不動産クラウドファンディング最新事情--先行する米国の現状と日本で生き残る方法とは - (page 2)

小口化、ネット化による新規見込み客へのリーチが加速

巻口氏: 日本においても投資型のプレーヤーがどんどん増えてきています。この背景や最近の傾向などを、成本先生にお伺いします。

成本氏: 日本でも不動産特定共同事業法(不特法)の改正に伴って、クラウドファンディングが可能になりました。これが一つの潮目で、いまでは非常に多くの不動産会社等が、小口の不動産投資サービスを提供されています。最近の傾向では、安定的なレジデンスや需要が高まっている物流施設などに人気が出てきています。また認定保育園など、利用料だけではなく補助金が下りて、なおかつ社会的意義もあるので応援したいという気持ちを抱きやすいアセットも、継続的に人気があります。

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士の成本治男氏
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士の成本治男氏

巻口氏: 不動産クラウドファンディングのプレーヤーの変化については、どのように見ていらっしゃいますか。金融のプロの一村さんにお伺いします。

一村氏: 過去に証券では、最初に小規模な証券会社が生き残りを賭けてネット化し、それに追随して金融の経験がないIT関連の事業者が金融サービスに参入してきたという歴史がありますが、不動産の場合は事業として展開している不動産会社がクラウドファンディングを提供していること、また投資系のベンチャーやスタートアップの不動産会社がまず始められたことは特徴的ですね。さらに最近ではトーセイや、ケネディクスとNRI(野村総合研究所)が株主のビットリアルティなど、大手企業の参入も目立ちます。

巻口氏: そうですね。こうした変化については、成本先生はどのように捉えていらっしゃいますか。

成本氏: おっしゃる通り、最近では上場企業やアセットマネジメントを手がけるような企業が参入してきている印象です。狙いは、私募ファンドやリート(不動産投資信託)とは違った顧客層にリーチできることや、直接金融的なチャネルを持っておくということだと捉えています。今後も上場企業が多く参入して、バラエティある商品が出てくると、投資家は安心して参加しやすくなります。マーケットに流入するお金も増え、1回のファンドで集められる規模も大きくなると、新たなマーケットとして確立されていくという好循環になるのではないでしょうか。

巻口氏: 不動産クラウドファンディングは、それぞれの会社がそれぞれ違うセクターの商品を出しているという意味で、非常にバラエティが豊かですが、淘汰は起こりにくいと見ています。逆に、不動産という資産を担保にしているがゆえに、マーケットの変化に対する耐性が若干弱いのではないかと思っているのですが、これについて一村さんは、どのように見ていらっしゃいますか。

一村氏: アセットの種類がさまざまある一方で、ユーザーも変化してきています。現場で聞く話だと、不動産取引に精通したユーザーのほかにも、ネットサービスの1つとして投資に関わっているユーザーも相当数いらっしゃるようです。こうしたなか、例えば時価総額800億円を超えたGAテクノロジーズなど、事業をいくつも手掛けていて、その利益をクラウドファンディングに提供できるような、体力のある企業は非常に耐性が強いと見ています。

ユニコーン 代表取締役最高執行責任者の一村明博氏
ユニコーン 代表取締役最高執行責任者の一村明博氏

巻口氏: ユーザーの話が出たので、続けて一村さんにお伺いしたいのですが、ユーザーの反応はどのように変化しましたか。

一村氏: これは事実と言えるかどうか分かりませんが、日本人は投資や金融のリテラシーがあまり高くないといわれてきたなかで、最近では例えばふるさと納税の延長線上でご自身のお金の使途をGoogleなどで検索していたら、たまたまクラウドファンディングにたどり着いたというユーザーも参加してきていると聞いています。つまり、不動産クラウドファンディングをネットサービスとして捉えているという変化が起きているといえます。このように仮定すると、今後はネットマーケティングに長けた企業が伸びてくると思います。

巻口氏: 市場の認知度が高まって、リーチする先が増えてきたことも影響している気がしますね。ユーザーの反応の変化について、成本先生はいかが思われますか。

成本氏: 不動産のことは良くわからないけど上場企業が運用して3、5、7%という期待利回りがあるのなら預けておこう、不動産のプロにお任せしようという“お金の預け先”的な発想のユーザーは、増えてきていますね。いま日本では、預金の金利が異常に低く「老後2000万円問題」など先行き不安が強いため、資産形成および運用に対する意識やニーズが高まっています。しかし、不動産という裏付けがあって、優先劣後構造を採用することで元本を守りやすく、しかも小口から投資できるという商品は、これまで日本にはありませんでした。

巻口氏: 小口で安全度が比較的高い商品は、今後も裾野が広がっていくということですね。

成本氏: そうですね。一例を挙げると、プロパティエージェントがクレディセゾンと提携して、永久不滅ポイントを不動産クラウドファンディングの投資資金として利用できるスキームを構築しました。これまで投資にあまり興味のなかった方たちも、ポイントを使えるのならやってみようかということになり、一気に何万人もの会員獲得に成功したわけです。

事業戦略としての不動産クラウドファンディング

巻口氏: 日本のマーケットでもSTOや不動産トークン化の動きがありますが、昨今の動向や今後の展開について、成本先生はいかがお考えでしょうか。

成本氏: クラウドファンディングには、セカンダリー取引ができない、つまり一度投資するとファンド期間が終了するまで換金できないという弱みがあるため、ファンド期間は短くなりがちです。長くても、トーセイなどの案件で3年。こうした部分をSTOで解決できればよいですね。売りたいときに売れるというインフラが整えば、これまでより期間が長く、低利回り(しかし預金よりは高利回り)のファンドを組成できる。そのような広がりが生まれることを期待しています。

巻口氏: 個人的には、STOやトークン化によるグローバルマネーの流入を期待しているのですが、この点について成本先生はどのような意見をお持ちでしょうか。

成本氏: STOは基本的には各国において有価証券として取り扱われる可能性が高いので、海外でオファーする場合には海外各国の証券取引法を遵守し、その枠組みで取引することになります。例えば、アメリカとシンガポールのみ発行するなど、法制を踏まえた商品設計ができてくる可能性はあると思います。

巻口氏: 不動産クラウドファンディング市場には、今後どのような会社が参入してくると思いますか。

成本氏: 1つは、いますでにある流れですが、不動産会社が本業や顧客に対するメニュー提示などいろいろな目的で参入してくると思います。そして、このような流れが地方でも拡大すると見ています。もう1つは、アセットマネジメントを手がける会社が投資家に商品提供するという流れで、これも少しずつ広がってきていると思います。

巻口氏: 不動産クラウドファンディングによって、不動産市場が拡大することは、業界全体としても期待していますし、不動産クラウドファンディングを今後の生き残り戦略として捉えるさまざまなプレーヤーが参入しているということですね。とはいえ、アメリカの市場と比べると、日本のプレーヤーはまだまだ数が多くありません。今後、マーケットを拡大していくためには何が必要だと思われますか。一村さん、いかがでしょうか。

一村氏: 人気化、いわゆる「バズる」きっかけが必要なのかなと思います。例えば外国債券は、利回りは高いけれどリスクも大きい、ということであまり人気がなかったのですが「ワクチン債」という愛称をつけて、投資でもあり人助けでもあるよというPRを展開した途端にお金が集まったことがあります。

 不動産クラウドファンディングでも、目標額に対して10倍、20倍の申し込みを受け付けたうえで抽選形式をとることで、みなさんが大好きな宝くじのような演出をする企業も出てきました。これは、マーケティングの妙ですね。不動産という特殊な投資先、クラウドファンディングという新たな手法に対して、マーケティングの要素を組み合わせて展開することで、マーケット拡大の1つのきっかけになるのではないでしょうか。

巻口氏: 成本先生には、今後不動産クラウドファンディングが日本で展開していくにあたっての課題について、お伺いしたいと思います。

成本氏: よくあるご相談として、クラウドファンディング事業は儲かるのかと聞かれることがあります。単体で収益がすぐに上がるという捉え方は、課題といえるかもしれません。ただ、不動産現物取引もIT重説や書面のデジタル交付が進んできており、契約行為はおそらくオンラインで完結するという世界になるでしょう。そうしたとき、クラウドファンディングを事業化して、名前、住所、収入、本人確認手続きも済んでいるという方たちと接点を持っておけば、現物取引がすぐにできてしまう。プラットフォームという位置づけでクラウドファンディングを捉えて大局的な観点で取り組むことで、参加者ももっと増えていくのではないかと思っています。

巻口氏: いまの不動産クラウドファンディングは、あくまでスキームや仕組み自体が、ほかの商品にはないようなものが売りになっています。しかしこれからは、いろいろなクラウドファンディングの中から自分に最適な組み合わせを見つけることができるマーケットプレイスだとか、自動査定によって収益化の可能性が上がるような不動産をロボが見つけてくれるといった、テクノロジーの活用が今後の可能性として考えられるのではないでしょうか。

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