昨今、副業を解禁する企業は増えてきているものの、大企業での副業受け入れはほとんど前例がない。そんな中、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(以下ユニリーバ・ジャパン)では、いつでも、どこでも、誰でも同社での副業やインターンシップにチャレンジできるプラットフォーム「WAAP(Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers)」の募集を7月に開始した。発起人は、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役 人事総務本部長である島田由香氏だ。
同氏は1996年に慶応義塾大学を卒業後、日系人材エージェント会社に入社。2002年に米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士を取得し、米国系総合電機メーカーに入社。2008年にユニリーバに入社し、R&D/マーケティング/営業部門のHRパートナー、リーダシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2014年4月から現職に就任している。
2016年7月には「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という社員が働く場所・時間を自由に選べるという人事制度を実現した。「よりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」というビジョンを掲げ、その手段として取り入れられたという。その後、日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」を受賞している。
そんな島田氏に、この新たな副業募集の取り組み「WAAP」の狙いや求める人材について聞いた。
ーー新たな副業募集の取り組み「WAAP」について教えて下さい。
「WAAP」とは、「Work from Anywhere & Anytime with Parallel careers」の略で、いつでも、誰でも、どこからでもユニリーバ・ジャパンでの副業・インターンシップにチャレンジできるプラットフォームです。私たちは副業・インターンシップで活躍する人材を「パラレルキャリアン」と名付け、誰もがいきいきと働き、学び、自分らしいキャリアを培えるような社会への変化を促していきたいと思っています。
WAAPという言葉には、パラレルキャリアンがいつでも、誰でも、どこからでもチャレンジできるという意味以外にも、「最高の世界にワープしちゃえー!!!」という意味が込められています。
ユニリーバ・ジャパンのウェブサイトでジョブ(業務内容)を公開し、パラレルキャリアンを募集しています。書類・面接で選考した後、担当いただくジョブとのマッチングを行い、時間ではなく、アウトプットに対してお支払いするという手法をとっています。
ーー素晴らしい取り組みですね!具体的にどんなプロジェクトに参加できるのですか?
たとえば、ヘアケア製品の「Dove(ダヴ)」や「LUX(ラックス)」のブランドマーケティングのプロジェクトやEC、プロアキュメント(調達・購買)などがあります。募集要項には、ジョブごとに求めるスキルや週間の稼働目安時間、期間、募集人数などが記載されています。募集プロジェクトは、これからどんどん拡大していく予定です。
実際にやっていただく業務は、社内調整や社内承認をとるようなものではなく、本人の個性を活かした提案や分析などの業務となります。WAAPに応募いただく方からは、今まで弊社の中でも考えつかなかった視点をぜひ教えていただきたいと思っています。
ーーWAAPに参加することで、どのような気付きが得られますか?
WAAPに参加することで、大きく3つの気付きを得られると思っています。1つ目は、自身の持っているスキル、能力を再認識すること。2つ目は、ユニリーバの考え方の基本となる「パーパス(目的・存在意義)」を意識して行動するということ。3つ目は、WAAという働き方によるチームワークの組み方です。
ここで学んだことは、ご自身の将来のキャリアを構築する上で、大きなきっかけになるのではないかと思っています。特に、パーパスを持って仕事をすることで「何のために、誰のために取り組むのか」を意識することは今後の人生の中でもプラスになるのではないかと確信しています。
ーーなぜWAAPを立ち上げようと思ったのでしょうか。
WAAPの立ち上げに至った理由は、大きく2つあります。1つ目は、コロナの影響を大きく受けた企業や個人に対して、何かできることはないかと考えたことです。
新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃から、他の企業から「売上が落ちて社員に給与を払い続けるのが大変だ」という話を聞いたり、他企業の社員から「会社に出勤したくてもできず、給料も下がって困る」「在宅勤務で時間に余裕ができ、新しい経験を積みたいが、学びの機会がない」という話を耳にしたりしました。
一方で、ユニリーバ・ジャパンでは、産休・育休などにより空いているポジションがありますが、コロナの影響下で世界中の採用活動を少しスローダウンしているため、現在も同じ部署の他のメンバーがそのポジションの業務をカバーしている状況です。そこで、企業や個人とアライアンスを組み、空いた稼働分をユニリーバ・ジャパンで働いていただくことによって、双方がWIN-WINになる仕組みをつくりたいと思いました。
2つ目は、その人の個性に合わせた楽しい働き方を実現させる世界をつくりたいからです。ユニリーバ・ジャパンには働く時間、場所を選べるWAAがありますが、これからの時代は働く時間、場所だけではなく、“働く内容”も選べる世界に変化していくと思います。
WAAPでは、働く時間、場所だけではなく、働く内容まで自分で選択することができます。仕事とプライベートの垣根を超えて、遊ぶときのように夢中になって楽しく働き、そこで得た知識や経験を次の自分のキャリアに活かしていただきたいです。
ーーそのように考えたきっかけを教えていただいても良いでしょうか?
きっかけは、ユニリーバの働き方のビジョンに共感し、「誰もがいきいきと自分らしく働いて豊かな人生を送る」ことを目指して考動する」企業・団体・個人のネットワークである「Team WAA!」でのつながりです。その地域版である「ナニWAA」のオンライン飲み会で、大企業に勤めながら、社外でも楽しんで様々な複業をしているパラレルキャリアの方のお話をお聞きし、コロナの影響による社内外の影響を打破するための仕組みをひらめきました。そして、その約3週間後にニュースリリースまで至りました。
ーーアイデアを思いついてから、3週間後にリリースはかなりスピード感ですね。
このスピード感を実現するために一緒に動いてくれているチームメンバーには本当に感謝しかありません。なぜWAAPを実現したいのかを伝え、共感してくれたメンバーが参画してくれました。正直、すべてを完全に整えてスタートしたわけではありません。本当にスピードを優先したために、報道で取り組みを知った社員もいると思います。
今回、募集をしたマーケティングの部署も副業を受け入れた経験はありません。しかし、受け入れ部署や幹部社員にも思いを伝え、まずはスタートしてみようと賛同を得ることができました
ーー島田さんの想いの力とそれを支える周りの力があったからこそ実現できたのですね。社内外の反応はいかがでしたか?
社外の反反応は非常によく、7月17日に募集開始してから1カ月で150件を超えるの応募がありました。応募された方は、学生から60代の方、海外からの方と多岐に渡っています。またメディアからの取材依頼も多くいただいています。
社内でもポジティブに受け取られています。ニュースリリースを読んだ社員から「社会を変えている感じがする」「ユニリーバすごい」といった声もありました。スタート時に募集していた部署以外からも、自部署でパラレルキャリアンを募集したいという声もあがり、これから募集するジョブが増えていく見通しです。
ーーWAAPではどんな人材を求めていますか?
WAAPで求めていることは、“PC”だけです。PCとは、パソコン、そしてパッション&ケイパビリティ(Passion & Capability:情熱と能力)です。WAAPの選考過程ではユニリーバ・ジャパンの他の選考同様、顔写真、ファーストネーム、性別欄を排除しています。大切なのは、情熱やスキルであり、見た目や性別などは採用の判断材料にならないからです。
ーー求めていることはシンプルですが、非常に本質的ですね。最後に今までの働き方の取り組みを踏まえて、メッセージをいただけますか。
ユニリーバ・ジャパンでは、6年前からパラレルワーク制度をつくっており、約40名が申請をしています。申請した社員は、大学などの講師や起業、起業のサポート、実家の手伝いなどを行っています。また社内副業の制度として、自分が所属している部署以外ので事ができるSTAR、他の国のユニリーバの仕事がリモートでできるFLEXといった制度もあります。そして、今回の新しい取り組み“WAAP”と様々な働き方を応援する仕組みをつくってきました。
今後は社会全体の雇用のあり方が変わり、採用という定義も変わってくると思っています。その中で最も大切なことは自分という人間が自分らしくあること「Be Yourself」です。そのための第一歩が行動し、自分に気付くことです。今回のWAAPがその第一歩になるよう私たちも全力で支援させていただきます。そして、“全ての人々が自分らしくいきいきと働き、豊かに生きられる社会”をみなさまと共に創っていきたいと思います。
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