿野佑介氏、常務理事を務める森剛士氏

 代表理事を務める鹿野佑介氏は「介護現場とケアテック事業者との間の架け橋になりたい」と語る。

 「介護現場のデータの利活用促進や現場に即したテクノロジーの推進を進めていくが、なかなかテック企業と介護現場の共通の言語がなく、平行線になる状況を見てきた。両者がタッグを組んでお互いが歩み寄り、現場に必要なもの、本当に使われるものを作るための架け橋になれるような協会になりたい。また、官製市場という介護保険のバックグラウンドもあるので、国の社会保障の仕組みに対する提言などもやらなければ社会実装にまで至らない。持続可能な介護の実現を目指しつつ、社会実装にどうテクノロジーを盛り込んでいくのかを協会として発信していきたい」(鹿野代表理事)

<協会概要>

理事 代表理事:鹿野佑介(ウェルモ 代表取締役)
専務理事/事務局長:竹下康平(ビーブリッド 代表取締役)
常務理事:森剛士(ポラリス 代表取締役社長CEO)
池田紫乃(慶應義塾大医学部 医療政策・管理学 ウェルビーイングリサーチセンター 研究員(博士))
岡本茂雄(国立研究開発法人産業技術総合研究所 招聘研究員)
落合孝文(渥美坂井法律事務所 パートナー弁護士)
グスタフ・ストランデル(舞浜倶楽部 代表取締役社長)
三浦雅範(コニカミノルタQOLソリューションズ 代表取締役社⾧) 宮島俊彦 (岡山大学客員教授、日本製薬団体連合会理事長)
宮本隆史(社会福祉法人善光会 理事 最高執行責任者 統括施設局長)
山岡勝(パナソニック テクノロジー本部 スマートエイジングPJ 事業総括)
山本左近(さわらびグループ CEO/DEO)

日本ケアテック協会の活動方針
日本ケアテック協会の活動方針

 常務理事を務めるポラリス 代表取締役社長CEOの森剛士氏は「日本の介護保険制度は世界中から注目されているが、これを世界に広げるためにはテクノロジーが必要だ」と語る。

 「中小企業から大企業、大学、病院、NPO、NGOまで力を合わせて、日本の社会保障制度の持続可能性を担保するためのオープンイノベーションの仕組みだ。住み慣れた家や街で最後まで元気に過ごしていただくという介護保険の理念に見合うようにするためには、オープンイノベーションを起こさなければならないと考えて設立に至った。日本の介護保険はただのレスパイトケア(介護をしている家族が一時的に介護から離れて休息できるようにする支援のこと)じゃないかという声もあるが、自立支援×介護もしくは自立支援×テクノロジーと掛け合わせることで、日本が世界に出せる1つの大きな産業になれると思っている」(森氏)

ケアテックの標準化、調査・提言、啓発事業が柱

 事業内容は「ケアテック製品・サービスの標準化・開発支援」「調査・提言活動」「啓発事業」の3つになる。

日本ケアテック協会の事業内容
日本ケアテック協会の事業内容

 1つめの「ケアテック製品・サービスの標準化・開発支援」について、専務理事と事務局長を兼務するビーブリッド 代表取締役の竹下康平氏は主に「認証制度を作っていく」と語る。

 「介護現場には多くのソフトウェアやサービスが生まれているが、介護現場の方々からするとどういった技術がどの現場で使えるのか分からないし、サービスや製品の情報自体がそもそも少ない。ITベンダーからすると、テックベンチャーを数人で立ち上げたときに介護の現場でどういったものが必要か、あるいはどのようなサービス形態を作れば認められるか、どういうものづくりをするか、価格設定からマニュアルまで、自助努力の世界でやっている。私たちはケアテック認証制度を作り、サービスをリリースする上でのガイドラインを作り、それに従って製品が作られているかどうかを認証していく」(竹下専務理事)

 もう1つ重要なのが「フィールドボード(実証の場)」だ。

 「ベンダーサイドの悩みとしては、サービスを作ってもどこで試していくかが悩みになる。協力してくれる事業者はたくさんいるが、テックベンチャーにとってはそれを募るのも大変な労力を要する。そこで、実証の場をマッチングする機会をここで作る」(竹下専務理事)

 2つめの「調査・提言活動」については「政府に対して提案や意見交換、あるいはどういうったものがケアテック市場で広がっているかという対外的な広報活動などをする予定」(竹下専務理事)とのことだ。

 3つめの啓発事業については、IT活用の優れた介護事業者や介護従事者を表彰する「ケアテックアワード(仮称)」などを実施する。

 「厚生労働省でもすでに生産性に資するガイドラインなどが出ているが、その中でも非常に重要になるのが介護の現場の中でのテック活用の事例だ。あるサービスを使ったことでこれだけ介護の現場がよくなったといった情報が届くような交流イベントや、テクノロジーを活用して現場が改善したところを表彰するアワードなどを運営し、同業者のノウハウを学ぶような環境作りにも寄与していく予定だ」(竹下専務理事)

日本ケアテック協会の全体の構想。「協会が中核となってケアテック企業と介護事業者側をマッチングし、それを社会保障の仕組み作りにきっちり提言していくハブになるように事業を進めていく」(竹下専務理事)
日本ケアテック協会の全体の構想。「協会が中核となってケアテック企業と介護事業者側をマッチングし、それを社会保障の仕組み作りにきっちり提言していくハブになるように事業を進めていく」(竹下専務理事)

 併せて、活動を共にする会員の募集もスタートした。ケアテック事業者は年会費10万円からで、介護事業者は年会費1万円、個人会員は年会費1000円などとなっている。

会員カテゴリーと会員資格、年会費
会員カテゴリーと会員資格、年会費

 「我々がリサーチしたところ、ケアテック企業は200以上いる。目標値としては半数以上のケアテック企業には参加していただくように進めている。テック企業は国内に限らず、海外のメーカーなどにもスポットを当てていきたい。フィールドボードという事業が一つの柱になる以上、実証の場を提供していただける介護事業者の協力が必須が。こちらもケアテック企業以上に、在宅系、施設系、さまざまな領域で会員を募集するが、数百以上は集めたい」(竹下専務理事)

 介護事業者が参加するメリットについては、「フィールドボードが大きな役割を担う」と竹下専務理事は語る。

 「メーカーサイドもメリットがあるが、フィールドボードは介護事業者とケアテック企業をマッチングする場だから、お試しができる場が増える。現在の介護事業者とケアテック企業の環境で残念なのが、両者が出会うチャンスがセールスの場しかないことにある。営業活動で出会うとなると、なかなか介護事業者も本音が出しづらく、心理的にうまく進んでいかないというのが私が所属するビーブリッドサイドの意見だ。セールス以外の場で意見を出せる場を持てることで、よりフラットな目線でICTにかかわるチャンスが増えるというのが介護事業者としてはメリットではないかと思う。また、ケアテック企業のレポートを3~4カ月に1回ほど会報として出していきたい。検索サービスで探すのが難しいテクノロジーやサービスを編纂して季刊誌として発行する。介護事業者の年会費は1万円で月に800円程度なので、それに見合う情報提供をしていくというのが1つメリットだと考えている」(竹下専務理事)

 認証制度については、これから有識者を募って有識者会議を開き、その大本となるガイドラインを作っていく。

 「今年度中に有識者会議の組織を作り、来年度中にガイドラインを作る。実際にスタートできるのは今から1年半後くらいを目処に考えている」(竹下専務理事)

発表会には衆議院議員で内閣府大臣政務官の和田義明氏(写真左)も駆けつけた。「日本は少子高齢化が進んでいて2025年問題、2040年問題が目の前に迫っている。今の現状でさえ疲弊しきっている介護の現場は、手をこまねいていては状況が悪化する一方だ。AI、IoT、ICTをフルに活用して、介護の需要と人材の供給のインバランスを解消しないといけない」と和田氏は語った
発表会には衆議院議員で内閣府大臣政務官の和田義明氏(写真左)も駆けつけた。「日本は少子高齢化が進んでいて2025年問題、2040年問題が目の前に迫っている。今の現状でさえ疲弊しきっている介護の現場は、手をこまねいていては状況が悪化する一方だ。AI、IoT、ICTをフルに活用して、介護の需要と人材の供給のインバランスを解消しないといけない」と和田氏は語った

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