農林水産省、フードテック官民協議会を発足--日本の強みを生かした新市場開拓を後押し - (page 2)

フードテック研究会で見えた「4つの課題」

 このような状況を踏まえてフードテック研究会は、「日本の強みを生かして、世界に遅れをとらない研究開発の促進、投資環境、ルール形成、社会受容性について意見交換を行う」ことを目的に、2020年4月に発足した。100の参加企業・団体には、キユーピーや日本水産などの食品メーカー、ユーグレナなどのベンチャー企業、大学やJST、NEDOなど、さまざまな組織が含まれる。4月から7月にかけて全6回で、ルール形成や消費者の受容性、共創のための連携や投資環境など、さまざまな観点で官民がともに議論を進めたという。

 「これまでは、フードテックに関する民間主導のコミュニティがいくつかある一方で、官民が一同に介して対話をするオフィシャルな場がなかった。フードテック研究会では、特定の企業の課題ということではなく、業界共通の課題が何か特定することから始め、4つに整理できた」(大曲氏)

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1つ目は、フードテックでどのような社会を目指していくのか、フードテック社会実装のゴールとはどこか、消費者の理解を得るための機会確保といった「ビジョン等の共有、社会文化形成」の問題である。

2つ目は、「市場創出を促進するルール形成」。海外市場への進出を見据えたルール形成の必要性や、既存ルールと新興技術とのギャップ調査等が必要との意見があったという。

3つ目は、「先進的な研究開発の促進」。具体的には、異業種間や大手とベンチャー間の協力、フードテック分野の研究開発の促進が課題として挙げられた。

4つ目は、「資金・人材の供給体制の整備」。官民がどのようにリスクを取り合うのか、民間活力をいかに生かしていくか、ESG投資への対応などについて意見があった。

「われわれとしてはフードテックの振興にあたり、技術の強みはもちろん必要だが、それを支える制度と消費者の受容性などの社会文化のバランスを保っていくことが、社会実装を進めるうえで非常に重要だと考えている」(大曲氏)

「フードテック官民協議会」で新市場の開拓を後押し

 この研究会を発展的に解消させる形で10月に発足したのが「フードテック官民協議会」だ。「4つの課題の解決に向けて官民横断の異業種連携のプラットフォームが必要ではないか」というフードテック研究会での意見を受けたものだ。

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 フードテックの定義について、「フードテックの定義は定まっておらず、さまざまな者によって対象とする範囲に差がある。官民協議会としては生産・流通・加工・外食・消費・廃棄物/資源管理までの食に関する一連のサイクルにまつわるテクノロジーを全てフードテックとして扱っていく」(大曲氏)

 続いて大曲氏は、「たとえば流通ではロボット技術を活用した人手不足対策、外食や加工においてはスマート家電や機能性食品を活用した健康維持増進などもあると思う。さらには、冷凍技術を活用したロス削減、昆虫や微生物を活用したテクノロジーも期待される」と説明を加えた。

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 フードテック官民協議会では、フードテック研究会で特定された協調領域の課題解決の促進や、フードテック関連の新市場の開拓を目指して、「作業部会」と「コミュニティ」2つの活動を行っていく方針だ。協議会の活動においては、会員の関心領域の多様性や自主性を尊重し、「この指とまれ方式」を採用して活動を進めていくという。

 「4月から7月は、代替タンパク質に関連する方々に集まっていただいたが、代替肉の事業者と昆虫食の事業者とでは、抱える悩みはまるで違っていた。また、昆虫分野においても、人間が食べるものなのか家畜飼料用なのかによって、解決すべき課題が違う。つまり、フードテックという大きな括りの中でも、セグメントを細かくしていくと、抱えている課題や将来展望は異なっており、会員の関心領域の多様性や自主性に注意を払う必要がある」(大曲氏)

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 「作業部会(ワーキングチーム)」では、協調領域の課題解決に向け活動期間を定めて、専門的な議論を行う。たとえば事業領域ごとの共通のルールや規格の検討、消費者受容性を高めるための方策など、専門的な議論を進める場である。作業部会を立ち上げたい者が「この指止まれ方式」で仲間を募るという。官民協議会の設立時に7つのワーキングチームの立ち上げについて提案があった。例えば「2050年の食卓を見据えてフードテックのビジョンを描いていこう」というチームや、「スマート育種におけるゲノム編集を産業化するには、どのような課題と解決法があるか」を議論するチームがあるという。「今後は、例えば、政策提言のような形でアウトプットしていきたい」(大曲氏)という。

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 「コミュニティ活動」では、試食会、各社技術のピッチ会、交流会などを開いてフードテックを盛り上げる。海外への情報発信や、日本国内のフードテックカオスマップ作成なども検討中だ。大曲氏は、「より多くの方々に参加していただいてフードテックに関する関心を高めていきたい」と意欲を見せ、フードテック官民協議会への参加を呼びかけた。会員登録は個人単位で、同一組織から複数名の参加も可能、会費は無料とのことだ(ただし、イベント時には実費負担あり)。

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 コロナ禍でもオンラインをフル活用して、研究会での議論や官民協議会の立ち上げをリードしてきた農林水産省。その所感を尋ねると大曲氏は、「オンラインでの開催だったからこそ、地方の大学や研究機関からも多数参加してご意見をいただけたのは非常に良かった。アメリカからも参加いただき、現地の情報を研究会メンバーに共有していただいたこともあった」と振り返った。フードテック官民協議会の登録者数は約550人(2020年10月現在)とのことだが、多様な業種、技術、サービスを持つ事業者や研究者が集い、日本の強みを生かしたフードテックが世界で巻き返しを図ることを期待したい。

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